愛鳩屋烏

林 業

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社会人

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そんな俺は今日カラスの新たな一面を目撃した。
年に一度二度あるかないかの頭痛が酷い日だった。
見かねた上司が半休をくれたので家に帰ることにした。

家の戸を開けて、挨拶してからと書斎に近づく。
だがノックする前に眼鏡をかけてタバコを吸い、携帯で話しながら出てくるカラス。
何か口を開こうとして無言。
しばらく固まる自分と目があって固まっていたカラスはドアを閉める。

中で話し声が聞こえてくる。
タバコ吸うんだという気持ちと、メガネしているからか目つきが鋭かった気がする。
等と考えていたが、すぐに酷くなった頭痛に頭を抱えてその場に蹲る。
しばらく踞っていたらカラスが出てきて抱き上げられると寝室へと連れて行かれる。
今回は自分の部屋。
ほんとんど使っていない部屋でありながらも綺麗にしてくれている部屋。
見ないでほしいと告げたベッド下の収納スペースは一度も開けた様子がない。
本棚には大好きな作家、クロイ クロウの本を始めとする趣味本と僅かな仕事の本。
仕事の本は基本、図書館で借りてくることにしている。
専門知識の書いてある医療系の本、高いから。
後は机と椅子。
クローゼットにはスーツ。


思考している横でスーツを無駄なく脱がしていくカラスに慌てて自分でも脱ぎ、パジャマを受け取る。
ちなみに犬柄のパジャマでカラスが買ってきたもの。
パジャマを着ている間にスーツをハンガーにかけてシャツを回収して外に置いておくとベッドの横に座る。


「それでオオカミさん」
「今回は半休だよ。頭痛が酷くて」
「後でペットボトルの水持ってきておいておくよ」
「ごめん」
心配しながら良くなりますようにと頭を撫でてくる。

ちなみにこの頭痛はいわゆる片頭痛で治療法は不明。
原因は多分、昔何人も命を落とした自動車事故。
歩行中だったにもかかわらず巻き込まれ、一週間ほど意識不明だった。
そんな状況でも怪我自体は全治一ヶ月の骨折程度で済んだ。
だが頭を打ったらしく高校一年より下の記憶がないのだ。
その影響からか、その後定期的に片頭痛に悩まされるようになった。
今の職場はそのことにある程度、理解があり、きちんと引き継ぎや仕事などをしていれば、問題に問われることがないので助かっている。
病院にも行っているがやはり原因は突き止めれず。
脳に異常がないのだから、精神的な物だろうと言われた。
事故自体は犯人に対しては色々と思うところはあるが、それでも今の職を目指そうと思えた。

カラスは出会った理由もあって理解してくれているので助かっている。
横になりながら話を続ける。
一人になって痛みに耐えながら寝るよりは話す方がまだ楽だったりする。
「仕事、大丈夫なのか。さっきの電話とか」
「あぁ。あれはね。仕事の打ち合わせを終えて、そろそろってところで音が聞こえたから様子見に行ってただけ。最悪相手に警察に通報してもらおうと思って」
危うく警察を呼ばれるところだったのかと思わず身震い。
定時以外で帰るときは連絡しようと心に決める。
「あ、タバコ吸うんだな。あと眼鏡も」
そのことに一瞬硬直しつつも笑う。
「あの眼鏡は伊達だよ。つけてないとスイッチが入らないし、タバコに関しては仕事の集中を切るために飲むの。気をつけてたのに」
どうやらこちらの体調などを気にして書斎だけで吸っていたらしい。
まぁ、タナカはタバコを嫌っているのを知っているからだろう。
その困っている様子に思わず愛しさが芽生えて身を起こしてキスをする。
だが苦いタバコの煙に似た味に、思わず離れて苦いと呻く。
ガムを差し出されてとりあえずそれで口の中を変える。
「いや。吸った後に、歯磨きもしてないのにキスしないでくれる?」
「いや。慣れるから別に」
何故か迫力ある笑顔にビクつく。
「しないでくれる、よね?」
「はい。二度としません」
ならいいんだといつもの笑顔に戻る。
癖になりそうだったのにと言いかけて笑顔に止める。
「っていうかお前んちなんだから吸えばいいだろ」
「いや。タバコは仕事終わりしか飲まないからそこまで中毒者じゃないんだよ。大体オオカミさんが喫煙者じゃないのにタバコなんて飲めないよ。オオカミさんの頭痛がひどくなったり、副流煙とか、部屋に匂いあると子どもたちにも悪影響」
それもそうかと頷く。
子どもたちとは彼の姉の子供のこと。
お互い時間が合わず、まだ直接の紹介はされたことないがたまに遊びに来ているらしい。
「とりあえずはもうちょっと気をつけることにする」
気にしなくてもいいのにと思いつつも、眠気が襲ってくる。
「俺は平気だからそこまで気を使わなくてもいいからな」
その言葉にカラスは優しい笑みを浮かべてお休みと一言言われて夢へと落ちる。


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