愛鳩屋烏

林 業

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社会人

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のんびりと煙が空を漂うのを眺める。
ふっと息を吐き出せば煙があらぬ方向へと動く。
それを目で追いつつ時間を潰す。
「何やってんだ。お前は」
呆れたように幼馴染みが来る。
身長は二百は届きそうな長身に、何らかのスポーツをやっているのか筋肉がついていてしっかりと身は引き締まっている。
犬飼智晃。
チアキなどと可愛らしい女子をイメージするような名前だが、遠く離れた見た目のいかつい男。
「おう。ポチ。待ってたよ」
片手を振りながら返事をすれば呆れ顔。
ポケットに手を入れて、それを取り出す前に自分の携帯灰皿に入れる。
「お前同棲相手に嫌がられないのか?」
ポケットに手を入れるのをやめてタバコを見てくる。
「君もご存知の通り、嫌われるだろうけどね。目の前で吸ってないし」
むしろ癖になると言われたというのは飲み込む。
「それだけじゃない。他人のあだ名を勝手につけて呼ぶ癖だよ。ポチはやめろつったよな。カラス」
「いいじゃん。二代目の警察で、別名、国家権力の犬だし、名前が犬飼。だしさ」
「言っても無駄ってのはわかってるけどな。町中で呼ぶんじゃねぇよ」
「はいはい。アキ君。犬飼のおじさんの誕プレ買いに行きますか」
睨む瞳に凄みはあるのだが、慣れたもので軽く受け流す。
「アキ君はなんか考えある?」
「ない!」
「潔すぎる。毎年俺が考えてるんだからさ」
言ってからそういえばセンスなかったと思い出す。

「っていうかお前の同棲相手。俺も知っているやつなのか?」
「知ってるでしょ」
検討をつけている店に入って選んでいく。


「あ。そうだ。せっかくだから、そこのコーヒーショップの新商品買っていい?」
「あぁ。外で待ってるな」
「はーい」
中に入って二人分購入して出る。
「はいどうぞ。ストロベリーチョコレートチップマンゴーソースクリームマシマシクッキー入りフラペチーノ。ハートチップマシマシ」
「よし。お前んちのほうが近いな。そこで飲むぞ」
可愛らしい雰囲気のフラペチーノを向ければ職質されると本気で言われ、渋々帰宅する。

「そういうのも見てみたかったけどねぇ」
遠慮なく飲みながら告げれば、やめろと睨まれる。
「何が楽しくて同職に職質されなければいけないんだ?」
「あ」
マンション入口にて帰ろうとしているタナカに気づく。
「おおかみさーん」
タナカが振り返り、そしてぎょっとした目で二人を見ると告げる。
「えっと、お友達?」
「そっ。彼が噂のポチ。犬飼」
「あ、はじ」
「お前の相手、田中だったのか?」

驚いたように犬飼が田中を示す。
「えっと」
「おおかみさんと同じ中学の先輩に当たります」
「あ、そうなんですね」
田中は額を押さえている。

とりあえず中に入るかと促す。
家で可愛らしいドリンクを飲む犬飼に、そんな姿を姉さんに送ろうと写真を撮って姉に送るカラス。
姉からはギャップ萌えと返ってくる。

「今まで田中に何度か連絡取ろうとして、取れなかったんだ」
「なんでまた」
カラスは飲む?と飲み物をタナカに向けるがタナカは断っている。
「貸しててもらってた漫画等の娯楽品の返却。今度持ってくるか」
「あ、えーっと。すいません。事故にあって中学校一年までの記憶があんまりなくて。その上、当時のケータイも巻き込まれて粉々になってて」
「あぁ。そうか。じゃあ、しょうがないな」
カラスは首を捻る。
「そもそもの話、オオカミさんってどこまで覚えてるの?たまに昔の話はするよね。親御さんとかは?」
「あぁ。両親とかはなんとなくわかるんだよ。こう、うろ覚えだけど、この人たちが親だったな。ぐらい。完全記憶喪失ってわけじゃなくてところどころ記憶から喪失してて、それが八割ぐらい消えてるって感じ。この人はあの人だったな。ってわかる程度。そこまで親しくないとわからない。で、時間と共に風化していっている感じかな」
「記憶って思いだしたらぱーっと全部思い出すもんじゃないの?」
カラスが飲み物を飲みながら聞いてくる。
「そうでもないなー。先輩って聞いても」
「そうか。いぬかい、ちあきだ。二個年上で柔道部で一緒だったんだが」
「柔道、あ、あのヤクザと関わりのあるっていう噂のあった先輩」
タナカは額を押さえる。
「その噂もポチのお父さんの顔が怖いのが原因だったんだけどね」
「うっせぇな。元警官だつっても誰も信用しなかっただけだ」
「ポチは一応警官なんだよ」
「一応は余計だ」
「一応変なこと起こったらポチに相談するといいよなんだかんだで正義感の塊の人だから」
満面の笑顔に、タナカは犬飼を見る。
犬飼は可愛らしい飲み物を飲んでおり、ギャップ萌えとはこういうことかと胸が熱くなる。
「それで彼女に振られてるんだからしょうもないけどねぇ」
カラスが楽しそうに笑って、犬飼に睨まれている。
「俺、私と仕事どっちが大事なのって言葉聞いたの初めてだったよよ」
どこか見覚えのある空気に額を押さえる。
「カラスも同じ中学校だったのか?」
痛みそうな頭を抑えつつ聞けば、カラスは微笑む。

「思い出した?」

返答に驚いてカラスを見つめる。



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