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親戚の子供たちは昨日帰ってしまった。
遊び相手はいない。
祖父母の家で大人たちは何か話し合い中。
なので祖父母の庭で使い方のよくわからないラジコンのリモコンを動かすが上手く走らない。
投げ出そうかとも思ったが、他に暇つぶしは持ってきていない。
ぼんやりとリモコンを眺める。
父がいれば教えてくれたのかとも思う。
でもいない。
居ないのだと理解すればするほど、視界が緩む。
「ひっくっ」
しゃっくりが飛び出てすぐに、指と声が上から降ってくる。
「こっちが前後、こっちが左右。バランスを取りながら、最初はゆっくり動かすんだよ」
伯父さんが背後から声をかけてきて、思わず体が跳ねる。
「あ。えっと、そうすけ伯父さん」
「よく覚えてたな。賢い賢い」
頭を撫でられるが、手には煙草を持っていて、その煙に臭いと鼻を覆う。
「あ、悪い」
慌てて小さなコインケースに煙草を入れる。
そんな姿に疑問が浮かぶ。
「それ、燃えないの?」
「燃えにくい灰皿ケースだからな」
「ふぅん?話し合い終わった?」
よくわからないが、それでも質問を返す。
「まだ。小休止。あぁ。そうだ。電話しなきゃ」
「誰に?」
「あー。同居人。の前に」
そう告げてラジコンのリモコンを持つ手を添えてくる。
「こうすりゃあまっすぐ走る」
一通り教わると電話してくると離れた場所で電話をかけている。
教わった通りにすればようやく思うように進む。
「そう。今日の夜には。そう。明日も仕事で。そうなんだ。子供がいて」
(恋人かな。いいなぁ)
嬉しそうに会話をする様子に羨ましく、父母を思い出して奥歯を噛みしめる。
聞きたくもない声が襖の向こうで声がする。
「兄さんとこで引き取れないのか?」
「そっちはどうなんだ。孫だろ」
「流石に私の腰が言うこと聞かなくてね」
聞きたくないとラジコンを操作する。
もうやだと現実から目を逸らす。
「ーーーン。レン」
「あ。何?」
呼ばれて、反応すれば伯父が携帯を向けてくる。
「俺の同居人が話ししたいって」
驚きつつ携帯を眺める。
「こんばんわ。観音寺です」
穏やかそうな声に慌てて返事をする。
「は、始めまして。秋庭、レンです」
緊張すると思いながら話す。
「始めまして。レン君。ちなみにそこの大馬鹿者は君の前でタバコ吸ったりはしてますか?」
伯父を見ればしーしーと口に指を当てている。
あぁ。禁煙無理だったんだなと子供心ながら見る。
「えっと、えっと。ないです」
「ソウスケ。帰ってきたら説教」
「なんでだ!」
「子供に嘘つかせた。それと禁煙の約束は?」
「すんませんでした!」
「それで、レン君はいくつですか?」
しばらく電話越しに話をする。
ちょっとだけ、本当にちょっとだけ楽しい問答だった。
「おい。ソウスケ。そろそろ話を再開するぞ」
「へーへー」
面倒そうに向かうのを見ていれば祖父がこちらを見る。
「レン。お前も来なさい」
「あ。うん」
慌ててラジコンを持って部屋に入る。
今唯一心を許せる物。
「そういうわけでお前は誰の家に行きたい?」
「えっと」
「当然おじいちゃんの所よね」
「いやいや、年が近い子がいるところがいいんじゃないか」
「何を言っているのよ。むしろ施設なんてどうかしら」
施設は怖い。
けれども、望まれないならば。
「僕、は」
「なぁ。レン」
覗きこまれて、顔を上げる。
伯父は心配そうにしながら頭を撫でてくる。
相変わらず、煙草の匂いがする。
