愛鳩屋烏

林 業

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社会人

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目を覚まして、暗い部屋に気付く。
頭痛は収まっており、近くにある水を飲む。
一緒にあった薬は鎮痛剤なのだがお腹が空きすぎて胃が痛い。
体を起こして、近くにあった上着を羽織るとリビングに向かう。
生理的反応で訪れた尿意に気づいてトイレに寄るのを忘れない。
リビングに出れば本を読んでいるカラスに気付く。
相変わらず顔がいいというかかっこいいというか。

まさに惚れたら負けな相手。

カラスは一度こちらを見て本に目を戻し、それから栞を挟んで机に置くと近づいてくる。
「おはよう。オオカミさん」
「おはよう。心配かけて悪かった」
「いえいえ。なにか食べる?と言っても、シチューしか今すぐには用意できないけど」
「うん。食べる」
何でもいいからお腹に入れたいと頷けば座っててと言われて椅子に座る。

不意に台所から漂ってくる匂いにいい香りと匂いに身を任せる。
数分もしないうちに出てきたシチューに手を合わでてから口に運ぶ。

とろりとした濃厚ミルクのソース。
切り刻まれた野菜はほくほくと湯気立ち、口に入れるとアイ
スでも入れたのかのごとく溶けるように消えていく。
ほとんど舌だけで潰せるほど美味しく煮込まれた野菜を口に運ぶ。
仕事と頭痛に悩まされていたのが嘘のように一口。
味わうように食べる。
そして飲み込めば喉を通り、胃へと到達する。

通った喉に感じる名残惜しい熱。
お腹の中でも未だに熱を発する野菜たち。
美味しいと溜息がこぼれ落ちる。
美味しいと零せばカラスは嬉しそうである。

食べ終わって食器を片付ける。
小鍋に残ったシチューは小分けし、タッパに入れて冷凍している。
「明日休みだから映画とか借りてこようと思ったのに」
「んじゃあ、今から行く?まだ十時前だし今から行けば選ぶ時間ぐらいはあるだろ?」
「んー」
下手に動いて折角好意的な上司に見つかるのも怖い。
今日はゆっくりすべきだろう。
だが僅かながらのデートも捨てがたい。
「もしくは、明日の朝早起きしてカフェでご飯食べてショップ寄って、ご飯食べて、それから家でのんびりするってのはどう?」
デートだと心中で喜び、行くと叫ぶ。


付き合い当初はデートに憧れはあったがしたことはない。
なんせ好きになる対象が同性。
流石にデートし辛い。

しかしそんな印象もカラスと付き合い始めて緩和しており、たまに出掛けるようになった。

ただカラスはほとんど外に出ないのを知っている。
色々と被害にあったのを思えばそれもそうかとも納得できる。
だから自分を、喜ばせるためにお出かけしてくれている。
そう思うと嬉しさ反面、申し訳無さもある。

流石にテーマパークとかまではないが。
「明日が楽しみだな」
笑顔を向ければ優しげに微笑むカラス。
カラスと見つめあい、キスを。と顔を近づけようとして携帯が鳴り響く。

「出ないのか?」
「この音はポチだな。別にいいんじゃないかな」
満面の笑顔で、名前だけは名前だけはよく聞く幼馴染に対して辛辣なカラス。
「出てこいよ。まだ食器洗い終わんないし」
カラスはそれを聞くと、溜め息混じりに頬にキスをして、書斎へと消えていく。

定期的に「ポチ」と呼ばれた彼の、幼馴染から電話がかかる。
カラス曰く昔やんちゃしたので、尾を引いていて生存確認で電話してくるとか。
やんちゃってなんだろうと思ったが、不良と言われても、乱れた服装でも十分の似合うだろうと思ってしまう。


皿洗いを終えて、カラスの寝室を覗けば、背後から抱きついてくる。
「一緒に寝よー」
明日は休みなのでいいかと肯定する。
だがタナカは、抱き枕にされた。
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