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社会人
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映画を借りて家で流す。
だが映画も佳境に差し掛かった辺りでお酒が完全に回ったのか眠ってしまうタナカ。
肩に寄りかかって眠るタナカに頭を撫でる。
「おおかみさーん。無防備だぞ。襲っちゃうぞ」
「そんな、からす、も、すき」
嬉しそうに寝言を告げてくる。
カラスは言葉にならない呻きを呟いて、しかし眠る顔に、何もできずにベッドへと運ぶ。
起こさぬようベッドへと寝かせる。
気持ちの良さそうな寝息に頬を突けばうめき声を出しながらもそのまま。
これも惚れた弱みかと眺めていれば携帯が震える。
映画を見る前に音を消したのを思い出してポケットから出す。
相手を確認して、無視できないと判断すると携帯を片手に書斎へと向かう。
ドアを締めてすぐに電話を取る。
「何?姉さん」
「あら。とんだ物言いね」
楽しそうに笑う声にいつもの事だと続ける。
「はいはい。なにか用事?」
「あんたが馬鹿なことしてないかの確認よ」
「左様で」
「それとお願いがあってね」
「お願い」
繰り返しつつ嫌だと言わずとも思ってしまう。
「そうなの。受けてね」
「姉さん。色々と言いたいけど、半強制じゃない?それ」
呆れながら机にあったペンと紙を取る。
「貴方ならまず断らないでしょう。私の子供たちと遊んでほしいの」
「遊ぶって、最近は家に来ないから友達同士で遊んでるんじゃないの?小学生でしょうに。姉さんたちだって仕事があるとはいえきちんと」
「そのつもりだったんだけど、どうしてもその日、私も旦那も外せなくてね。あの子達の大好きなキャラのイベントがあるんですって」
「俺に連れて行けと?」
なんのイベントで、何処でするのかは把握している。
かわいい甥っ子と姪っ子がハマっているものだから知りたいと色々と調べた。
そして近日のイベントといえば大型のテーマーパークで行われるショー。
「言ってくれるなら、子供たちと貴方、連れも含めて四人までならチケットこっちで持つわよ」
「姉さん。俺人混み苦手なんですけど?」
「とりあえず誘惑しなさそうな格好はこっちで見繕ってあげる」
「人酔いは!」
「あんた、そこまで人混み苦手じゃないでしょうが。悪化していても子どもたちなら対処方法わかってるから好きにしなさい」
「恋人連れて行ってやる」
「あんたの性癖なんて子供たちはとっくの昔に知っているから問題ないわよ。っていうか、むしろ、バレないと思ってたの?」
姉からの衝撃発言にぐさりと心に突き刺さる。
嘘だろうと言う前に姉が笑う。
「あんたの家から帰ってきた四歳のあの子達からいきなり、おじさんって男も人好きなの?って聞かれたときのわたしと旦那と顔、あんぐりだったわよ。どう説明しようか悩んだわよ」
あの子達が四歳の頃に何かしたかと悩む。
あの当時は、カラスの母の手助けと、姉が体調を崩して仕事を求職した年。
なので会っていたのは一ヶ月に一回程度だった気がする。
一月は年末年始の挨拶で会ってお年玉。
二月はバレンタインデーのチョコくれて。
三月はひな祭りは姪が可愛い衣装を見せてくれた。
四月は、幼稚園の新学期の準備のために姉の手伝い
五月は子供の日で、甥っ子が楽しそうにしていた。
六月は久々にアパートに来て。
そうだ。初恋の話になって、言葉を濁したはずだが。
なのになんでわかったんだろうか。
「で、なんて説明したの?」
「とりあえず男が好きというよりは、性別関係なくその人物の心意気を好きになった。あんたは普通から遺脱した、変人だから。とだけ言っておいたわ」
確かにタナカの素直な部分や、面白い部分を気に入ってから恋愛に発展したが。
「姉さん。最後の一文いらないです」
「他の同棲の恋愛は知らないけどあんたは変人だから、あの子達にはそれでいいの。むしろ納得してたのよ」
あの子達の中で俺は普通じゃないのかと改めて辛く感じる。
「普通じゃなかったらいいのかよ」
「そもそも、平均的な普通であれば、絵に書いたようないい親との折り合いそこまで悪くないし、両親と暮らすのが無理と判断されてポチ君の家で居候するなんてこともないのよ」
どんどん突き刺さっていく言葉の棘に、椅子に座り、タバコを手に取る。
頭が回転して姉をやり込めようとするのをタバコで打ち消すため。
だが姉は続ける。
「ま、私も旦那も子どもたちも、あんたがあんたで、大切に想えるからちゃんと一緒にいるってこと肝に銘じなさいよ」
姉の言葉に照れくさくなって加えようとしていたタバコを置いて顔を手で覆う。
これが飴と鞭かと溜息を零す。
「姉さん。いきなりデレるとか止めてくんないかな」
「ま、ともかくとして今度の約束お願いね」
「とりあえず検討してみるよ」
「後父さんたちに誕生日とか父母の記念日で花とか送るのはいいけど送り主カラスにするんじゃないわよ。両親、意味わかってなくて首ひねってたわよ」
「だって姉さんが送れって言うからやったのに。家に送り状持って帰らなきゃいけなかったから、オオカミさんにバレるよりはとカラスにしたのに」
「そういうところが父さんたちと意見が合わないのよ。なんで恋人のために秘密主義を貫くのよ」
そのまま別れを告げて通話を終える。
タバコを手に取り、口に当てようとしてやはりと箱に戻す。
