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山神の子
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こらえにしがみつき父の提案を拒否する。
「やだ。行かなぃい」
そろそろ修行の時期で、他の神のところに行くよう大神から打診されたと言う。
だが嫌だと嘆く。
家族と暮らしたい。
コダマのご飯を食べていたい。
一緒に作りたい。
詞の神と遊んでいたい。
父と山の中を見回りたい。
こらえに家具の作り方をもっと習いたい。
二人ともっとずっと一緒に過ごしたい。
宥めるように撫でるこの手が好きだから。
戸惑う父に我儘を続ける。
「らーちゃん。らーちゃんも僕と離れるの嫌だよね」
ねっと念押しして見上げるが、頬を撫でて涙の痕跡を拭ってくれるのみ。
「嫌ですが、貴方もいつかは大人になりますよね」
「修行行かなきゃ大人になれないよね。そしたら一緒だよ」
「そうなると山神様が大神様に怒られますね。貴方だって童様のように子どもたちと遊びたいと言うなら別ですが、僕達と居たいと言うならそれは難しくなるでしょうね」
「どうじてもぉ?」
離れたくないと思えば思うほど涙がこぼれ落ちる。
寂しいと思う。
涙を拭ってくれる父の手に、顔を見れば戸惑い、困ったように見てくる。
父はわからないのだろう。
当たり前のように修行に出たから。
神の子はそれが当たり前であるのだから。
だけど僕は家族がいるのに離れ離れになんてなりたくない。
「僕は貴方に必ず修行に出ろとはいいません。貴方が決めることです。ですが、どれを選ぶにしても成長するためには何かを置いていかなければなりません」
「家族捨てろっていうの?らーちゃんは僕のこと嫌いなの?」
それならと離れようとするが、しっかりと抱きとめられていて逃げれない。
何処にそんな力があるのだと思うほどにしっかりと抱きしめられている。
「大好きですよ」
満面の笑顔に嘘はない。
嘘はないからこそ心苦しい。
「だって本当はあなたを修行に出したくありませんし、大人にならず子供のままでいてほしいですよ。いつまでも甘えん坊の優しい子でいてほしいと思います」
じゃあと服を握る。
「同時にあなたが大人になって立派に旅立てるよう、成長して欲しいです。僕は人であり山神様と同じ時期に死ねるとは限りません。そしてあなたより先に死ぬでしょう」
「らーちゃん死んじゃやだぁ」
「親というのは子より早く死ぬものですよ」
この人はこういう人だ。
自分に、害や非があると、駄々をこねても、どんなに泣き叫んでも、話を聞いてくれても、良しとしない。
むしろ駄々をこねればこねるほど良しとしないのだ。
彼の話すことをしっかりと理解し、自分の意思をしっかりと伝えなければ、駄々をこねても首を縦には振ってくれない。
「だからこそ、あなたの思い描く大人の姿をみたいです」
「思い描く大人に、立派旅立てなかったら?」
「僕らの元を離れて一人で暮らせて、何時か伴侶をもらう。それだけでも十分立派な旅立ちの一つですよ」
「失敗したら?」
「それを手助けするのが僕ら親の役目です」
「そうだ。己が生きている間に失敗と成功を積み重ねてそれを教えてほしいと思って提案している」
父がそっと頭を撫でてくる。
だいぶ薄くなった傷口を覆う手袋越しの大きな手。
「それに修行先がお前にとって嫌な相手なら、己等が生きている間ならお前が逃げてこれる」
「とーさまは僕がいないほうがらーちゃんとイチャイチャできるからでしょ」
ふんとそっぽを向む。
「そんなわけ無いであろう。子も十分大事だ!」
必死に誤解を解こうとする父を無視してこらえを見る。
「そのイチャイチャって言葉誰から聞いたんですか?」
微笑むこらえに、首を捻りながら返す。
「海神」
笑顔を返せば、ほんの一瞬部屋が寒くなった気がして身震いする。
「海神が、らーちゃんと父様は相変わらずいちゃいちゃしてるって」
慌てて続ければ、溜息を零したこらえ。
「他所でそのような言葉をしてはいけませんからね」
「どうして?」
「そうですね。神へも人へもあまりよく思わない方が居ますよ。爆発しろって呪ってくる方もいますからね?」
「そうなんだ。注意する」
「それで神子様は他に何か修行で嫌なことありますか?」
「何処の誰の下に行くかわかんないから」
「それなら候補がいくつかある。森神、雷神、風神」
「風神の、姐さんやだ」
「弾いておこう」
両親を何かの本にしていると聞いてあまりいい気分はしなかった。
しかも自分が教えたことを勝手に書いていたと言う。
父は気にしていなかったので好きにできていたのだろう。
だが自分の両親なのに勝手に周囲に言いふらされるのは気分がいいものではない。
それに原因が自分だ。
止めてとお願いしても、これも将来のためと言われて、聞いてくれなかった。
落ち込んでいる自分に対して父の友人の一人、風神とこらえが動いてくれた結果、それは止まった。
なんでもこらえと風神が直接説教しに行ったとか。
こらえを連れて行ったはずの父が二人を怒らせたくない。と呟いていたのは印象深い。
他にも知っている神の名前を教えてくれる。
「あかくんのところは」
「あそこは少し前に子供が出来たからな。そっち優先だ」
「そっか」
仲良しの友達のとこではないのかと悩む。
「それではその神様のところにお邪魔してどのように生活しているか、修行するか聞いてみますか?もちろん。向こうの方々とあなたが良しとするなら。ですが」
こらえの言葉に渋々頷く。
その様子にきっぱりと告げられる。
「わかりました。あなたが望むまでは修行とやらに行くのはよしなさい。相手に失礼です。とりあえずは様子だけ見に行きましょう」