「俺の住んでるところ田舎なんだわ。こっちみたいにいつでもゲーセン開いてたりとか、コンビニがなくて、好きなときに好きな場所に行けるわけじゃないし友達と離れ離れになる。同居人もいる。俺はお前の害になる煙草も吸う」
いきなりなんだと驚き眺める。
何故か視線が合う不思議な大人。
「けどそれでもいいなら、俺と暮らすか?」
それでも違う道を示してくれるなら。
「お前何を言っているんだ」
「俺この家じゃあ厄介もんだけど、それでもいいならどうかな?もちろん。施設だって悪いところじゃないさ。いろんな友達がいて遊べるし、楽しいだろう。時間は守る必要あるだろうけど、俺の知人も施設育ちだ。悪いばっかりじゃない。それでも選ぶ権利はお前にあるぞ」
言われて思わず握っていたラジコンを見下ろしてから顔を上げる。
「おじさんの、家、行きたい」
少なくとも、すぐに施設へ向かうよりはいい。
そんな思いで告げる。
「おう。卒業式終わったらおいで。お前の部屋用意しておくよ」
笑顔で頭を撫で回される。
泣きそうになるのを耐えて、頷く。
内心で、ごめんなさいと、ありがとうと思う。
「親父たちも、卒業式までなら面倒見れんだろう。そっからこっちに転校したほうが色々と手続き楽だと思うぞ。そっちの手続き終わったらこっちに送ってくれたら受け取る」
適当なメモ用紙に住所を書いて祖父母に、自分に電話番号を渡してくれる。
「携帯持ってるか?」
左右に首を振れば、それもだなぁと頷く。
「よし。じゃあ。詳しくはおいおいで、レン。なんかあったら連絡しろ」
「おい。勝手に」
「おじさんが引取ってくれるか?もちろん。レンがうちが嫌って言うなら責任持って施設に入れる」
こちらからは見えないが、確実に親戚を脅している。
思わず手を伸ばして服を掴む。
後ろ手に握り締められて、久々の温もりに俯く。
そして反対意見もなくなり、さ、一件落着と勝手に締める。
ちょっとだけ格好いいと眺める。
遊び相手はいない。
祖父母の家で大人たちは何か話し合い中。
なので祖父母の庭で使い方のよくわからないラジコンのリモコンを動かすが上手く走らない。
投げ出そうかとも思ったが、他に暇つぶしは持ってきていない。
ぼんやりとリモコンを眺める。
父がいれば教えてくれたのかとも思う。
でもいない。
居ないのだと理解すればするほど、視界が緩む。
「ひっくっ」
しゃっくりが飛び出てすぐに、指と声が上から降ってくる。
「こっちが前後、こっちが左右。バランスを取りながら、最初はゆっくり動かすんだよ」
伯父さんが背後から声をかけてきて、思わず体が跳ねる。
「あ。えっと、そうすけ伯父さん」
「よく覚えてたな。賢い賢い」
頭を撫でられるが、手には煙草を持っていて、その煙に臭いと鼻を覆う。
「あ、悪い」
慌てて小さなコインケースに煙草を入れる。
そんな姿に疑問が浮かぶ。
「それ、燃えないの?」
「燃えにくい灰皿ケースだからな」
「ふぅん?話し合い終わった?」
よくわからないが、それでも質問を返す。
「まだ。小休止。あぁ。そうだ。電話しなきゃ」
「誰に?」
「あー。同居人。の前に」
そう告げてラジコンのリモコンを持つ手を添えてくる。
「こうすりゃあまっすぐ走る」
一通り教わると電話してくると離れた場所で電話をかけている。
教わった通りにすればようやく思うように進む。
「そう。今日の夜には。そう。明日も仕事で。そうなんだ。子供がいて」
(恋人かな。いいなぁ)
嬉しそうに会話をする様子に羨ましく、父母を思い出して奥歯を噛みしめる。
聞きたくもない声が襖の向こうで声がする。
「兄さんとこで引き取れないのか?」
「そっちはどうなんだ。孫だろ」
「流石に私の腰が言うこと聞かなくてね」
聞きたくないとラジコンを操作する。
