愛鳩屋烏

林 業

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そして成人

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タナカは近所の公園でお弁当を口に運ぶ。
犬飼が家に来て、カラスとは中学時代からの知り合いだと聞いて。
しかしさっぱり思い出せない。

正直に話せば、じゃあ、そのうちでいいよ。と軽く言われた。

「やっぱ昔の俺のほうがいいのかな」
盛大な溜め息に、背後から足音。
なんだろうと振り返れば犬飼がいる。
「犬飼、先輩」
記憶が不完全なのもあって慣れないと思いつつも声をかける。
「おう。どうした?」
「先輩こそ」
「哀愁漂わせる後輩を見つけたから様子を見に来た」
「すいません」
ぴしりとしたスーツ姿に、似合うと眺める。
「カラスとなんかあったのか?」
「いや。まぁ。色々とありすぎて。なんで名前とか職業教えてくれないんだろうか。とか、記憶ないよりあったほうがいいのか。とか」
出すつもりのなかった愚痴にあぁ、と犬飼は同情の眼差しを向けてくる。
「名前等を教えないのは恥ずかしいからって言ってたぞ。聞けば理解するんじゃないか?」
「カラスが恥ずかしがることあるんですかね」
「それは俺も、それは心から思うがそれ言うと後で怒るから言うなよ」
「はぁ」
必死に言われるが優しいカラスしか知らないので悩む。
「あぁ。お前いると機嫌いいからな。で、あいつ家でタバコ吸ってるのか?」
「そうみたいですね」
「みたい?」
「俺の前じゃ吸わないみたいでたまたま1回見ただけなんで」
「あぁ。そうか。じゃあついでにあいつに渡しといてくれ」
リボンのかかった箱に首を捻る。
「なんっすか」
しばらく眺めて額を覆うと一言。
「あいつ」
「え?」
「来週の頭あいつの誕生日だからな。俺は明日から仕事あるんだよ。立て込んでるからついでに渡しといてくれ」
「たん、たんじょ」
「知らなかったのか?」
「いや。色々と考え込みすぎて忘れてました」
犬飼は不憫だと眺める。
「俺のは電子タバコだからな。あいつの姉、ツバメさんはネクタイと付属品贈るって言ってたぞ」
助言がてら、被らないようにと教えてくれる。
いい先輩だと感謝する。
「ネクタイか。めったにつけてないしな」
「窮屈だって嫌がるからなぁ。ツバメさんはもうちょっと着てほしいらしいけどな」
「そういうもんなんですね」
「これ以上言うと俺が怒られる。そうだ。タナカ」
「はい」
「これ俺の連絡先な」
メモに連絡先を書いて渡してくる。
「この間はなんだかんだでバタバタしてたのもあるが。今度借りてた漫画返しに行くからな。お前の事故とかぶって返せなかったしな。なんか、特にカラスで困ったら連絡してこい。すぐに出れないかもしれないけど折り返す」
「ありがとうございます」
「おう。お前ぐらいだからな。当時俺に怖がらず近づいたのは。感謝してんだよ」
「いや。だって、先輩」
何かきっかけがあった気がするのだが思い出せない。
何だったっけと悩む。
ただ先輩が好みで近づいたとかではないことは確かである。

「じゃあ、思い出したら教えてくれ」
笑顔で去っていく。
「とりあえずカラスのプレゼント。どうするかな」
どうしようと悩み抜きながら仕事をすすめる。



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