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竜人族、王国騎士団長サンムーン。
部下に厳しく一切の妥協を許さない男。
絶賛新婚半年目。
部下との訓練を終えて中庭に居るだろう嫁を迎えに行く。
「アレク」
どこにいるかと名前を呼べば歌声が聞こえてきて、導かれるように向かう。
王城に仕える使用人の子どもたちと楽しそうに歌を歌っている青年。
精霊が楽しそうに周囲にいる。
「アレクサンドラ」
名前を呼べば、声に振り返り、緑の瞳に喜びを浮かべて抱きついてくる。
人族の子、アレクサンドラ。
行動の一つ一つが可愛い我が嫁。
「今日は早く終わったんだ。一緒に帰ろう」
子供たちの不満そうな声を無視して抱き上げる。
相変わらず軽い。
人族では当然だという医者もいるが、壊しそうな軽さ。
首から下げる、銀の鱗を、もう大丈夫だろうと服の下へと入れる。
またねーと子どもたちに手を振るアレクサンドラに、子供たちは照れくさそうに手を振り返して解散する。
この国、唯一の人間であり世界でも珍しい精霊に愛された人。
人の国であれば、王族に嫁ぐことが多い存在。
それは国に定住することで精霊の加護を得やすくするためである。
だがこの国に保護された当初、現国王は既に后に一途であり、その子供たちは産まれたばかりだった。
また竜人族は人を嫌っていたため人に世に戻ることが最優先だったが彼の話を聞き、事情が変わった。
そこで彼の身を守るために特別に竜人族の王族の養子とした。
人族には生きていることすら知らされてはいない。
そして独身の中で唯一なついていた団長になったっばかりのサンムーンを婚約者とした。
そこから紆余曲折あり、半年前に結婚となった。
それが国民の知る内容。
そんな事情を知ってか知らずか我が嫁、アレクサンドラは楽しそうに見つめている。
ぽんぽんと手を叩き、意味を理解して渋々と地面に降ろせば差し出される手。
騎士よろしくその小さな手を繋いで歩く。
抱き上げるよりもご機嫌で鼻歌を歌っている。
アレクサンドラは喋らない。
喋れるが幼少の頃に受けた虐待により喋ることを未だに怖がる。
虐待のため保護した当時から笑うことはもちろん、喋ることも恐がった。
なので最近はようやくちょっとずつだが言葉を口にするようになった。
それでも言葉より歌のほうが多く、無意識で歌うこともあるので感情がわかりやすい。
ただ不機嫌になるのはご飯が美味しくないということぐらいだ。
王が顔を出すため慌てて胸に手を当てて敬礼する。
「アレク。元気だったか」
竜人族の王が破顔してアレクサンドラと視線を合わせる。
こくこくと嬉しそうに頷く姿にそうかそうかと笑う。
両陛下が溺愛しているからこそ養子となったのだが。
ちょっとだけ嫉妬してしまう。
「昨日も同じように逢ったでしょうに」
喋れない彼に変わり言葉を紡ぐ。
親馬鹿も程々にしてほしい。
だがアレクサンドラはとても嬉しそうにしている。
大好きな親だと言うのは傍目からもわかる。
「しょうがないじゃないか。アレクはたった五年しか一緒にいなかったんだぞ。子供たちだって、后だって寂しいんだからな」
「だからちゃんとお城に来ているでしょう」
もちろん、愛し子の警護のつもりもある。
一番はアレクサンドラがお城に来て使用人の子供である友達と遊びたがる。
そして王族たち、特に王子と王女が自分とアレクの結婚を反対していた。
まだ一緒に居たい。
そのため結婚を認めてもらう代わりに定期的にお城に遊びに来ることで許可を得た。
「アレク。そろそろお父様と」
会うたびに言うこと。
アレクサンドラが口を開き、すぐに口を抑えて震えだす。
未だに彼を縛る見えない鎖が纏わりついている。
もちろん、父親がいなかったと言うから慣れていないのも多いだろい。
「あぁ。愛しい子。無理しなくていいぞ」
慌てて王が頭を撫でる。
しばらく撫でられていれば震えが収まる。
それから申し訳なさそうに見つめている。
「そうだ。飴を持っていたんだ。よかったら食べなさい」
こんな時のためにと常備している差し出された飴の包みに、打って変わって嬉しそうに受け取ると笑みを零す。
やったぞ。と喜ぶ王。
「明日も来るのだよな。明日は家族で昼食をどうだ?」
はっと見上げてきてから必死に言葉を絞り出す。
握った手が握ってきて、壊れないように力を込めれば声を出す。
「あ、すは、協会、お手伝い」
僅かに恐怖に震えながらも告げて、そうかぁと残念そう。
あえて喋ったことには突っ込むのはしない。
「サンムーン。息子を頼んだぞ」
「この命に変えましても幸せにします」
毎度の返答にアレクサンドラが頬を赤らめて、腕にしがみついてくる。
