切なさを愛した

林 業

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俺、風間 双馬。先日二十一になった。
風間組組長、当麻(三十九)学生結婚で産まれた息子で現在舎弟補佐。
母親は実は四十三と姉さん女房。
五年前に事故に巻き込まれ亡くなっている。
正直、父に育てられたというより構成員がいたからなんとか育ったというべきか。
まぁ、一応尊敬はしているので組に入った。

若頭ではないのだが出世希望のため頑張っている。

「若。何やってんだ?」

玄関先から父の動向をチェック中。
「高橋さん。いや。親父がね」
「ん?親父がどうした」
若頭、高橋が同じようにそわそわと楽しそうに構成員が回す車を待っている父を確認する。
今日は休日なのにスーツで行く必要はない。
「絶対うかれてるって思いまして」
「あー。確かに最近仕事を終えるといそいそとどこか出かけてるよな」
「まぁ、相手にヤクザとか言いにくいんでしょうけどね。息子の俺に挨拶させないのもどうかと思うんで」
「後でげんこつ食らっても知らねぇぞ。あ、お前今日仕事は平気か?」
「今日はないので押しかける予定です」
「おう。そうか。頑張れよ」
車に乗ったのを確認して、じゃ、俺行くんでと走っていく。
「ありゃあ拳骨されんなぁ」
染み染み呟くと、仕事と戻る。



父の背後に立ちドアを開けた相手を見る。
一瞬驚いたように見てから微笑んでくる。
男だったと衝撃を受けつつも告げてくる。
「いらっしゃい。当麻さん。後ろの方は息子さんですか?始めまして」
「え?」
父が振り返り、目を見開く。
「て、てめぇ!何しに来やがった」
「はじめまして。風間相馬です。父の当麻がいつもお世話になってます」
「とりあえず、中へとどうぞ」
「どうもでーす」
「あ、待て。ソウマ。お前帰れや」
「まぁまぁ。おみやげも買ってきたんですから」
仏壇を見て、親子のやり取りを微笑ましげに見ているタクマに気づく。
「仏壇、手上げて大丈夫っすか?俺みたいな」
「ソウマ」
反社と言いかけて、当麻に名前を呼ばれて止まる。
「もちろん。ソウマさんみたいなイケメンだったら二人とも大喜びですよ。イケメン俳優とか好きでしたからねぇ」
「じゃあ」
持ってきた紙袋から箱を取り出して、置いてから手を合わせる。

「当麻さん着替えますか?」
「あ、あぁ」

渡された服を受け取る当麻。
とりあえず仏壇に手を合わせる当麻を横目にお茶を入れに行った彼の後を追う。
「えっと」
「あ、私はタクマです。東郷、タクマ。先日はコンビニの件ありがとうございました。お怪我はありませんでしたか?」
そういえば名刺をもらっていたのを思い出す。
「えぇ。まぁ。あの。父とはどういう関係なんですか?」
「あぁ。五年前の事故の、被害者遺族として知り合いに。そこから少々意気投合して、今に至るって感じですね」
「あぁ。お互い、大変でしたね」
笑みを浮かべれば、手を伸ばされ、頭を撫でられる。
「えっと」
「申し訳ないです。辛いことを思い出させてしまって」
「い、いえ。あの、父とは恋人なんですか?父の職業をご存じですか?」
「恋人ですよ。ただ貴方が、相馬さんが私と彼との中を嫌悪するなら、彼とは少し今後についてお話させていただきます」
「い、いや。むしろ父は母を失ってからしばらく落ち込んでて、俺じゃあ何もできなかったですけど、徐々に立ち直って、多分東郷さんのおかげとは思うんです」
当時は十六だったのもあって悲しんでばかりいられなかった。
むしろ、父を支えなければと思っていた。
思っていたが、父は立ち直った。
目の前の彼のおかげだろうことは理解できる。
「あ。お付き合いは半年前ですね。貴方が成人するまで友達として、同じ事故の遺族として過ごしてました」
「そう、なんっすね。ところで父の職業なんですが」
「入れ墨されたあの方が、普通の職業だとは思ってませんよ」
ですよねぇ。と思わず納得する。
「まぁ、それだけだと偏見だと思いますけど。まぁ、後平日の昼間から毎回、スーツ着て顔を出すとか、休日でも、普通にスーツ着てくるとか、こっち来て鞄に一切手を触れないとか、色々と重なった結果ですかねぇ。カバンも靴も会社勤めにしてはキレイ過ぎなんですよ。後高級品ですよね。持ち物」
(父よ。バレてます)
どことなく抜けている父に心の中で告げる。
「でもまぁ、言われないので聞かないことにしてます」
お茶を片手に部屋へと戻っていく。
慌てて追いかけていけば、父は部屋でいるときと同じ和装でいる。

「というかソウマ。てめぇ、さっさと帰れ」
「まぁまぁ。せっかくなのでソウマ君とお話しましょうね」
「俺が、俺、が」
何か言いかけて黙る。
いちゃつきたいのだと気づくが、とりあえず気づかなかったことにする。
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