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第一章
うっかり
しおりを挟む「異能者差別を無くそうと動いていたのは確かにそうだ。
だが、あんなのはただの自己満足だ。お前を棄てた事を後悔して、少しでも自分の中で罪が軽くなるようにやったことだ。
あんな事で私の罪が消えるものか!」
「いいえ、陛下。
例えそれが自己満足だったとしても、私は救われました。
自分が異能者だと自覚してから、バレてしまったらどうしようと思って毎日毎日怯えていました。
そんな私が今はこうしてなんの気兼ねもなく外を歩いて、なんの心配もなく働けているんです。
私は、異能者でありながら日常を過ごすことができました。それだけで私は幸せでした」
私は精一杯笑った。
私は政治とかよく分からないけど、私からしたら陛下は全力で頑張っていたと思うから。
そんなに自分を責めて欲しくありません。
「違う、違うんだ……あれは、私の……」
「私が9歳の時、孤児院があった場所一帯の見回りが強化されました。
多分陛下が私の安全を確保するためにしてくれた事だと思います。それで、見回りをしていた騎士の人に聞いたことがあるんです。
『異能者についてどう思いますか』って、そしたら、『異能者も普通の人間と何も変わらないよ。どちらも人間。どちらが優れているってこともないし劣っていることもない。
僕は騎士として異能者でも異能者でなくても守ってみせるよ』って言われたんです」
陛下の目に涙がたまっていた。
「私にはそれがたまらなく嬉しかったんです。
だって、国の騎士がそう言ってくれたんですから。だから陛下、私は陛下のことを恨んでいません。むしろ感謝しているくらいです」
「わ、私は恨まれる事はあっても感謝されることなどーー」
「父上。仮に父上が自己満足でやっていたとしても相手が感謝してくれていると言うのならそれでいいじゃありませんか。
それに、セラさんの14年間は戻ってこないけど、棄てる選択をしてしまった事を後悔しているのならこれからが重要なんじゃないですか?」
「そうですよ父さん。もうあの会場で自分の娘と言ってしまったんですからいつでも会えますしね」
「ぐ、グラン……アベルト……」
陛下は息子達の言葉を聞いて少し納得したみたいだけど、まだ完全に納得しているわけじゃないみたい。
私は感謝してるからもういいのに。
「異能者の私の事を忘れずに、異能者の私の為に14年間も頑張ってくれてありがとう。お父さん」
「うっ……うっ……」
少しだけ堪えた後、陛下は盛大に泣き出した。もうそれはここにいる私達だけの秘密にしないといけないくらい。
絶対に他の人には見せられない。一国の王が子供のように泣いているんだから。
それにしても、お父さんかぁ。
私が今日口にした言葉は14年間生きてきて初めて使った言葉だった。
これからも言えるといいなぁ。
だって、家族がいなかった私にはこの言葉を使う事が堪らなく嬉しいから。
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