愛鳩屋烏

林 業

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そして成人

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犬飼は筑前煮を飲み込んで頷く。
「いつものことだな。なんだかんだで一番付き合い長いしな」
「というかポチはなんでうちでご飯食ってるんだ?全ッ然。楽しくないんだけど」
そう言いながらもおかわりを渡すカラス。
「非番なのに家の冷蔵庫に何もなくて、買い物に出かけたらタナカに誘われたんだよ」
「お前実家戻ればいいじゃん」
「仕事が立て込んでたんだよ。署から遠い」
そう言いながらもおかわりを用意するカラス。
「そういや。タナカ。お前。従兄弟と付き合うんじゃなかったのか?」
「は?」
タナカの目付きが虚ろな物へと変化する。
「なんであいつと付き合わなきゃなんないだよ。記憶失って偏頭痛の原因作ったのあいつなのに」
「それは覚えてるんだ」
カラスは聞こえないよう呟く。


「そういえばよく頭痛くなるって聞いていたが、今もか?」
「まぁ、たまに。でも、しょうがないことだし」
犬飼は心配そうに見てから続ける。

「お前の件は示談で終わったことだし俺が言うことでもないか」
「まぁ、おじさんおばさんが土下座して一度だけチャンスをくれって言われたからさ」
「ま、さすがの親も今回は縁を切ったみたいだな」
「今回?」
「どうやら、ツバメさんを襲ったのがお前の従兄弟だって話だな」
「またあのクソガキか!」
カラスが呟き、慌てて自身の口を塞ぐ。
タナカが口を押さえて視線を逸らすカラスを見る。
「知ってる系?」
「色々と」
「お前が事故にあったって聞いてブチ切れて、探してたんだけど、うっかりミスで手首切っ一時中断してたら被害届なくなったんだよな」
「え!それ大丈夫なのか!」
「とりあえずポチ。なんで言うんだよ」
「そりゃあ、お前、おばさんが俺に電話してきて、タナカ君っていい子ってひたすら言い続けて色々とタナカに話していい反応するって聞いて、俺も話したくなった」
カラスの親でありながら、犬飼の息子と連絡を取り合う仲なのかとカラスを見る。
「まぁ、親同士も仲良しだし。オオカミさん。後で何聞いたか詳しく教えてください」
「いいけど、結構あれな話も」
「ほんと後でいいから教えて」
色々と沽券に関わりそうだとカラスは額を抑える。



「にしても、そういう事件のあらまし教えていいんですか?先輩」
「教えないと勝手に暴走してお前のいとこ半殺しにして警察署に放り込んできそうなやつだから。カラス。場所わかったらまず連絡してこいよ」
「そういう約束だもんな」
カラスはしょうがないよねと笑う。
「カラスってなんでカラスなんだ?ヒサヨシでクロウって読めるって意味なら」
「正直、カラスっていうかクロウっていうのはあだ名でさ。幼少期のいじめっ子が陰険カラスとか、苦労人。とか虐めてくるから」
「から?」
「あえてカラスって名乗って、お前の目玉、突っつくぞ。耳を噛みちぎる。お前の体を仲間と巣穴の持ち込んで食い散らかす。的な話を何度も何度も突っかかってくるたびに話した」
「虐め、ひどくならなかったのか?」
「グロイの嫌いな子って知ってたからさ。で、結局家族以外カラスって根付いちゃった。訂正するのも面倒だし」
「じゃあ、やめたほうがいいのか?」
「別に気にしてないから気にせず呼んでよ。気にしてたら変えてるし」
「そっか。ってことは烏好きなのか?」
「むしろ嫌いかな?」
本当にこの人はなんでそんなあだ名を名乗っているんだろうかとタナカは言葉に詰まる。

「お前のそういうところが親と会話が成り立たない理由だって気づけ」
犬飼は呆れたように助言をすると食べ終わった食器を片付け始める。
「気づけたところで治らないんだよ。どんなに頑張っても苦手なものがあるように、俺の他人や親と噛み合わない思考を修正しようとしても、その前に負荷がかかりすぎて、体調崩す」
「俺は別にお前の思考は嫌いじゃないけどな。タナカはどうなんだ?」
「え?」
行き成り投げられて、驚く。
「これの本質は、さっきみたいにクソガキって言えるような人間だ。それでも一緒に居たいと思えるのか。ってこと」
「先輩先輩。性格云々はともかくですね」
「うん?」
「顔いいんっすよ」
「え。あ、まぁ、男の俺から見てもそうだなと言えるが」
「それに色々と家事とか、偏頭痛のサポートとかしてくれるんですよ」
「豆なやつだしな」
「正直、今のところは性格ぐらいで付き合うのをやめるのは惜しいと思ってます」
納得したと犬飼はカラスを見る。
自分にも聞くかと身構えているが、再びタナカに視線を戻す。
「確かに性格はともかく、稼ぎもいいし良物件か」
「それでもお前は友人なのか?そしてなんで聞かないんだ」
カラスが不満をぶつけるが犬飼は洗い終わったお皿を水切りカゴに入れる。
「お前が自分の範囲内に人入れたなら大切なのは理解しているから聞くまでもない」
「カラスの性格も別に嫌いじゃないですから」
タナカは照れ臭そうに笑い、犬飼はカラスを見る。
「良かったな。俺タナカがすっげぇ、聖人に見えた」
「今の受け答えで!」
「オオカミさん。ポチはタイプなの!」
「いや。俺ガチムチは服に隠れて着痩せして脱ぐときに気づくのが好きだし、優しい模範的な先輩だから尊敬をしているだけだ」
「なーんだ。びっくりした」
「お前俺が異性愛者ってわかってて言ってるだろ」
「人間いつ誰に恋するなんてわからないから」
「タナカ。やっぱりこいつ止めとけ。先輩としての助言だ」
「オオカミさんには好かれる努力してるもんね」

二人の言い合いにタナカは仲良しだと眺める。
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