幸福からくる世界

林 業

文字の大きさ
上 下
23 / 44
精霊たち井戸端会議

4

しおりを挟む
ご飯を食べ、リースティルが語りだす。
「僕から話す話じゃないかもしれないけれど、多分言わないだろうからね」
「はい」
なんだろうとワクワクしながら眺める。
「僕はね、七歳ぐらいの頃に師父達に引き取られたんだ。今から二十年程前のことだね」
「はい。確か魔導具技師になるためにと」
「も、あるんだけど、師父たちは時々親のいない子を最大で二人ほど教会からひきとって一人前に育ててくれてたんだ。中には相性の合わない子もいたらしいけど、きちんと成人まで見送ったそうだよ」
他にも兄弟がいると言うにはそういうことか。と頷く。
「僕もその一人であり、弟子として引き取られたのはたまたま器用だったからうちに来て覚えてみる?っていうレベルだったんだよね。ものづくり嫌いじゃなかったから頷いたんだけどね。引き取られてからは体を崩しやすくて気づいたら医者になりたいって思っていたね。二人に恐る恐る相談したらいいよ。ってお金やら勉強道具揃えてくれたのは今でも驚きだけど。あの二人はそこまで弟子に執着してないんだよね。子供はのんびり育てればいいや。ぐらいで」
だから、嫌だったら辞めていいんだよ。育児放棄はしない人だから。
と念押しされつつ続ける。

「当時僕は二十歳ぐらいかな。医者として勉強が佳境だった頃だね。師父が誘拐された」
「え?」
「誘拐と言っていいのかよくわからないんだけどね。戻ってきた本人も特に語らないし。記憶障害も少々あるから。精霊たちがいてなんでと思うかもだけど、召喚するときは体調とかも左右されるそうだからそういう時期だったんだろうね」
「誘拐」
そういえば、特に力を持っていて損はないとサジタリスは度々言っていたのを思い出す。

「十年近くかかって先生が発見したときは暗い部屋の中で拷問を受けた傷を治療もされないまま、鎖に繋がれひたすら魔導具を作らされていたそうだよ」
「師父」
思わず猫を抱きしめる。
「この国に戻ってきてから何度も脱走を試みたのか、何か脅されていたのか、必死にその部屋に戻ろうとしてたのは辛かった。数カ月経って、ようやく此処を認識し初めてね。今もここが夢で現実か、理解しにくい部分もあるそうだけど、ゆっくりと心を癒やしているところなんだ」
「俺、師父、好きです。優しい、から」
なのに、何故そんなひどいことができる人がいるんだと胸を抑える。
たかだか、魔導具じゃないか。
ちょっと便利で強力な道具なだけ。
師父に言えば快く教えてくれる技術じゃないか。
人に希望を与えくれる人なのに。
なのに。なんで。

「そうだよ。師父は優しい。だけど悪意ある人間のせいで何がなんだかわからなくなって体調を崩す。今も暗所恐怖症を持っているから暗い部屋では発作を起こす。君が来てからはだいぶマシになってたんだけど。久々に発作を起こしたんだね」
「俺、何かできることありますか?」
「んー。子育てしてる今、元気だから、君がいるだけで元気だと思うな」
「俺、何もできません」
「親に何もしてないようで、親は十分と幸せに笑ってるんだったら何か返せてるってことだって本人が言ってたし。まぁ、ハルシオ君にできることは早く、魔導具技師になっても、ならずとも一人前になって、すごいでしょ。って自慢できるようになることかなぁ。すっごく喜ぶよ」
「そう、なんですね」
「後植物好きだから今日は花とか買って帰るといいかもね」
「そうします」
今から行こうと食べ終わったお弁当を片付ける。

「あ。ついでに伝言頼んでいい?」
「はい?」
ララを抱き上げているリースティーンを見て、首を捻る。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元竜のお兄様、元々魔物だからといって、義弟の僕を襲うのはおやめください。

天災
BL
 元竜一族の養子になり、イケメン竜人の義弟となりました。

仄仄

papiko
BL
ルルニアは、没落寸前の男爵家の三男だった。没落寸前だというのに、貴族思考が捨てられなかった両親に売られ、伯爵家であるシルヴェルに引き取られた。 養子のルルニアと養父のシルヴェル、それから使用人たちの仄仄(ほのぼの)としたお話。 ※かわいいを目指して。 ※気持ちBL ※保険のR15指定

灰色の天使は翼を隠す

めっちゃ抹茶
BL
ヒトの体に翼を持つ有翼種と翼を持たない人間、獣性を持つ獣人と竜に変化できる竜人が共存する世界。 己の半身であるただ一人の番を探すことが当たり前の場所で、ラウルは森の奥に一人で住んでいる。変わらない日常を送りながら、本来の寿命に満たずに緩やかに衰弱して死へと向かうのだと思っていた。 そんなある日、怪我を負った大きな耳と尻尾を持つ獣人に出会う。 彼に出会ったことでラウルの日常に少しずつ変化が訪れる。 ファンタジーな世界観でお送りします。ふんわり設定。登場人物少ないのでサクッと読めます。視点の切り替わりにご注意ください。 本編全6話で完結。予約投稿済みです。毎日1話ずつ公開します。 気が向けば番外編としてその後の二人の話書きます。

冤罪で投獄された異世界で、脱獄からスローライフを手に入れろ!

風早 るう
BL
ある日突然異世界へ転移した25歳の青年学人(マナト)は、無実の罪で投獄されてしまう。 物騒な囚人達に囲まれた監獄生活は、平和な日本でサラリーマンをしていたマナトにとって当然過酷だった。 異世界転移したとはいえ、何の魔力もなく、標準的な日本人男性の体格しかないマナトは、囚人達から揶揄われ、性的な嫌がらせまで受ける始末。 失意のどん底に落ちた時、新しい囚人がやって来る。 その飛び抜けて綺麗な顔をした青年、グレイを見た他の囚人達は色めき立ち、彼をモノにしようとちょっかいをかけにいくが、彼はとんでもなく強かった。 とある罪で投獄されたが、仲間思いで弱い者を守ろうとするグレイに助けられ、マナトは急速に彼に惹かれていく。 しかし監獄の外では魔王が復活してしまい、マナトに隠された神秘の力が必要に…。 脱獄から魔王討伐し、異世界でスローライフを目指すお話です。 *異世界もの初挑戦で、かなりのご都合展開です。 *性描写はライトです。

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

狼くんは耳と尻尾に視線を感じる

犬派だんぜん
BL
俺は狼の獣人で、幼馴染と街で冒険者に登録したばかりの15歳だ。この街にアイテムボックス持ちが来るという噂は俺たちには関係ないことだと思っていたのに、初心者講習で一緒になってしまった。気が弱そうなそいつをほっとけなくて声をかけたけど、俺の耳と尻尾を見られてる気がする。 『世界を越えてもその手は』外伝。「アルとの出会い」「アルとの転機」のキリシュの話です。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

処理中です...