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第一章
号外
しおりを挟む あー、やっちゃった、やっちゃった、やっちゃった。
私は自分の部屋で悶えていた。
レオンさんと踊っている途中から記憶がない。ステップを教わっても、足を踏みまくってしまった。「大丈夫ですよ」と言われて、持ち上げられて、足がつかないまま、くるくる回って。
ああ、あれで酔いが回ったのかなあ。
誰が連れ帰ってくれたんだろう。うう、謝りに回らないと。
「マリア、いつまで寝てるの?」
「はーい、すみません」
久しぶりにミルルに起こされてしまった。慌てて着替えて、食堂へ。フランチェスカさんは何か変な匂いのお茶を飲んでいる。
「マリアもいるかい? 二日酔い覚ましのお茶だよ」
「いえ、大丈夫です」
普通に朝食を取る。
「おや、案外、酒に強いんだね。昨日の様子じゃ、今日は起きてこないかと思ったのに」
「あの、すみません。昨日の夜、最後は記憶がなくて、ご迷惑をかけたんじゃ」
「私たちは大丈夫」
「もしかして、レオさんには」
「うちまで運んでくれたけど、役得だって笑ってたよ」
「うう」
お詫びしなくちゃ。いや、お礼しなくちゃ。
「それより、これ」
フランチェスカさんに渡されたのは一枚の新聞だった。この世界にも号外ってあるんだ。と、記事に目を通し、びっくりした。
『エスメラルダ・アルバ嬢、新たな魅力でパーティーの主役へ』
エリアード学園の卒業パーティーにおいて、主席で卒業されたエスメラルダ・アルバ嬢は短い髪に新しいスタイルのドレスで登場し、男性も女性も魅了した。ダンスを求めるのは男性だけでなく、いまだかってない長い行列ができた。その新しいスタイルはデルバールの髪結師マリアとデザイナー、アーネットによるものと記者の調査で判明した』
エスメラルダさんが絶賛され、婚約破棄には触れていない。ブライアン王子とシャーロットの名前が載っていないのは大満足だが、私とアーネットさんの名が載ってる!
「こ、これ」
「王子の名を出して、不敬と疑われたくないから、エスメラルダ様のスタイル中心で記事をまとめたんだね。おかげで朝から問い合わせがうるさくてしょうがないよ」
「す、すみません」
「いいよ、いいよ。みんな、エスメラルダ様を力づけたいと思っていたんだ」
「でも、やり過ぎじゃないか」
口を挟んだのはジェシーさんだった。
「勝手に入ってこないでください」
ジェシーさんの後ろでミルルが抗議している。
「おはようございます。どうしたんですか」
私が尋ねると、ジェシーさんはわざとらしくため息をつき、号外をポンポンと叩いた。
「これを見て、慌てて来たんだよ。こんなに目立って、落ち人とバレたらどうするの」
「でも、エスメラルダ様をあのまま、放っておくなんて私には無理です」
心配して来てくれたのは嬉しいけど。
「どうせ、自分の店を開いたら、バレてしまうと思います」
私のヘアサロンはこの世界には異質なものになる。遠い国から来たと言い張っても無駄かもしれない。
「このまま、デルバールで働くのじゃ、駄目なのか? 危険をおかすより、例えば、結婚とかは考えないのか? 考えるなら」
ジェシーさんの言葉の最後の部分はよく聞こえなかった。バタバタと今度はアーネットさんが駆け込んできたからだ。
「急いで。エスメラルダ様の依頼よ」
私の手首をつかんでグイグイ引っ張っていく。
「何をする」
ジェシーさんが止めようとした。
「仕事なんだから、邪魔しないで。陛下に呼び出されたそうなの。今日もきれいにしてあげなきゃ、意味がないでしょ」
「もちろん! でも、私、こんな格好で」
「構わない。馬車の中で着替えてもらうから」
「待って、道具を取ってこなくちゃ」
私は慌ててワゴンを取ってくる。
「私も行くよ」
フランチェスカさんも一緒にエスメラルダ様のお屋敷から迎えに来た立派な馬車に乗り込むと、アーネットさんが持ってきた衣装箱が一杯積まれていた。
「売れると思って、あれから、いくつもドレスを直しててよかった」
そう言うアーネットさんの目にクマができている。うわっ、あれから働いていたの?
