切なさを愛した

林 業

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側で自身の洗濯物を畳んだり、アイロンをかけたりと私事を片付ける。
その側で文句も言わずにのんびりとお茶を飲む、当麻。
手伝おうか?と言ってくれた日もあったが任せると、不器用らしく、手が回るときだけ手伝ってもらっている。

四十代に突入しそうな年齢の当麻。
その強面とも男の渋さとも言えるその容姿。
年々年相応の良さに変わっていくと眺める。

いつの間にか彼とは出会って五年ほど、付き合いを初めて早半年。
「そういえば、奥様に顔を出していませんね。次行くときはお声掛けいただければ一緒に行きたいのですが」
「あぁ、いや。流石に」
「そう、ですか」
残念でありながらも、それもそうだ。と一人納得する。
タクマの亡き妻は、明るい人だった。
結婚していれば許されないだろうが亡くなった今だからこそ、浮気など何だの言うことはないだろう。
娘も、いないのだから。
「ち、違う」
あまり喋らない当麻だが慌てて口にする。
「墓参り行くときは必ず息子が付いてくるんだ。まだ、付き合った話とかしてなくてだな。話を通すまでは、な。外面結構気にするやつだし」
「あぁ。そういうことですか。息子さんですか。ならしょうがないですね」
普通ではない関係。
家族もいない天涯孤独の自分には関係ない話だが彼には必要なことだろう。

息子がいることはちらっと、本当にいる。とだけ聞いたが。
「どういう息子さんなんですか?」
「何考えてんのかさっぱりだな」
似た者同士遺伝ですかね)
笑顔のまま、そんなことを考える。
「そういえばタクマの娘はどんな感じだったんだ?うちは一人息子だしな」
「可愛かったでんすよ。大人しいのに、頑固者です。五歳なのに言葉巧みで」
楽しかった。幸せだったと胸が一杯になりながらも口にする。
久々に鮮明に記憶が蘇ってくる。
何故自分の妻と娘があんな目に合わなければならなかったのだろうか。
伸びてきた手が頬を撫で、涙が落ちていたのだと気づく。
「悪かったな」
「いえ。久々に娘の話できて楽しいですよ」
「そうか。無理するな。まだ五年しか経ってない」
「ありがとうございます」
心遣いに微笑んで告げる。
「今日の晩御飯何にしましょうか」
「何あるんだ?」
「一応ひき肉があるので」
考えてから告げる。
「ピーマンのひき肉とか」
目が、えー。と落胆しているのに気づく。
相変わらずの子供舌だなぁと苦笑する。
「ハンバーグとか?」
目が一瞬で輝き、ハンバーグにしようと献立を決定する。
「ハンバーグと、サラダと、汁物は」
「味噌汁でいいだろ」
「そういえば、おうちではご飯どうなさっているんですか?」
「あぁ。しゃ、息子たちが作ってくれてる」
「へぇ」
「食事療法がなんだのとうるさい」
「良いお子さんですね」
「やっぱ今日泊まる」
抱き着かれ、よしよしと背中を撫でる。
「子供じゃないんですから」
すりすりとすり寄ってくる

子供というか犬だ。と頭を過る。


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