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第一章
初仕事
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ボンキュッボン。ボンキュッボン。素晴らしいスタイルの裸体が並ぶ中で貧相な体をさらしながら、私は叫ぶ。
「昨日から髪結いと化粧のために雇われましたマリアです。よろしくお願いします。みなさんの髪の毛を洗わせてください」
女性たちはチラリと私を見ると、また、おしゃべりに戻る。まあ、こんなところで自己紹介する奴って怪しすぎるよね。フランチェスカさんは後で紹介するって言ってたけど、私はもう仕事がしたい。まずはシャンプーからだ。
「髪の毛を洗わせてください。お手入れします。きれいにしますよ」
キョロキョロしながら、色とりどりの髪を眺める。結う前の髪を覚えたい。
「試してみませんか? どなたか……」
声を上げていると、肩を叩かれた。
「イブさん」
「お願いするわ。昨日のように結ってもらうことなるんでしょう」
「はい、髪飾りも届きます」
「じゃあ、お願い」
イブさんが小さな椅子に腰掛けるので、私はシャワーを手に取った。中世っぽいのにシャワーやシャンプーがあるのが不思議だ。リンスまである。お風呂好きの落ち人がいたのかもしれない。
まずはシャンプーなしで洗い流す。それから、シャンプーを泡立てて、一回目。流して二回目。リンスをつけて、流したら次は。
「かゆいところはないですか?」
「ないけど」
「少し頭をマッサージします。髪にもお肌にもいいんですよ」
頭皮マッサージには慣れていないだろうから、少し力は抑え目にする。
「変な感じ。でも、気持ちいい」
イブさんの言葉に嬉しくなる。軽く肩を揉んで終了。
「あと、髪の毛を乾かすのも私がしますから、声をかけてください」
イブさんが湯船に入ると、また、他の人に声をかける。私には声をかけずにイブさんに話しかける人はいる。うわっ、何を話しているか気になる。
ウロウロしながら、次にシャンプーする相手を探したけど、誰も相手にはしてくれなかった。
「私の髪を乾かしてくれるんでしょ。もうすぐ、上がるから、あなたもきれいにしなさいよ」
イブさんには言われ、私は慌てて自分を洗うと、お風呂を出た。
さて、ドライヤーがない。いや、ワゴンの中にあるけど、コンセントなんかないよね。でも、くせで手に持つとすぐにスイッチを入れてしまった。ブォー。いきなり、暖かい風が出る。え、コンセントを繋いでないのに動くの? すごい。さすが、魔法の国。
「何」
大きな音にイブさんがおびえてしまった。
「私の国の魔法道具です。髪の毛を乾かす道具です。風が出るので少しうるさいですが、我慢してください」
まさか、チートな能力を得たのがドライヤーだったとは。でも助かる。トリートメントオイルをなじませてから、ブラシで少し引っ張るようにして、髪の毛を乾かしていく。最後は冷たい風で仕上げ。うん、きれい。染めたりしていないせいか、つやつやの髪には天使の輪ができている。
「イブさん、仕上げは着替えてからになります。その時に化粧もさせてもらいますからね」
さてと。私はお風呂に戻って、声を張り上げた。
「髪の毛を洗わせてください」
叫んでも、フランチェスカさんに呼ばれるまで、誰も私にシャンプーを頼む人はいなかった。
「間に合ったよ」
フランチェスカさんはテーブルの上のかんざしを指し示した。全部で十本。銀が四本、残りは金。すべて一本足のかんざしだけど、ゴージャスすぎる。繊細なチェーンで小さな石が藤の花のようにぶら下がっているもの。大きな石が一つ、存在感を放っているものがあれば、花の型に彫刻された石が付いているものもある。
「きれい」
「四人の子にこちらの銀のかんざしをつけてもらいたいんだ」
「あの、銀の方が少し地味というか、安そうというか」
「ああ、金の方はお客さんに買わすつもりだから」
