切なさを愛した

林 業

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部下

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にこにことお話しながら、何度も惜しげなく通い、きっちり、案件を取るそんな姿に憧れた。
「先輩は凄いんですよ」
台所でお茶を用意している横でトウマという男に語る。
自分しか知らない姿を。
彼は知らない姿を。
先日、戻ってきてほしいとお願いしたが、無理とやんわり断られた。
なのにこんな男に走るなんて。
「先輩はどーんな厄介な取引相手にも笑顔で対応していつの間にかお互いにいいプランを提供できる凄いやり手なんですよ」
「ほー」
「他の人が匙投げたところだって、笑顔でいつのまにか丸め込まれていてですね」
「それ、褒められてますか?」
先輩の気配がする。
「も、もちろんですよ」
先輩がお茶を持って戻ってくる。
お茶を自分とトウマに渡す。
「トウマさんをあまり困らせないであげてください。困っている姿も可愛いんですけどねぇ」
お茶を飲もうとしたトウマは顔を上げて、かわいい?と疑問符を浮かべている。

「にしても、営業の人間だったのか」
「そうですよ。言いませんでしたっけ」
「仕事はやめたとだけ。その後ここ初めてたから慣れたもんだと思っていたが」
「昔取った杵柄ですかね」
微笑む様子に、少々の居心地の悪さを感じる。
「しかし、あのソウマ、うちの息子がお前を早々に受け入れた理由を納得した」
「そうですか?」
「言いくるめられたってことだな」
「可愛いお子さんじゃないですか」
「生意気もすぎると面倒だろう」
即答するトウマに、その生意気ざかりを味わいたかったのだろう先輩を盗み見てしまう。
「では、今度一緒にソウマさんと遊びに出かけましょうかね。誘われてますし」
「なっ!んで。あいつ」
ちっと舌打ちする様子に、何故か一瞬体が竦んでしまう。

ちょっと怖いと思わずタクマの背後に隠れる。




後にタクマとソウマに誕生日パーティを開かれ、度肝を抜かれるのだがまた別の話。
 
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