こらえの一言に、姿勢を正して頷く。
「やだ。行かなぃい」
そろそろ修行の時期で、他の神のところに行くよう大神から打診されたと言う。
だが嫌だと嘆く。
家族と暮らしたい。
コダマのご飯を食べていたい。
一緒に作りたい。
詞の神と遊んでいたい。
父と山の中を見回りたい。
こらえに家具の作り方をもっと習いたい。
二人ともっとずっと一緒に過ごしたい。
宥めるように撫でるこの手が好きだから。
戸惑う父に我儘を続ける。
「らーちゃん。らーちゃんも僕と離れるの嫌だよね」
ねっと念押しして見上げるが、頬を撫でて涙の痕跡を拭ってくれるのみ。
「嫌ですが、貴方もいつかは大人になりますよね」
「修行行かなきゃ大人になれないよね。そしたら一緒だよ」
「そうなると山神様が大神様に怒られますね。貴方だって童様のように子どもたちと遊びたいと言うなら別ですが、僕達と居たいと言うならそれは難しくなるでしょうね」
「どうじてもぉ?」
離れたくないと思えば思うほど涙がこぼれ落ちる。
寂しいと思う。
涙を拭ってくれる父の手に、顔を見れば戸惑い、困ったように見てくる。
父はわからないのだろう。
当たり前のように修行に出たから。
神の子はそれが当たり前であるのだから。
だけど僕は家族がいるのに離れ離れになんてなりたくない。
「僕は貴方に必ず修行に出ろとはいいません。貴方が決めることです。ですが、どれを選ぶにしても成長するためには何かを置いていかなければなりません」
「家族捨てろっていうの?らーちゃんは僕のこと嫌いなの?」
それならと離れようとするが、しっかりと抱きとめられていて逃げれない。
何処にそんな力があるのだと思うほどにしっかりと抱きしめられている。
「大好きですよ」
満面の笑顔に嘘はない。
嘘はないからこそ心苦しい。
「だって本当はあなたを修行に出したくありませんし、大人にならず子供のままでいてほしいですよ。いつまでも甘えん坊の優しい子でいてほしいと思います」
じゃあと服を握る。
「同時にあなたが大人になって立派に旅立てるよう、成長して欲しいです。僕は人であり山神様と同じ時期に死ねるとは限りません。そしてあなたより先に死ぬでしょう」
「らーちゃん死んじゃやだぁ」
「親というのは子より早く死ぬものですよ」
この人はこういう人だ。
自分に、害や非があると、駄々をこねても、どんなに泣き叫んでも、話を聞いてくれても、良しとしない。
むしろ駄々をこねればこねるほど良しとしないのだ。
彼の話すことをしっかりと理解し、自分の意思をしっかりと伝えなければ、駄々をこねても首を縦には振ってくれない。
「だからこそ、あなたの思い描く大人の姿をみたいです」
「思い描く大人に、立派旅立てなかったら?」
「僕らの元を離れて一人で暮らせて、何時か伴侶をもらう。それだけでも十分立派な旅立ちの一つですよ」
「失敗したら?」
「それを手助けするのが僕ら親の役目です」
「そうだ。己が生きている間に失敗と成功を積み重ねてそれを教えてほしいと思って提案している」
父がそっと頭を撫でてくる。
だいぶ薄くなった傷口を覆う手袋越しの大きな手。
「それに修行先がお前にとって嫌な相手なら、己等が生きている間ならお前が逃げてこれる」
「とーさまは僕がいないほうがらーちゃんとイチャイチャできるからでしょ」
ふんとそっぽを向む。
「そんなわけ無いであろう。子も十分大事だ!」
必死に誤解を解こうとする父を無視してこらえを見る。
「そのイチャイチャって言葉誰から聞いたんですか?」
微笑むこらえに、首を捻りながら返す。
「海神」
笑顔を返せば、ほんの一瞬部屋が寒くなった気がして身震いする。
「海神が、らーちゃんと父様は相変わらずいちゃいちゃしてるって」
慌てて続ければ、溜息を零したこらえ。
「他所でそのような言葉をしてはいけませんからね」
「どうして?」
「そうですね。神へも人へもあまりよく思わない方が居ますよ。爆発しろって呪ってくる方もいますからね?」
「そうなんだ。注意する」
「それで神子様は他に何か修行で嫌なことありますか?」
「何処の誰の下に行くかわかんないから」
「それなら候補がいくつかある。森神、雷神、風神」
「風神の、姐さんやだ」
「弾いておこう」
両親を何かの本にしていると聞いてあまりいい気分はしなかった。
しかも自分が教えたことを勝手に書いていたと言う。
父は気にしていなかったので好きにできていたのだろう。
だが自分の両親なのに勝手に周囲に言いふらされるのは気分がいいものではない。
それに原因が自分だ。
止めてとお願いしても、これも将来のためと言われて、聞いてくれなかった。
落ち込んでいる自分に対して父の友人の一人、風神とこらえが動いてくれた結果、それは止まった。
なんでもこらえと風神が直接説教しに行ったとか。
こらえを連れて行ったはずの父が二人を怒らせたくない。と呟いていたのは印象深い。
他にも知っている神の名前を教えてくれる。
「あかくんのところは」
「あそこは少し前に子供が出来たからな。そっち優先だ」
「そっか」
仲良しの友達のとこではないのかと悩む。
「それではその神様のところにお邪魔してどのように生活しているか、修行するか聞いてみますか?もちろん。向こうの方々とあなたが良しとするなら。ですが」
こらえの言葉に渋々頷く。
その様子にきっぱりと告げられる。
「わかりました。あなたが望むまでは修行とやらに行くのはよしなさい。相手に失礼です。とりあえずは様子だけ見に行きましょう」
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