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女将さんとのお別れ

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結局、僕は仲居さんが片付けに来るまで何も弁解出来無かった。
彼女の顔が近くて、ドキドキして顔が赤くなったなんて言えるはずがなかった。
片付けを終えた仲居さんに改めてお礼を伝える。
「昨夜は色々とありがとうございます。仲居さんのおかげで大事に至らずに済みました。」
そんな僕の言葉に仲居さんは安心したように笑って、何処からか取り出したペットボトルを取り出した。
「これ、良かったら飲んでね」
そう言って、レモネードのペットボトルを二本渡してくれる。
昨日から色々とお世話になりっぱなしで、恐縮しつつ受け取ってから仲居さんにお礼を伝える。
同時に、何故この人はこんなに親切にしてくれるのか? という疑問が失礼ながら浮かんでくる。
そんな僕の顔を見て仲居さんは、困ったように笑う。
「私が色々お節介をしているのか気になっていますよね」
そんな風に言われて、疑問が顔に出ていた事に気付いた。
「色々と親切にして頂いたのにすいません」
僕は慌てて仲居さんに頭を下げる。
仲居さんは、益々困った顔になって少し考えてから何でもない事のように言う。
「良いのよ、私が貴方の立場なら同じように気になるでしょうから。でも本当に大した理由ではないの、貴方達と同じ年頃の子供が居たのよ」 
仲居さんはそこで一度言葉を切って、懐かしそうに彼女の方を見る。
「あの子同じ境遇の子と思うと他人とは思えなくて、色々重なって見えて、それでお節介をしていたの」
その言葉には、深い後悔が滲んでいた。
仲居さんは、多くは語らなかったけれどそれで十分だった。
「少しでも貴方達の助けになっていたのなら良かった。」
そう言ってくれた仲居さんの優しさが嬉しかった。
僕は、改めて仲居さんに出会えて良かったと思う。
仲居さんが出て行った後、忘れ物がないか確認をしてから、チェックアウトの準備をする。
フロントで支払いを済ませて、お見送りに出てくれた仲居さんに別れの挨拶をする。
「それじゃあ仲居さん、本当にお世話になりました。」
「そういえば、名前を名乗っていませんでしたね。今更ですが伊瀬谷茉莉(まつり)と言います。」
僕等は順番に自己紹介をする。
伊瀬谷さんは、僕等を順番に見て「篁君も、姫柊さんも良かったらまた遊びに来てね。」
最後にそう言われて、僕等は見送られながら旅館を出た。
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