「そんな、うまくいくんですか」
「うまくいくようにきれいに飾ってやってくれ」
フランチェスカさんに選ばれた四人がやってきた。ドレスを身につけた姿はタイプがそれぞれ違うけど、みんな綺麗。
もちろん、最初はイブさんだ。髪をねじって、かんざしで留めて。
「イブさん、他の人に外し方を見せてください」
頼むと、イブさんは三人の前に背を向けて立ち、手をしなやかに上げると、かんざしを抜いた。パラリ。頭を振ると、髪がサラリと落ちる。シャンプーのコマーシャルみたいだ。丁寧に仕上げたから、サラサラだ。
イブさんの髪をもう一度、夜会巻きにして、それから、化粧をする。選んだかんざしは赤い宝石一つにしたので、化粧もそれに合わせる。ベースは丁寧に。アイライナーは長めに赤。まつげはまっすぐのままで、マスカラで長さを出す。口紅も赤にするとエキゾチック美人だ。
「きれいにしてくれてありがとう」
言われるとドキドキするほど、色っぽい。
その姿を見て、乗り気でない感じだった四人がやる気になった。こうなってくると私も楽しい。黒髪じゃない髪の毛に合わせる色を考えるのも楽しい。
サラサさん。ふわふわレモンイエローの髪。夜会巻きは小花のかんざしで、ところどころ、髪の毛をゆるめる。目は丸さを強調して可愛く仕上げる。
シルヴィアさん。ウェーブした明るい金髪に薔薇のかんざし。お姫様をイメージしよう。おくれ毛は抜き出して、カールアイロンで巻く。チートなのはドライヤーだけでなかった。アイロンも動く。ぱっちりなおめめはあまり、手をかけず、ビューラーでまつ毛をカールさせる。
ジュリーさん、栗色のストレート。両脇を少し編み込みにしてから夜会巻き。色とりどりの宝石がついたかんざし。宝石の中の赤に似た色をリップに青に似た色をアイシャドウに。
「完成です」
全員のヘアメイクが出来上がるまで、誰も出ていかずに見ていたことに気づいた。
「ありがとう」「こんなの初めて」「これからもお願いね」
かけられる言葉が嬉しい。
「さ、みんながんばって、売り込むんだよ」
フランチェスカさんの言葉にみんな、うなずいて、支度部屋を出て行った。
「昨日から髪結いと化粧のために雇われましたマリアです。よろしくお願いします。みなさんの髪の毛を洗わせてください」
女性たちはチラリと私を見ると、また、おしゃべりに戻る。まあ、こんなところで自己紹介する奴って怪しすぎるよね。フランチェスカさんは後で紹介するって言ってたけど、私はもう仕事がしたい。まずはシャンプーからだ。
「髪の毛を洗わせてください。お手入れします。きれいにしますよ」
キョロキョロしながら、色とりどりの髪を眺める。結う前の髪を覚えたい。
「試してみませんか? どなたか……」
声を上げていると、肩を叩かれた。
「イブさん」
「お願いするわ。昨日のように結ってもらうことなるんでしょう」
「はい、髪飾りも届きます」
「じゃあ、お願い」
イブさんが小さな椅子に腰掛けるので、私はシャワーを手に取った。中世っぽいのにシャワーやシャンプーがあるのが不思議だ。リンスまである。お風呂好きの落ち人がいたのかもしれない。
まずはシャンプーなしで洗い流す。それから、シャンプーを泡立てて、一回目。流して二回目。リンスをつけて、流したら次は。
「かゆいところはないですか?」
「ないけど」
「少し頭をマッサージします。髪にもお肌にもいいんですよ」
頭皮マッサージには慣れていないだろうから、少し力は抑え目にする。
「変な感じ。でも、気持ちいい」
イブさんの言葉に嬉しくなる。軽く肩を揉んで終了。
「あと、髪の毛を乾かすのも私がしますから、声をかけてください」
イブさんが湯船に入ると、また、他の人に声をかける。私には声をかけずにイブさんに話しかける人はいる。うわっ、何を話しているか気になる。
ウロウロしながら、次にシャンプーする相手を探したけど、誰も相手にはしてくれなかった。
「私の髪を乾かしてくれるんでしょ。もうすぐ、上がるから、あなたもきれいにしなさいよ」