着替え終わった頃にエスメラルダ様のお屋敷に着いた。
馬車から降りるのに背の高い騎士がエスコートしてくれた。
「マリア様ですね。ありがとうございます。おかげさまでお嬢様の名誉は守られました」
「いえ、そんな。様なんて、つけないでください」
お屋敷の使用人だろうか。ずらりと並んで頭を下げている。その中を通って、屋敷に入った。
パーティーの時に付き添っていた侍女に案内され、エスメラルダさんの部屋に入る。
「マリアさん、アーネットさん、それから、フランチェスカさん、来てくださってありがとうございます。お聞きかと思いますが、急に登城することになりまして、昨日のような姿にしてほしいんです」
「おまかせください。昨日より、さらにお美しくして差し上げます」
フランチェスカさんが代表して答えた。アーネットさんと私はうんうんとうなずく。
「今日は爽やかな感じにまとめましょう」
アーネットさんがパンツタイプじゃないドレスを取り出すと、エスメラルさんは首を振った。
「昨日のようなズボンのドレスをお願い」
水色のパンツタイプのドレスをアーネットさんが素早く着せつけた。シースルーの袖がついている。
次は私の番。
髪は洗ってきれいに乾かしてあるので、ヘアアイロンだけで良さそうだ。
「昨日、婚約破棄を宣言されことより髪を切られたことの方が辛かったわ。でも、あなたが私を救ってくれた。綺麗な髪にしてもらって、生まれ変わったみたい。スッキリした」
エスメラルダさんが笑う。化粧する前ということもあって、年相応に見える。今日のメイクは昼間だから、ラメは無しでアイシャドウはドレスと同系色の水色にしよう。
「私の故郷の国では失恋したら、髪を切る人が多かったんですよ。踏ん切りをつけるためとか」
「そうね。私の気持ちも定まったわ。男性を支え、女性らしく。そう教育されてきたけど、気持ちが自由になったみたい。私、辺境伯を継ぐわ。女性でも継いでみせる。その決心の証として、このまま、短い髪でいようと思うの。それで、私の専属になってくれない?」
「えっ」
私は自分の部屋で悶えていた。
レオンさんと踊っている途中から記憶がない。ステップを教わっても、足を踏みまくってしまった。「大丈夫ですよ」と言われて、持ち上げられて、足がつかないまま、くるくる回って。
ああ、あれで酔いが回ったのかなあ。
誰が連れ帰ってくれたんだろう。うう、謝りに回らないと。
「マリア、いつまで寝てるの?」
「はーい、すみません」
久しぶりにミルルに起こされてしまった。慌てて着替えて、食堂へ。フランチェスカさんは何か変な匂いのお茶を飲んでいる。
「マリアもいるかい? 二日酔い覚ましのお茶だよ」
「いえ、大丈夫です」
普通に朝食を取る。
「おや、案外、酒に強いんだね。昨日の様子じゃ、今日は起きてこないかと思ったのに」
「あの、すみません。昨日の夜、最後は記憶がなくて、ご迷惑をかけたんじゃ」
「私たちは大丈夫」
「もしかして、レオさんには」
「うちまで運んでくれたけど、役得だって笑ってたよ」
「うう」
お詫びしなくちゃ。いや、お礼しなくちゃ。
「それより、これ」
フランチェスカさんに渡されたのは一枚の新聞だった。この世界にも号外ってあるんだ。と、記事に目を通し、びっくりした。
『エスメラルダ・アルバ嬢、新たな魅力でパーティーの主役へ』
エリアード学園の卒業パーティーにおいて、主席で卒業されたエスメラルダ・アルバ嬢は短い髪に新しいスタイルのドレスで登場し、男性も女性も魅了した。ダンスを求めるのは男性だけでなく、いまだかってない長い行列ができた。その新しいスタイルはデルバールの髪結師マリアとデザイナー、アーネットによるものと記者の調査で判明した』
エスメラルダさんが絶賛され、婚約破棄には触れていない。ブライアン王子とシャーロットの名前が載っていないのは大満足だが、私とアーネットさんの名が載ってる!
