切なさを愛した

林 業

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似た者同士の父子を微笑ましくて眺める。
(カエデが生きていたらイケメンと喜んでたかなぁ)
持ってきてくれたどら焼きを早速出す。
二人とも甘党。
同じように食べている姿に再認識する。

「今日の晩御飯何にしましょうかね。ソウマ君も食べていきますか?」
「いいんっすか?何時追い出されてもいいと思ってたんっすけど」
「もちろん。ピーマンありましたからチンジャオロースとか」
二人とも顔から表情が消えて、目で嫌がっているのを確認する。
(相変わらずピーマン嫌いなんだな。当麻さん。と、息子さんも)
「じゃあ、オムライス」
「えっ!オムライス!」
「オムライスか」
二人とも乗り気な姿に、じゃあそうしましょうかと笑う。
変わりに野菜はたっぷり刻んで入れようと企む。

ただ、野菜を食べろという息子も食べないのだと気づく。




ご飯を食べ、忘れず薬を飲む。
「体悪いんですか?」
心配そうに聞いてくる。
当麻はこちらを気にしながらも新聞を読んでいる。
「あぁ。五年前の一件から薬が手放せなくてね」
「大変っすね。調子悪かったら声かけてくださいね。親父抜けてるところもあるんですから」
番号交換しましょう。と番号を交換する。
「あ。東郷さん。連絡アプリやってんじゃないっすか。そっちも交換しましょう。っていうかお仕事は何やってるんですか?」
「今はこのアパートの管理人を」
「へぇ。親御さんの持ち物だったとか?」
「いや。被害者遺族の慰謝料で、たまたまこの土地が安く売られてたから買ってアパート立てたら思ったより人が入ってくれたんです」
にこにこと微笑む。
「タクマはその見た目とは真逆に結構やり手だぞ。一時期やけ起こして土地買ったりしてたが、まぁ、うん。運が良かったんだと」
アプリ?と首を捻りつつも新聞を捲る当麻。
「えぇ」
ドン引きするソウマ。
当時の当麻と同じ反応するなぁ。と初々しさを感じる。

「人間、投げやりになったときってどっちに転ぶかわからないから怖いですよねぇ」
「ソウマ。これがうまく行った側の人間だよ」

ふらりと目の前が揺らいでくる。
とりあえず水を飲む。

ふわふわと頭の中が定まらず、二人の会話を眺める。

(お父さん)
(あなた)

カエデ、モミジ。
そこに居たのか。

今そっちに行くから。
「なんで、助けてくれなかったの?」
真っ赤な二人が、いるはずもない場所にいる。


なんで、そんなところで寝ているんだ?
二人とも。
だって、今日は。




目を開けて、暗闇を眺める。
流れ落ちる汗を拭う。
「とう、まさん?」
体を起こして携帯に手を伸ばす。
毎回律儀に置いてくれてい0る水を飲みながら携帯のメッセージを見る。
「あぁ」
「うちの息子が世話になった。悪かった。今日は帰るが明日また顔を出すからな」
笑みが溢れる。
相変わらずの無愛想だが、待っていると返事を返す。
(薬合わなくなってるのかすぐ寝てしまうな)
今度病院で話をしようと薬手帳に記入するために立ち上がる。


だが足元が覚えつかなくなり、その場に蹲る。
(何だこれ。気持ち悪い)
胃の中が引っ繰り返りそうな程の吐き気に、体を引きずってトイレへと急ぐ。
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