もうやだと現実から目を逸らす。
「ーーーン。レン」
「あ。何?」
呼ばれて、反応すれば伯父が携帯を向けてくる。
「俺の同居人が話ししたいって」
驚きつつ携帯を眺める。
「こんばんわ。観音寺です」
穏やかそうな声に慌てて返事をする。
「は、始めまして。秋庭、レンです」
緊張すると思いながら話す。
「始めまして。レン君。ちなみにそこの大馬鹿者は君の前でタバコ吸ったりはしてますか?」
伯父を見ればしーしーと口に指を当てている。
あぁ。禁煙無理だったんだなと子供心ながら見る。
「えっと、えっと。ないです」
「ソウスケ。帰ってきたら説教」
「なんでだ!」
「子供に嘘つかせた。それと禁煙の約束は?」
「すんませんでした!」
「それで、レン君はいくつですか?」
しばらく電話越しに話をする。
ちょっとだけ、本当にちょっとだけ楽しい問答だった。
「おい。ソウスケ。そろそろ話を再開するぞ」
「へーへー」
面倒そうに向かうのを見ていれば祖父がこちらを見る。
「レン。お前も来なさい」
「あ。うん」
慌ててラジコンを持って部屋に入る。
今唯一心を許せる物。
「そういうわけでお前は誰の家に行きたい?」
「えっと」
「当然おじいちゃんの所よね」
「いやいや、年が近い子がいるところがいいんじゃないか」
「何を言っているのよ。むしろ施設なんてどうかしら」
施設は怖い。
けれども、望まれないならば。
「僕、は」
「なぁ。レン」
覗きこまれて、顔を上げる。
伯父は心配そうにしながら頭を撫でてくる。
相変わらず、煙草の匂いがする。
「俺の住んでるところ田舎なんだわ。こっちみたいにいつでもゲーセン開いてたりとか、コンビニがなくて、好きなときに好きな場所に行けるわけじゃないし友達と離れ離れになる。同居人もいる。俺はお前の害になる煙草も吸う」
いきなりなんだと驚き眺める。
何故か視線が合う不思議な大人。
「けどそれでもいいなら、俺と暮らすか?」
それでも違う道を示してくれるなら。
「お前何を言っているんだ」
「俺この家じゃあ厄介もんだけど、それでもいいならどうかな?もちろん。施設だって悪いところじゃないさ。いろんな友達がいて遊べるし、楽しいだろう。時間は守る必要あるだろうけど、俺の知人も施設育ちだ。悪いばっかりじゃない。それでも選ぶ権利はお前にあるぞ」
言われて思わず握っていたラジコンを見下ろしてから顔を上げる。
「おじさんの、家、行きたい」
少なくとも、すぐに施設へ向かうよりはいい。
そんな思いで告げる。
「おう。卒業式終わったらおいで。お前の部屋用意しておくよ」
笑顔で頭を撫で回される。
泣きそうになるのを耐えて、頷く。
内心で、ごめんなさいと、ありがとうと思う。
「親父たちも、卒業式までなら面倒見れんだろう。そっからこっちに転校したほうが色々と手続き楽だと思うぞ。そっちの手続き終わったらこっちに送ってくれたら受け取る」
適当なメモ用紙に住所を書いて祖父母に、自分に電話番号を渡してくれる。
「携帯持ってるか?」
左右に首を振れば、それもだなぁと頷く。
「よし。じゃあ。詳しくはおいおいで、レン。なんかあったら連絡しろ」
「おい。勝手に」
「おじさんが引取ってくれるか?もちろん。レンがうちが嫌って言うなら責任持って施設に入れる」
こちらからは見えないが、確実に親戚を脅している。
思わず手を伸ばして服を掴む。
後ろ手に握り締められて、久々の温もりに俯く。
そして反対意見もなくなり、さ、一件落着と勝手に締める。
ちょっとだけ格好いいと眺める。
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