「こ、これ」
「王子の名を出して、不敬と疑われたくないから、エスメラルダ様のスタイル中心で記事をまとめたんだね。おかげで朝から問い合わせがうるさくてしょうがないよ」
「す、すみません」
「いいよ、いいよ。みんな、エスメラルダ様を力づけたいと思っていたんだ」
「でも、やり過ぎじゃないか」
口を挟んだのはジェシーさんだった。
「勝手に入ってこないでください」
ジェシーさんの後ろでミルルが抗議している。
「おはようございます。どうしたんですか」
私が尋ねると、ジェシーさんはわざとらしくため息をつき、号外をポンポンと叩いた。
「これを見て、慌てて来たんだよ。こんなに目立って、落ち人とバレたらどうするの」
「でも、エスメラルダ様をあのまま、放っておくなんて私には無理です」
心配して来てくれたのは嬉しいけど。
「どうせ、自分の店を開いたら、バレてしまうと思います」
私のヘアサロンはこの世界には異質なものになる。遠い国から来たと言い張っても無駄かもしれない。
「このまま、デルバールで働くのじゃ、駄目なのか? 危険をおかすより、例えば、結婚とかは考えないのか? 考えるなら」
ジェシーさんの言葉の最後の部分はよく聞こえなかった。バタバタと今度はアーネットさんが駆け込んできたからだ。
「急いで。エスメラルダ様の依頼よ」
私の手首をつかんでグイグイ引っ張っていく。
「何をする」
ジェシーさんが止めようとした。
「仕事なんだから、邪魔しないで。陛下に呼び出されたそうなの。今日もきれいにしてあげなきゃ、意味がないでしょ」
「もちろん! でも、私、こんな格好で」
「構わない。馬車の中で着替えてもらうから」
「待って、道具を取ってこなくちゃ」
私は慌ててワゴンを取ってくる。
「私も行くよ」
フランチェスカさんも一緒にエスメラルダ様のお屋敷から迎えに来た立派な馬車に乗り込むと、アーネットさんが持ってきた衣装箱が一杯積まれていた。
「売れると思って、あれから、いくつもドレスを直しててよかった」
そう言うアーネットさんの目にクマができている。うわっ、あれから働いていたの?
着替え終わった頃にエスメラルダ様のお屋敷に着いた。
馬車から降りるのに背の高い騎士がエスコートしてくれた。
「マリア様ですね。ありがとうございます。おかげさまでお嬢様の名誉は守られました」
「いえ、そんな。様なんて、つけないでください」
お屋敷の使用人だろうか。ずらりと並んで頭を下げている。その中を通って、屋敷に入った。
パーティーの時に付き添っていた侍女に案内され、エスメラルダさんの部屋に入る。
「マリアさん、アーネットさん、それから、フランチェスカさん、来てくださってありがとうございます。お聞きかと思いますが、急に登城することになりまして、昨日のような姿にしてほしいんです」
「おまかせください。昨日より、さらにお美しくして差し上げます」
フランチェスカさんが代表して答えた。アーネットさんと私はうんうんとうなずく。
「今日は爽やかな感じにまとめましょう」
アーネットさんがパンツタイプじゃないドレスを取り出すと、エスメラルさんは首を振った。
「昨日のようなズボンのドレスをお願い」
水色のパンツタイプのドレスをアーネットさんが素早く着せつけた。シースルーの袖がついている。
次は私の番。
髪は洗ってきれいに乾かしてあるので、ヘアアイロンだけで良さそうだ。
「昨日、婚約破棄を宣言されことより髪を切られたことの方が辛かったわ。でも、あなたが私を救ってくれた。綺麗な髪にしてもらって、生まれ変わったみたい。スッキリした」
エスメラルダさんが笑う。化粧する前ということもあって、年相応に見える。今日のメイクは昼間だから、ラメは無しでアイシャドウはドレスと同系色の水色にしよう。
「私の故郷の国では失恋したら、髪を切る人が多かったんですよ。踏ん切りをつけるためとか」
「そうね。私の気持ちも定まったわ。男性を支え、女性らしく。そう教育されてきたけど、気持ちが自由になったみたい。私、辺境伯を継ぐわ。女性でも継いでみせる。その決心の証として、このまま、短い髪でいようと思うの。それで、私の専属になってくれない?」
「えっ」
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