異世界ヘアサロン あなたの魅力、引き出します

椰子ふみの

文字の大きさ
上 下
42 / 46
第一章

魅力

しおりを挟む
「最近浮かない顔をしているな。」

 マーカスが、王宮で話しかけて来た。

「イライザ夫人どうだった?」

「それがどんどん疑惑は深まる一方だと言うより、イライザに秘密があるのは確実だ。」

「そうなのか?
 イライザ夫人に限って、そんなことあるのか?」

「僕も信じたくないけれど、イライザは、昼間御者を木の下で待たせて、どこかへ行っている。

 さらには、渡している給金も何かに注ぎ込んでいるし、医師とのことも認めない。

 今はそんな状況だ。

 僕が追求しようとすると、キスをして来て、それ以上は話してくれない。

 イライザには男がいる、多分。
 僕を誤魔化したいほどの大切な男が。」

「待てよ。
 でも普通そんな感じなら、リカルドとキスしたり、色々しないだろ?」

「誤魔化すためだよ。
 僕は頭がおかしくなりそうだ。」

 僕はたまらず頭を抱える。

「結論づけるのは、まだ早いぞ。
 まだ、浮気していると決まったわけじゃないだろ?」

「ああ、今邸の私兵に探らせているところだ。」

「なら、最後まで希望を捨てるな。」

「なぁ、僕達に子供ができなかったからだと思うか?

 いや、今のは聞かなかったことにしてくれ。」

「子供がいてもいなくても、するやつはするし、しないやつはしない。

 でも、イライザ夫人がする人とはまだ思えないんだ。」

「僕もそう思っていた。」

 僕は、疑惑が大きくなればなるほど、不安だし、疑心暗鬼になっていく。

 最近は、王宮に行っても、心ここにあらずで、何も言わないけれど、多分僕の異変に王子も勘付いている。

 侯爵当主として情けないが、イライザを愛している分、僕はどんどん不安定になって行く。





「ねぇ、聞いているの?」

「聞いているよ、母上。」

 母がいる棟の庭園で、日課の母のお茶に付き合っている。

 同じ邸の中だけど、こちらは、父が亡くなってから、ますます静かになり、母のキンキン声だけが響く。

「もう、リカルドだけなんだから、私の話を聞いてくれるのは。

 旦那様が亡くなってからは、あなたしかいないのよ。」

 そう言うが、イライザを拒否したのは、母だ。

 もし、子供ができなくともイライザを認めていたならば、こんなに一人寂しい思いをしなくても済んだのに、自分のせいだとは、母は気づいていない。

「ねぇ、そろそろ、第二夫人でも娶ったら?」

「何度も言わせないでくれ。
 母上だって、父上に認めなかっただろ?」

「一緒にしないで。
 私はあなたを産んだわ。
 あの人とは違うわ。」

「そうだとしても、嫌な気持ちは一緒だろ?

 どうして、自分がされたくないことを人には求める?」

「仕方ないでしょ。
 後継は必要なんだから。」

「その話は、親族の者をもらうと言うことで、決着がついている。」

「嫌なものは嫌なの。
 あなたにそっくりな孫が欲しいのよ。」

「すまないが、それは果たせない。」

 父が亡くなってから、母はますます孫を欲しがるようになった。

 いつもなら、それを受け流すこともできたが、最近は僕にも余裕がない。

 大声で、無理なんだよ。と叫んでしまう日がいつか来そうで、自分でも怖い。

 感情的になることは、貴族として、とっくに無くして来たのに。

 僕は最近自分が嫌いだ。





「どうぞ、入って。」

 執務室で仕事をしていると、イライザの尾行を頼んだべモートが入って来る。

「リカルド様、報告があります。」

「ああ、待っていたよ。
 話してくれ。」

 僕とライナスはその話に聞き入る。

「イライザ様が、馬車から離れ向かった先は、ある邸でした。

 こじんまりとしてはいますが、誰かの別邸と言う感じで、建物は立派です。」

「なるほど。」

「そして、イライザ様がその邸に消えた後、邸に入った者は、ノーマン医師ただ一人です。

 後は使用人の出入りがあるだけです。」

「何と。
 では、ノーマン医師との密会場所なのか?」

「それがそうではなく、ノーマン医師も長くいたわけではありません。

 多分、どなたかを診察してすぐに帰られたと思います。

 そして、イライザ様以外、あの邸に出入りはありません。

 なので、イライザ様は誰かの看病をしているのではないでしょうか?」

「なるほど。
 イライザは、父の看病もしてくれていたしね。」

 母は父が倒れてからは、お茶会だとか、友人と出かけるなどと言って、父に寄り付かなかったから、その隙にイライザは父を心配して、父のいる棟を訪れていた。

「はい、私がキャサリン様がいない時、イライザ様をご案内しておりました。

 旦那様は、いつもイライザ様が来てくれるのを、楽しみに待っておられましたから。」

 ライナスは、思い出して微笑む。

 「だとしてただの看病なら、わざわざ僕に隠す相手とは誰だろう?」

「わかりません。
 そうなると、やはり男かもしれませんね。
 残念ですが。」

 ライナスは諦め顔で首を振る。

「とにかく、イライザ様がもうあの邸に通わせないようにするのは、大変なことでしょうね。

 いっそのこと、目をつぶったらいかがですか?

 下手に追い詰めると、イライザ様がリカルド様に離縁を申し出るかもしれませんよ。」

「そんなことが?」

「その相手と無理矢理引き離すのですから、覚悟がいります。

 反対に子供ができなかったから身を引くと言われたら、こちらとしても離縁を認めざるを得ないでしょう。

 不貞の証拠を掴んでいれば、話は変わりますが。

 だからと言って、イライザ夫人の不貞がキャサリン夫人に知られたら、大騒ぎでしょうし。

 よく考えてみられたらいかがですか?」

「ああ、そうするよ。」

 ライナスとべモートが、部屋を出た後、しばらく一人で強い酒を飲んだ。

 この前までは、十年経っても新婚生活などと浮かれていたのに、あっと言う間にどん底だ。

 人生わからないものだ。

 僕はいつ間違ったのだろう。

 イライザが、僕以外の男を求めるなど、今でも信じたくないし、受け入れられない。

 しかも僕はこうなるまで、全く気がつかないほどの鈍感な男で、それでも、イライザを失いたくないから、動けない。

 でも、それならどうしてイライザは変わらず僕を受け入れる?

 好きな男がいるとしたら、普通は嫌なものでないのか?

 秘密にするためなら、僕に抱かれても我慢するのか?

 僕は沼にハマって動けないように、酒に溺れ、そのまま執務室で寝てしまった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

邪魔しないので、ほっておいてください。

りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。 お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。 義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。 実の娘よりもかわいがっているぐらいです。 幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。 でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。 階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。 悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。 それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

初めから離婚ありきの結婚ですよ

ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。 嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。 ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ! ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

処理中です...