イブさんには言われ、私は慌てて自分を洗うと、お風呂を出た。
さて、ドライヤーがない。いや、ワゴンの中にあるけど、コンセントなんかないよね。でも、くせで手に持つとすぐにスイッチを入れてしまった。ブォー。いきなり、暖かい風が出る。え、コンセントを繋いでないのに動くの? すごい。さすが、魔法の国。
「何」
大きな音にイブさんがおびえてしまった。
「私の国の魔法道具です。髪の毛を乾かす道具です。風が出るので少しうるさいですが、我慢してください」
まさか、チートな能力を得たのがドライヤーだったとは。でも助かる。トリートメントオイルをなじませてから、ブラシで少し引っ張るようにして、髪の毛を乾かしていく。最後は冷たい風で仕上げ。うん、きれい。染めたりしていないせいか、つやつやの髪には天使の輪ができている。
「イブさん、仕上げは着替えてからになります。その時に化粧もさせてもらいますからね」
さてと。私はお風呂に戻って、声を張り上げた。
「髪の毛を洗わせてください」
叫んでも、フランチェスカさんに呼ばれるまで、誰も私にシャンプーを頼む人はいなかった。
「間に合ったよ」
フランチェスカさんはテーブルの上のかんざしを指し示した。全部で十本。銀が四本、残りは金。すべて一本足のかんざしだけど、ゴージャスすぎる。繊細なチェーンで小さな石が藤の花のようにぶら下がっているもの。大きな石が一つ、存在感を放っているものがあれば、花の型に彫刻された石が付いているものもある。
「きれい」
「四人の子にこちらの銀のかんざしをつけてもらいたいんだ」
「あの、銀の方が少し地味というか、安そうというか」
「ああ、金の方はお客さんに買わすつもりだから」
「そんな、うまくいくんですか」
「うまくいくようにきれいに飾ってやってくれ」
フランチェスカさんに選ばれた四人がやってきた。ドレスを身につけた姿はタイプがそれぞれ違うけど、みんな綺麗。
もちろん、最初はイブさんだ。髪をねじって、かんざしで留めて。
「イブさん、他の人に外し方を見せてください」
頼むと、イブさんは三人の前に背を向けて立ち、手をしなやかに上げると、かんざしを抜いた。パラリ。頭を振ると、髪がサラリと落ちる。シャンプーのコマーシャルみたいだ。丁寧に仕上げたから、サラサラだ。
イブさんの髪をもう一度、夜会巻きにして、それから、化粧をする。選んだかんざしは赤い宝石一つにしたので、化粧もそれに合わせる。ベースは丁寧に。アイライナーは長めに赤。まつげはまっすぐのままで、マスカラで長さを出す。口紅も赤にするとエキゾチック美人だ。
「きれいにしてくれてありがとう」
言われるとドキドキするほど、色っぽい。
その姿を見て、乗り気でない感じだった四人がやる気になった。こうなってくると私も楽しい。黒髪じゃない髪の毛に合わせる色を考えるのも楽しい。
サラサさん。ふわふわレモンイエローの髪。夜会巻きは小花のかんざしで、ところどころ、髪の毛をゆるめる。目は丸さを強調して可愛く仕上げる。
シルヴィアさん。ウェーブした明るい金髪に薔薇のかんざし。お姫様をイメージしよう。おくれ毛は抜き出して、カールアイロンで巻く。チートなのはドライヤーだけでなかった。アイロンも動く。ぱっちりなおめめはあまり、手をかけず、ビューラーでまつ毛をカールさせる。
ジュリーさん、栗色のストレート。両脇を少し編み込みにしてから夜会巻き。色とりどりの宝石がついたかんざし。宝石の中の赤に似た色をリップに青に似た色をアイシャドウに。
「完成です」
全員のヘアメイクが出来上がるまで、誰も出ていかずに見ていたことに気づいた。
「ありがとう」「こんなの初めて」「これからもお願いね」
かけられる言葉が嬉しい。
「さ、みんながんばって、売り込むんだよ」
フランチェスカさんの言葉にみんな、うなずいて、支度部屋を出て行った。
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