異世界ヘアサロン あなたの魅力、引き出します

椰子ふみの

文字の大きさ
上 下
12 / 46
第一章

再会

しおりを挟む
「青の騎士団の者だ」

 ジェシーさんが逃げてきた小柄な男に声をかけると、男の人はジェシーさんにすがりついた。

「助けてください。うちにこの男の仲間が。妻と息子が捕まってるんです。お願いします」

「仲間は何人だ」
「一人です」

 ジェシーさんがチラリとこちらを見た。

「あの、一人でも帰れます。助けに行ってください」
「わかった。この先のレーブというカフェで待っていてくれないか」

 私がうなずくと、ジェシーさんはまわりの人からロープをもらい、すばやく、男を街灯に縛りつけた。騎士団を呼びに行くように頼み、小柄な男の人と一緒に駆けて行く。
 仕事ができる人ってかっこいい。と、見送って、私は先に進んだ。
 本当に初めて一人で歩く異世界だ。
 店の名前を一軒一軒、確認しながら歩く。レーブ、レーブ。
 やがて、可愛いお店が現れた。緑の屋根に出窓にはレースのカーテンと赤い花の鉢植え。これはカフェでしょ。
 でも、看板が見当たらない。ここで合っているのかな。
 のぞきこむと、カーテン越しにテーブルと椅子が見えた。

「どうしたの?」

 声をかけられ、振り向くと、若い男性が二人いた。この人たちもチャラい感じがするなあ。シャツの胸元を開けてる感じとか、キラリと白い歯を見せる笑顔とか。

「ここ、レーブというお店でしょうか」

 尋ねると、二人は顔を見合わせて、うなずきあった。

「レーブはもう少し先なんだ。案内してあげる」
「でも、もっといい店知ってるんだ。一緒に行こう」

 怪しい。これって、ナンパ? それとも、客引き?

「あの、ここで待ち合わせしているので、結構です」

 断ったのに、二人は距離を詰めてきた。

「こんな可愛い子を待たせる奴なんて、放っておけばいい」

 手首を掴まれると、恐怖で体が硬直した。また、売られたりするの?

「こら、何をしてる!」

 大きな声だった。男たちはビクッとすると、私の手首を放し、逃げていった。

「大丈夫か? とりあえず、怒鳴ったが」

 大柄な男性が駆け寄ってきた。

「はい、大丈夫です。ありがとうございました」

 と、顔を上げて、気づいた。黒マントさんだ。黒マントはないけど、もしゃもしゃした髪にひげ。そして、優しい目。

「また、助けてもらいましたね。本当にありがとうございます」

 頭を下げたが、私が誰だかわからないみたい。今日はメイクで化けてるからなあ。

「オークションで買ってもらった」

 小声で告げると、黒マントさんの目が丸くなった。

「あの時の?!」

「はい、マリアと言います」
「俺はレオと呼んでくれ」
「レオさん、このお店って、レーブというお店ですか?」
「ああ、そうだが」
「よかった」
「用事か?」
「ジェシーさんに待っているように言われて」

 レオさんは眉を寄せた。

「危ないから、付き合おう」

 そう言うと、ドアを押した。ドアには小さな金のベルが付いていて、開けるとチリンと鳴った。差し出された手に自分の手を重ねると、中にエスコートされた。

 可愛いお店だった。中は若い女の子とカップルで一杯だった。その中に並外れた体格ともしゃもしゃのひげのレオさんは浮いていた。
 店員さんが近づいてくると、レオさんは何かバッジのような物を見せた。すると、たちまち、個室に案内された。個室と言ってもドアはないから、フランチェスカさんに叱られることはなさそうだ。

「初めてでいらっしゃるなら、レーブ特製のティーセットをお勧めします」

 それを私もレオさんも頼むと、レオさんは私もじっと見つめた。

「ジェシーはどうしたんだ」

 そこで今日のいきさつを話した。

「珍しい。休みなのにあいつが真面目に働くなんて」
「いつも真面目なんだと思います。それにジェシーさんのおかげで助かったんです」

 そこでお茶とお菓子が運ばれてきた。お茶は紅茶っぽい味。お菓子は赤い小さな実がのったタルトだ。

「美味しい」
「確かに」

 レオさんが食べると、ケーキもフォークも小さく見える。

「それで、ジェシーのおかげというのは?」

 私はジェシーさんの紹介でデルバールで働いていることを話した。

「それはよかった」

 笑顔で言ってもらうと、お父さんに褒められたような気分だ。

「レオさんのおかげです。帰れないとはっきり言ってもらったおかげで覚悟が決まりました」
「よく頑張ってるんだな」
「運がいいだけです」

 それより、気になることがあった。

「あの、私、そんなに田舎から出てきたように見えます?」

 変なのにこれからも絡まれたら、嫌だなあ。

「いや、そうじゃない。さっきのはそんなタチの悪い犯罪者じゃないと思う。ただ、マリアさんは可愛いいんだから、気をつけた方がいい」

 可愛いって、この世界の人はよく言うなあ。あいさつ代わりかな。

「マリアちゃん、待たせてごめん」

 ジェシーさんの声が聞こえた。私は慌てて部屋の外に出た。ジェシーさんは怪我も何もないみたい。よかった。

「さっきの方のご家族は大丈夫でした?」
「ああ、大丈夫だ。ただ、仕事に戻らないといけなくなって。デルバールから誰か迎えに来てもらおうか」
「いえ、大丈夫です。道を覚えるのは得意なので一人でも」
「大丈夫じゃないだろう」

 レオさんがのそりと現れた。

「かっ、いえ、どうしてこちらに?」

 ジェシーさんがピシッと姿勢を正した。

「君がこの店の菓子が美味いと言っていたから、屋敷の者への土産に買いに来たんだ。それから、ついでだから、私がマリアさんを送って行こう」

 レオさんの言葉にジェシーさんは驚いたようだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

邪魔しないので、ほっておいてください。

りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。 お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。 義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。 実の娘よりもかわいがっているぐらいです。 幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。 でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。 階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。 悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。 それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

初めから離婚ありきの結婚ですよ

ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。 嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。 ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ! ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

処理中です...