異世界ヘアサロン あなたの魅力、引き出します

椰子ふみの

文字の大きさ
上 下
29 / 46
第一章

魔力

しおりを挟む
「では、今日も皆様、髪のお手入れ方法をしっかり覚えてください」

 お風呂で声を張り上げる私。エスメラルダさんのお屋敷です。
 目の前には十人もの侍女さんが並んでいる。みんな可愛いのに真剣な顔でこっちを見ているから、緊張してしまう。
 パーティーの後、エスメラルダさんたちは辺境領に戻って年越しするらしい。侍女たちは私がいなくても、エスメラルダ様の髪を最高の状態に保ちますと張り切っている。
 ヘアケア教室、第二回。第一回はシャンプーの仕方だけで終わってしまった。今回は髪の乾かし方だが、前回の復習として、目の前で洗ってもらう。
 しかし、すごい屋敷だ。侍女用のお風呂がきちんとあって、しかも、十人も一度に入れる。
 デルバールでの教室と違うのは、髪を洗うだけだからと、みんな服を着ているところだ。透けないように黒っぽい生地の服だ。その上に防水のケープを羽織ってもらった。サロン用に作ってもらったんだけど、やっぱり、便利。エスメラルダさんもたくさん買ってくれた。

「まずは前回の要領で髪を洗ってください。できた方からチェックしますので、私に声をかけてください」

 みんな、前回、教えた通り、まず、ブラシで髪をとかしている。

「一人一人、髪の量は違うので、早く洗えたらいいわけじゃありませんよ」

「いいですか。髪の毛は濡れると、傷みやすくなるので乱暴に扱わないでください」

 シャンプーを始めた侍女さんたちをまわって見ていく。

「マリアさん、できました」

 手を挙げた侍女の髪を触って確認する。

「はい、合格です」

 次に隣の侍女が手を挙げたので確かめる。

「不合格です。すすぎが足りていません。さわると、つるっとした感じが残ってます。キシキシとした感じが出るまですすいでください」

 不合格になった侍女に自分の髪と合格した侍女の髪を触り比べてもらう。

「確かに違いますけど、つるっとしている方がいいんじゃないですか?」

 不思議そうに質問された。

「それはシャンプーが残っています。残っていると、頭皮に問題が発生しやすくなります。つまり、吹き出物、痒み、フケ、抜け毛、薄毛の原因になる可能性があります。洗う時間の三倍の時間をすすぎに使ってください」

 慌てて、すすぎ直す人が多い。ヘアケアの知識があまりないんだよなあ。お風呂やシャワーは立派な物があるのに。

 全員合格したところで、タオルドライを説明する。

「濡れたまま、放置は禁止ですよ。すぐに髪の根本から拭いていってください。擦らないように」

 また、全員の状態を確認して、いよいよ、ドライヤー。

「二人一組になって、それぞれお互いの髪を乾かしてもらいます」

 髪が長いから大変だ。

「必ず、上から風を当てるようにしてください。耳の後ろから乾かすのがおすすめです」

 実際にやって見せると、すぐにマスターしていく。さすが、エスメラルダさんの侍女は優秀。

「あれ」

 一人の侍女の手が止まった。

「どうしました?」
「ドライヤーが止まってしまって」
「魔石切れじゃない? ジーナ、充填、お願い」

 呼ばれたジーナという侍女がやってくると、ドライヤーのハンドル部分をスライドさせた。ゴツゴツした灰色の石がコロンと出てくる。魔力が無くなった魔石だ。
 ジーナはそれをじっと握った。気のせいか、その手がぼんやりと光っているように見える。

「はい、充填完了」

 石がかすかに蛍光している。その石をドライヤーに戻してスイッチを入れると、また、温風が出る。

「ジーナ、ありがとう」

 それから、しばらくして、髪の乾燥を終了。質問タイムとなる。生徒たちと一緒にお茶を飲みながらなので、こんなの楽しくていいのかなと思ってしまう。今日はエスメラルダさんもハロルドさんもお出かけ中なので、気楽に話をするようにお願いしている。

「乾かし方でこんなにツヤが変わるんですね」
「ええ、髪が長いと、ドライヤーで乾かすのも大変だけど、頑張る甲斐があるでしょ」
「はいっ」
「でも、魔石の充填ってあんなふうに行うんですね。買ってきた魔石しか見たことがなかったので面白かった」

 私の言葉に侍女長が答えた。

「この屋敷でも魔力の入った魔石を購入してますが、鉱山で掘り出された原石と比べると充填された魔石は消耗が早いんです。でも、さっきみたいにあと少しって時は充填した方が早いので」
「充填できるのはジーナさんだけなんですか?」
「ええ。この屋敷ではそうです。充填には魔力が高い人じゃないとできないので。魔力が高い人は辺境領に優先して配属されるんです。非常時の武器の充填とか大事な仕事ですから」

 なるほど、大変だ。

「魔力が高い人って珍しいんですか。あ、私の国にはほとんどいなかったので」

 いや、本当は一人もいないと思うけど。

「え、でも、マリアさん、強いんでしょう。魔石交換もせずにずっと、ドライヤーを使ってますよね」
「いえ、私の力じゃなくて、私のドライヤーは特別製で長持ちするようになっているんです」

 ドライヤーが異世界チートを持っているなんて言えない。

「そうなんですか。我が国では魔力が高い人は全体の三分の一ぐらいかな。でも、コントロールが難しいので、騎士団や神殿で鍛えないと魔法として使うのは無理ですね。魔石の充填は簡単なんですけど」

 そういえば、ジェシーさんの治癒能力はすごかったな。
 と、あの間近で見た顔の破壊力を思い出してしまった。色気がある人は困る。冷静に考えられない。
 そういえば、ブライアン王子もきちんと魔法を使っていたということは真面目に鍛えていたのか。へー、意外。

「レオさんも魔法を使えるんですかね」
「もちろんです。辺境領で魔獣が大発生した時、大活躍されたんですよ。炎系の魔法を使われるんですが、それはそれはお強いとお聞きしました」

 見てみたいな。かっこいいんだろうな。

「マリアさん、レオさんが気になります? レオさんもマリアさんを意識してますよ」

 いきなりそんなことを言われるから、私はお茶を吹き出しそうになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

邪魔しないので、ほっておいてください。

りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。 お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。 義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。 実の娘よりもかわいがっているぐらいです。 幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。 でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。 階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。 悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。 それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

初めから離婚ありきの結婚ですよ

ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。 嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。 ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ! ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

処理中です...