精霊の神子は海人族を愛でる

林 業

文字の大きさ
上 下
7 / 13

しおりを挟む
アクアはメロパールとデートを楽しむ。
久々に同じ日に休みになったので気分転換にとメロパールが誘ってくれた。

市場はあいかわらず賑やかで特に何か買うわけでもないが、見ているだけでも楽しい。
海人族に伝わる物語が綴られた本。
海人族の伝統的な細工物。
その家に伝わる模様で作ったタペストリー。

中には精霊が気に入っているのか寛いでいるのもいる。
メロパールは気づいていないらしく示す。
「メロパール。あれ見てください。精霊が寛いでいますよ」
タペストリー上で眠っている精霊を示す。
「いないけど?」
不思議そうに聞かれているのにと見つめる。
精霊はこちらの視線に気づいたのか見つめ返してくると嬉しそうに笑う。

「でも、確かに精霊が気に入りそうな見事なタペストリーだよな」
意味を教えてくれる。
店主に断ってから嬉そうにタペストリーに触れれば精霊はじっとメロパールを見てそっぽを向く。
どうやら気に入られなかったらしい。
買うつもりはないのかメロパールは手を離している。

「それより飯だな」
嬉しそうにメロパールが手を握りあっちと示しながら向かう。
二人で些細な会話をして、時々買い食いをしながら歩く。

お腹も膨れて海へと来る。
楽しいと笑うメロパール。
その笑顔に抱き寄せる。

「もし、私に恋人や連れ合いが居たらメロパールはどうします?」
「アクアが望むところに行けばいい」
もし、どっちもを選んだら?
そう聞こうとすれば目が合う。
「相手が俺みたいな異種族を家族として受け入れてくれるなら一緒にいたいよ」
「そっか」
海人族は比較的、多夫、多妻も多いと聞く。
そういう話を聞くたびに自由だなぁと感じてしまう。
メロパールにだけ愛を注ぎたいのだが記憶を失っているので恋人がいない可能性も否めない。

最近は異種族に対する偏見も変わってきていると聞く。
だがそれも一部にすぎないともわかっている。
勇者が言えば受け入れられるが、長年染み付いた確執や、習慣は簡単には消えないだろう。
だが、勇者だけ言ってももしかしたら消されるかもしれない。
数十年前の赤目の勇者のように暗殺されるかもしれない。


ぞくりと背筋が凍る、記憶に残る知識が怖くも、悲しくも感じる。
何せ彼の妻となった聖女も、その子供も当時の勇者、つまり赤目の勇者の弟子が殺したのだと聞いている。
その孫弟子は後期から考えを変えて、今は引退させられたという噂は聞いたことある。
なんでこんな知識があるのかと悩む。

メロパールは近くにあった貝殻を拾っている。
「そうだ。明日、竜のおじさんと嫁さんが実家に来るんだって。会いたいから家に来てって言ってた」
「明日。授業があるので終わったら、行きます」
「だな」
メロパールは立ち上がり、どうする?と聞かれる。
何時もなら迷いなく一緒に帰ると言いたいところだが迷うこともあり、海を示す。
メロパールも明日の漁があるので早めに寝る必要がある。
今日はもう寝るだけだし、日が沈むのを見てからでもいいだろう。
「もうちょっと、海を見てから戻ります」
「わかった。気をつけて帰ってこいよ」
はいと笑顔を返して消えていく愛しい彼に手を振る。
それから海を見てから、振り返る。
夕日を見るとメロパールのオレンジ色の耳の愛らしさが浮かんでくる。

「この風景を綺麗だと思うので汚さないで欲しいんですよ」

メロパールは気づいていなかったらしい人の気配。

ぞろぞろと出てくる彼らによくもまぁ、海人族に気づかれなかったなぁと眺める。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

記憶の代償

槇村焔
BL
「あんたの乱れた姿がみたい」 ーダウト。 彼はとても、俺に似ている。だから、真実の言葉なんて口にできない。 そうわかっていたのに、俺は彼に抱かれてしまった。 だから、記憶がなくなったのは、その代償かもしれない。 昔書いていた記憶の代償の完結・リメイクバージョンです。 いつか完結させねばと思い、今回執筆しました。 こちらの作品は2020年BLOVEコンテストに応募した作品です

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

とある冒険者達の話

灯倉日鈴(合歓鈴)
BL
平凡な魔法使いのハーシュと、美形天才剣士のサンフォードは幼馴染。 ある日、ハーシュは冒険者パーティから追放されることになって……。 ほのぼの執着な短いお話です。

仮面の兵士と出来損ない王子

天使の輪っか
BL
姫として隣国へ嫁ぐことになった出来損ないの王子。 王子には、仮面をつけた兵士が護衛を務めていた。兵士は自ら志願して王子の護衛をしていたが、それにはある理由があった。 王子は姫として男だとばれぬように振舞うことにしようと決心した。 美しい見た目を最大限に使い結婚式に挑むが、相手の姿を見て驚愕する。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

始まりの、バレンタイン

茉莉花 香乃
BL
幼馴染の智子に、バレンタインのチョコを渡す時一緒に来てと頼まれた。その相手は俺の好きな人だった。目の前で自分の好きな相手に告白するなんて…… 他サイトにも公開しています

太陽に恋する花は口から出すには大きすぎる

きよひ
BL
片想い拗らせDK×親友を救おうと必死のDK 高校三年生の蒼井(あおい)は花吐き病を患っている。 花吐き病とは、片想いを拗らせると発症するという奇病だ。 親友の日向(ひゅうが)は蒼井の片想いの相手が自分だと知って、恋人ごっこを提案した。 両思いになるのを諦めている蒼井と、なんとしても両思いになりたい日向の行末は……。

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。

水鳴諒
BL
 目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

処理中です...