愛鳩屋烏

林 業

文字の大きさ
上 下
37 / 42
そして成人

9

しおりを挟む
カラスは水族館で魚を眺める。
青く澄んだ色に、静かな空間。
「うん。悪くない」
頷くカラスにタナカは周囲の目を気にしながらも一緒に回る。
「ちなみに、どうやって小説に使うんだ」
「お楽しみに。と言いたいところだけど、単純にこういう場所でのデートとか、それに類ずる職業の人物にしたいから空気を味わうことにしている」
それは次の作品が楽しみだとタナカは喜ぶ。
「場合によっては没だ。今はまだ文にするほど想像力が沸き立たない」
「締め切りとかって大丈夫なのか?」
「物語を綴るのは早い方だよ。ただパソコン入力が苦手なんだ。目の疲労的なあれで」
「あぁ。機械画面をあまり見たくないってやつな」
「そーそ。って言っている側から」
水族館の案内なのか画面を見る。


「田中君やってみる?いくつか質問に答えると魚を適当に見繕ってコラージュ作品作ってくれるって」
「カラスは?」
「出来るなら画面を見たくない。車の運転あるし、何より田中君を見ていたいな」
「とりあえずやってみるか」
男前がさらに男前になったが、タナカはなんかムカつくと画面を見てやってみる。

「うわ。チョウチンアンコウ。あ。カラス。俺が質問口にするからそれで答えたらいいんじゃね?」
「出来るなら、写真取るときですら画面を見たくない。目を閉じて取っていいなら」
「よし。次行こうか」
「ごめんな」
申し訳なさそうなカラスに無理強いしすぎたと反省する。
周囲を見るがあまりこちらを見てはいない。
それこそ手を繋いだりしなければ問題ないだろう。
それはそれで少し寂しい。

「そういえば、大学のときさ、異性と仲良くしてたんだけど。勉強とか色々とあってさ」
いきなりなんだと眺める。
「俺、マルシェっていう、フリーマーケットみたいなところに遊びに言ったんだけど、その後女子に呼び出しくらってたからその後電話して。そしたらその子に「私を誘ってよ」って言われたんだよね。思わず「なんで?」って聞いたんだけど、答えてくれなかったんだ。俺は一人で行きたくて行ったんだけど。あれなんだろうね」
「その子とは今も?」
「いや?高校の頃から気になってる子がいるって返したらそっから関わってこなくなったね。良かったような、疑問が晴れず困って良くないような」
なんとなく。
何となくその子の考えはわかる。
きっとカラスのことを好きだったのだろう。
顔がいいとか、もてそうとか、カラスを見ていてそう思ってしまう。
「カラスは一人で行動するのが好きなのか?」
「だね。中学卒業するまでは他人と考えを合わせれなかったから余計。大学ぐらいではだいぶ合わせれたけどやっぱり時折一人でパーっとしたい時があったんだよね」
タナカと出会ってから大分丸くなったんだけど。とカラスは思うだけに留める。
流石に口にするのは気恥ずかしい。
「お、俺といるのも負担か?」
「負担だったら一緒にすごそうなんて思ってないって」
「一人になりたいとか」
「そのときは言うし、タナカ君も言ってください。それこそタナカ君こそ一人の時間あんまりないんだからその時は言ってね」
「あ、ありがとう」
とはいえ、喧嘩したときに大抵カラスは家を出るし、休みの日もなんだかんだで最低でも三十分は一人になれるので別に困ったことはない。

「むしろ、家事とかやってもらって申し訳ないと思ってる」
「タナカ君が美味しいって顔しながら食べるのを、見るの楽しみだけど?ご褒美と思ってる」
「えっと、変わってるって言われない?」
「言われるけど、これに関してはタナカ君だから言えることだからね。ポチが食べても、別に嬉しいとは思わないからさ」
「犬飼先輩、ちょっと可哀想になってきた」
「いつものことさ」
カラスはそれよりと先を示す。
しおりを挟む

処理中です...