この茶番も毎回しているが毎度初々しいその反応が喜ばしく思う。
部下に厳しく一切の妥協を許さない男。
絶賛新婚半年目。
部下との訓練を終えて中庭に居るだろう嫁を迎えに行く。
「アレク」
どこにいるかと名前を呼べば歌声が聞こえてきて、導かれるように向かう。
王城に仕える使用人の子どもたちと楽しそうに歌を歌っている青年。
精霊が楽しそうに周囲にいる。
「アレクサンドラ」
名前を呼べば、声に振り返り、緑の瞳に喜びを浮かべて抱きついてくる。
人族の子、アレクサンドラ。
行動の一つ一つが可愛い我が嫁。
「今日は早く終わったんだ。一緒に帰ろう」
子供たちの不満そうな声を無視して抱き上げる。
相変わらず軽い。
人族では当然だという医者もいるが、壊しそうな軽さ。
首から下げる、銀の鱗を、もう大丈夫だろうと服の下へと入れる。
またねーと子どもたちに手を振るアレクサンドラに、子供たちは照れくさそうに手を振り返して解散する。
この国、唯一の人間であり世界でも珍しい精霊に愛された人。
人の国であれば、王族に嫁ぐことが多い存在。
それは国に定住することで精霊の加護を得やすくするためである。
だがこの国に保護された当初、現国王は既に后に一途であり、その子供たちは産まれたばかりだった。
また竜人族は人を嫌っていたため人に世に戻ることが最優先だったが彼の話を聞き、事情が変わった。
そこで彼の身を守るために特別に竜人族の王族の養子とした。
人族には生きていることすら知らされてはいない。
そして独身の中で唯一なついていた団長になったっばかりのサンムーンを婚約者とした。
そこから紆余曲折あり、半年前に結婚となった。
それが国民の知る内容。
そんな事情を知ってか知らずか我が嫁、アレクサンドラは楽しそうに見つめている。
ぽんぽんと手を叩き、意味を理解して渋々と地面に降ろせば差し出される手。
騎士よろしくその小さな手を繋いで歩く。
抱き上げるよりもご機嫌で鼻歌を歌っている。
アレクサンドラは喋らない。
喋れるが幼少の頃に受けた虐待により喋ることを未だに怖がる。
虐待のため保護した当時から笑うことはもちろん、喋ることも恐がった。
なので最近はようやくちょっとずつだが言葉を口にするようになった。
それでも言葉より歌のほうが多く、無意識で歌うこともあるので感情がわかりやすい。
ただ不機嫌になるのはご飯が美味しくないということぐらいだ。
王が顔を出すため慌てて胸に手を当てて敬礼する。
「アレク。元気だったか」
竜人族の王が破顔してアレクサンドラと視線を合わせる。
こくこくと嬉しそうに頷く姿にそうかそうかと笑う。
両陛下が溺愛しているからこそ養子となったのだが。
ちょっとだけ嫉妬してしまう。
「昨日も同じように逢ったでしょうに」
喋れない彼に変わり言葉を紡ぐ。
親馬鹿も程々にしてほしい。
だがアレクサンドラはとても嬉しそうにしている。
大好きな親だと言うのは傍目からもわかる。
「しょうがないじゃないか。アレクはたった五年しか一緒にいなかったんだぞ。子供たちだって、后だって寂しいんだからな」
「だからちゃんとお城に来ているでしょう」
もちろん、愛し子の警護のつもりもある。
一番はアレクサンドラがお城に来て使用人の子供である友達と遊びたがる。
そして王族たち、特に王子と王女が自分とアレクの結婚を反対していた。
まだ一緒に居たい。
そのため結婚を認めてもらう代わりに定期的にお城に遊びに来ることで許可を得た。
「アレク。そろそろお父様と」
会うたびに言うこと。
アレクサンドラが口を開き、すぐに口を抑えて震えだす。
未だに彼を縛る見えない鎖が纏わりついている。
もちろん、父親がいなかったと言うから慣れていないのも多いだろい。
「あぁ。愛しい子。無理しなくていいぞ」
慌てて王が頭を撫でる。
しばらく撫でられていれば震えが収まる。
それから申し訳なさそうに見つめている。
「そうだ。飴を持っていたんだ。よかったら食べなさい」
こんな時のためにと常備している差し出された飴の包みに、打って変わって嬉しそうに受け取ると笑みを零す。
やったぞ。と喜ぶ王。
「明日も来るのだよな。明日は家族で昼食をどうだ?」
はっと見上げてきてから必死に言葉を絞り出す。
握った手が握ってきて、壊れないように力を込めれば声を出す。
「あ、すは、協会、お手伝い」
僅かに恐怖に震えながらも告げて、そうかぁと残念そう。
あえて喋ったことには突っ込むのはしない。
「サンムーン。息子を頼んだぞ」
「この命に変えましても幸せにします」
毎度の返答にアレクサンドラが頬を赤らめて、腕にしがみついてくる。
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