それからタナカのいる寝室へと向かう。
だが映画も佳境に差し掛かった辺りでお酒が完全に回ったのか眠ってしまうタナカ。
肩に寄りかかって眠るタナカに頭を撫でる。
「おおかみさーん。無防備だぞ。襲っちゃうぞ」
「そんな、からす、も、すき」
嬉しそうに寝言を告げてくる。
カラスは言葉にならない呻きを呟いて、しかし眠る顔に、何もできずにベッドへと運ぶ。
起こさぬようベッドへと寝かせる。
気持ちの良さそうな寝息に頬を突けばうめき声を出しながらもそのまま。
これも惚れた弱みかと眺めていれば携帯が震える。
映画を見る前に音を消したのを思い出してポケットから出す。
相手を確認して、無視できないと判断すると携帯を片手に書斎へと向かう。
ドアを締めてすぐに電話を取る。
「何?姉さん」
「あら。とんだ物言いね」
楽しそうに笑う声にいつもの事だと続ける。
「はいはい。なにか用事?」
「あんたが馬鹿なことしてないかの確認よ」
「左様で」
「それとお願いがあってね」
「お願い」
繰り返しつつ嫌だと言わずとも思ってしまう。
「そうなの。受けてね」
「姉さん。色々と言いたいけど、半強制じゃない?それ」
呆れながら机にあったペンと紙を取る。
「貴方ならまず断らないでしょう。私の子供たちと遊んでほしいの」
「遊ぶって、最近は家に来ないから友達同士で遊んでるんじゃないの?小学生でしょうに。姉さんたちだって仕事があるとはいえきちんと」
「そのつもりだったんだけど、どうしてもその日、私も旦那も外せなくてね。あの子達の大好きなキャラのイベントがあるんですって」
「俺に連れて行けと?」
なんのイベントで、何処でするのかは把握している。
かわいい甥っ子と姪っ子がハマっているものだから知りたいと色々と調べた。
そして近日のイベントといえば大型のテーマーパークで行われるショー。
「言ってくれるなら、子供たちと貴方、連れも含めて四人までならチケットこっちで持つわよ」
「姉さん。俺人混み苦手なんですけど?」
「とりあえず誘惑しなさそうな格好はこっちで見繕ってあげる」
「人酔いは!」
「あんた、そこまで人混み苦手じゃないでしょうが。悪化していても子どもたちなら対処方法わかってるから好きにしなさい」
「恋人連れて行ってやる」
「あんたの性癖なんて子供たちはとっくの昔に知っているから問題ないわよ。っていうか、むしろ、バレないと思ってたの?」
姉からの衝撃発言にぐさりと心に突き刺さる。
嘘だろうと言う前に姉が笑う。
「あんたの家から帰ってきた四歳のあの子達からいきなり、おじさんって男も人好きなの?って聞かれたときのわたしと旦那と顔、あんぐりだったわよ。どう説明しようか悩んだわよ」
あの子達が四歳の頃に何かしたかと悩む。
あの当時は、カラスの母の手助けと、姉が体調を崩して仕事を求職した年。
なので会っていたのは一ヶ月に一回程度だった気がする。
一月は年末年始の挨拶で会ってお年玉。
二月はバレンタインデーのチョコくれて。
三月はひな祭りは姪が可愛い衣装を見せてくれた。
四月は、幼稚園の新学期の準備のために姉の手伝い
五月は子供の日で、甥っ子が楽しそうにしていた。
六月は久々にアパートに来て。
そうだ。初恋の話になって、言葉を濁したはずだが。
なのになんでわかったんだろうか。
「で、なんて説明したの?」
「とりあえず男が好きというよりは、性別関係なくその人物の心意気を好きになった。あんたは普通から遺脱した、変人だから。とだけ言っておいたわ」
確かにタナカの素直な部分や、面白い部分を気に入ってから恋愛に発展したが。
「姉さん。最後の一文いらないです」
「他の同棲の恋愛は知らないけどあんたは変人だから、あの子達にはそれでいいの。むしろ納得してたのよ」
あの子達の中で俺は普通じゃないのかと改めて辛く感じる。
「普通じゃなかったらいいのかよ」
「そもそも、平均的な普通であれば、絵に書いたようないい親との折り合いそこまで悪くないし、両親と暮らすのが無理と判断されてポチ君の家で居候するなんてこともないのよ」
どんどん突き刺さっていく言葉の棘に、椅子に座り、タバコを手に取る。
頭が回転して姉をやり込めようとするのをタバコで打ち消すため。
だが姉は続ける。
「ま、私も旦那も子どもたちも、あんたがあんたで、大切に想えるからちゃんと一緒にいるってこと肝に銘じなさいよ」
姉の言葉に照れくさくなって加えようとしていたタバコを置いて顔を手で覆う。
これが飴と鞭かと溜息を零す。
「姉さん。いきなりデレるとか止めてくんないかな」
「ま、ともかくとして今度の約束お願いね」
「とりあえず検討してみるよ」
「後父さんたちに誕生日とか父母の記念日で花とか送るのはいいけど送り主カラスにするんじゃないわよ。両親、意味わかってなくて首ひねってたわよ」
「だって姉さんが送れって言うからやったのに。家に送り状持って帰らなきゃいけなかったから、オオカミさんにバレるよりはとカラスにしたのに」
「そういうところが父さんたちと意見が合わないのよ。なんで恋人のために秘密主義を貫くのよ」
そのまま別れを告げて通話を終える。
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それからタナカのいる寝室へと向かう。
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