幸福からくる世界

林 業

文字の大きさ
上 下
7 / 44
ある大陸のある国にて

7

しおりを挟む
鼻歌交じりにビーフシチューを作る。

サジタリスは側でお昼ご飯だったベーコンステーキをアレンジしてサラダを作っている。
「ん?」
サジタリスは唯一ある窓を見る。
「何かいた?」
「なんかの気配がした」
「匂いに呼ばれちゃったかな。オーラン」
梟が窓の外に現れる。
「ごめんね。あとでベーコンあげるから何がいるか確認してきてくれる?」
梟は一鳴きすると飛んでいく。


「ベーコン?」
「ベーコン」

サラダを見下ろすサジタリス。
その姿に笑顔を返す。
サジタリスは無言で混ぜ合わせたベーコンをいくつか避けてお皿に盛り直す。

梟が一目散に飛んできて、ブレーキのタイミングを誤ったのか窓ガラスにぶつかる。
「オーラン!どうしたの」
驚き窓ガラスを開けて、体をなでながら額と梟の額と合わせる。
「サジ。大変だ。子供が倒れてる」
「ん?連れてこりゃあいいのか?下手すりゃあ演技って可能性も」
「血を流してるんだ」
「なら行ってくる」
サジタリスは梟を鷲掴みにすると案内しろと連れて行ってしまう。
梟はやめてくれと大暴れしながら連れて行かれる。

しばらくすれば梟だけが戻ってきて、とまり木で毛繕い。
そしてサジタリスが少年を腕に抱えてやってくる
「怪我は」
「俺は医者、とりあえずリーンを呼んでくる。手当は任せた」
「あ。うん。お願い」

梟が掴まれたことの不満を鳴いて訴えてくる。
彼の愚痴を聞きながら取り分けたベーコンを与えている間にサジタリスは少年を子供部屋へと運ぶ。
子供部屋と言っても大人でも使えるベッド。
子どもたちが巣立った後は、戻ってくる養い子たちが泊まる部屋となっているのでそこそこ綺麗である。

サジタリスは子供を寝かせるとすぐに出かけていく。
ルーンティルは血や傷口の汚れを拭う。

そうこうしている間にリースティーンがサジタリスに抱えられてやってくる。
「今から晩ご飯なのに」
お腹が鳴っているのに気づいて告げる。
「ビーフシチュー食べる?」
「頂ます。が、まずは診察しますね」
「ごめんね」
「いいんです。それが俺の仕事なんです」
袖を捲り、サジタリスが持ってきた診察鞄を受け取って治療を始める。
ここは任せて、ご飯の用意をする。


しばらくしてリースティーンが戻ってくる。
ひたすら手を洗い続けて、ようやく落ち着いたのか手を拭う。
「よし。ご飯にしようか」
微笑めば、はい。と嬉しそうに笑う。

美味しいとビーフシチューを堪能して怪我の具合を話すと帰っていく。
「送っていく」
「いや。一人でも」
「大通りまでな。あんまり物騒な話は聞かないが」
「師父が」
「召喚されてる間だし、ほんの数分だけなら問題ない」
「はいはい。じゃあ、また明日伺います」
「あ。これとこれとこれ。朝ごはんにどうぞ」
籠に小さな入れ物を入れて渡される。

梟は窓辺の止り木で翼を手入れしている。
「行ってらっしゃい。サジ」
「早めに戻る」
サジタリスが告げて、行くぞとリースティーン連れて行く。
「オーラン。悪いけど、サジが戻るまで待っててくれる?」
梟は目を細めて、ルーンティルの肩へと乗る。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元竜のお兄様、元々魔物だからといって、義弟の僕を襲うのはおやめください。

天災
BL
 元竜一族の養子になり、イケメン竜人の義弟となりました。

仄仄

papiko
BL
ルルニアは、没落寸前の男爵家の三男だった。没落寸前だというのに、貴族思考が捨てられなかった両親に売られ、伯爵家であるシルヴェルに引き取られた。 養子のルルニアと養父のシルヴェル、それから使用人たちの仄仄(ほのぼの)としたお話。 ※かわいいを目指して。 ※気持ちBL ※保険のR15指定

灰色の天使は翼を隠す

めっちゃ抹茶
BL
ヒトの体に翼を持つ有翼種と翼を持たない人間、獣性を持つ獣人と竜に変化できる竜人が共存する世界。 己の半身であるただ一人の番を探すことが当たり前の場所で、ラウルは森の奥に一人で住んでいる。変わらない日常を送りながら、本来の寿命に満たずに緩やかに衰弱して死へと向かうのだと思っていた。 そんなある日、怪我を負った大きな耳と尻尾を持つ獣人に出会う。 彼に出会ったことでラウルの日常に少しずつ変化が訪れる。 ファンタジーな世界観でお送りします。ふんわり設定。登場人物少ないのでサクッと読めます。視点の切り替わりにご注意ください。 本編全6話で完結。予約投稿済みです。毎日1話ずつ公開します。 気が向けば番外編としてその後の二人の話書きます。

冤罪で投獄された異世界で、脱獄からスローライフを手に入れろ!

風早 るう
BL
ある日突然異世界へ転移した25歳の青年学人(マナト)は、無実の罪で投獄されてしまう。 物騒な囚人達に囲まれた監獄生活は、平和な日本でサラリーマンをしていたマナトにとって当然過酷だった。 異世界転移したとはいえ、何の魔力もなく、標準的な日本人男性の体格しかないマナトは、囚人達から揶揄われ、性的な嫌がらせまで受ける始末。 失意のどん底に落ちた時、新しい囚人がやって来る。 その飛び抜けて綺麗な顔をした青年、グレイを見た他の囚人達は色めき立ち、彼をモノにしようとちょっかいをかけにいくが、彼はとんでもなく強かった。 とある罪で投獄されたが、仲間思いで弱い者を守ろうとするグレイに助けられ、マナトは急速に彼に惹かれていく。 しかし監獄の外では魔王が復活してしまい、マナトに隠された神秘の力が必要に…。 脱獄から魔王討伐し、異世界でスローライフを目指すお話です。 *異世界もの初挑戦で、かなりのご都合展開です。 *性描写はライトです。

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

帝国皇子のお婿さんになりました

クリム
BL
 帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。  そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。 「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」 「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」 「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」 「うん、クーちゃん」 「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」  これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

狼くんは耳と尻尾に視線を感じる

犬派だんぜん
BL
俺は狼の獣人で、幼馴染と街で冒険者に登録したばかりの15歳だ。この街にアイテムボックス持ちが来るという噂は俺たちには関係ないことだと思っていたのに、初心者講習で一緒になってしまった。気が弱そうなそいつをほっとけなくて声をかけたけど、俺の耳と尻尾を見られてる気がする。 『世界を越えてもその手は』外伝。「アルとの出会い」「アルとの転機」のキリシュの話です。

処理中です...