狼さんと赤ずきんちゃん

ユウ

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狼さんと赤ずきんちゃん

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『狼さんと赤ずきんちゃん』


とある村の一番可愛いと噂される赤いずきんを被った1人の娘が、祖母の見舞いに出かけた。
しかし、訳あって狼と仲良くなってしまい、狼は赤ずきんの隙をつき、祖母を食べてしまうのだが、知り合いの猟師さんに助けられ無事、見舞うことが出来たとさ……。


そう『赤ずきん』は俺達に語り継がれてきた。

俺はその話を聞く度に遠い先祖のじぃさんがバカをやってそうなったんだと聞かされてきた。

「バッカみてぇ!」

何が『赤ずきんの家族とは仲良くなっちゃいかんのだよ』だ!
そもそも会うこともねぇし、こんな森深くに誰も来やしねぇよ!

もやもやした気持ちのまま俺はまたあの場所へと足を向けた。

家から少しばかり離れた人里が見渡せる丘。
1本の太い幹の元に咲く紫の花。
そこは俺が幼い頃に見つけた安らぐ場所だった。

木を伝い、てっぺんまで駆け上がると少し向こうに海が見えることが最近わかって、俺はそこで昼寝をするのが日課になっていた。

「ねぇ……狼さん」

あんな家なんて早く出てって気ままに旅なんてのもいいな。

「ねぇそこの寝坊助さん!」
 
「あぁ!?誰が寝坊助だ!」

耳障りな声に思わず怒鳴る。


「あぁ、やっと返事をしてくれた……」


そうにこりと微笑むのは赤いずきんを被った少女だった。


「…………は?」


「おはようございます。私赤ずきん。あなたは狼さん……でいいのかしら?」

小首を傾げ悩む顔をする赤ずきん。
話で聞いた通りの可愛ら……ハッ!
いやいやいやいや!何を俺は考えているんだ!

「お、お前、こんな森に何の用だ!」

「用って程じゃないんだけど……」

赤ずきんは少し俯き、大きな目がほんの少し隠れた。

俺はその目が伏せられたことにほんの少し残念な気持ちになった。

……ざ、残念な気持ちってなんなんだ……!?

いまいち気持ちが追いつかずあたふたする俺。
一体どうしちまったんだ?

「実は……私……狼さんと……お友達になりに来ました!」




声はそこまで大きくはなかった。




俺の耳は掠れた声をも聞き取る獣耳だ。

「……は?」

それなのに俺はお前に思わず惚けた顔をしてしまった。

「あら、聞こえませんでしたかしら……?が、頑張って伝えてみたのに……!恥ずかしいわ……」

いやいやいやいや!そこじゃないだろ?!
何が『お友達になりに来ました』だ! 

「お前立ち位置分かってんの?俺は『獣』、お前は『人間』。友達なんかなれねーよ!帰れよ!」

息を切らし言い切った俺。
さすがにハッキリ言えばお前は帰るだろう。

「…………」

ちと、きつく言いすぎたか……?
黙り俯く赤ずきん。
さすがに乱暴者と言われ慣れた俺でも女に優しくしろといつもばぁちゃん達に口酸っぱく言われている。
これがバレたら俺は殺されるぞ、あのババァ共に……!

さすがに慌てる俺は何とかしようと口を開く。

「あ、あのなお前はこんな俺じゃなくても人間の友達が沢山いるだろう!お前はこんな乱暴者で自分勝手な奴なんかお似合いじゃないんだよ!」

「それでも」

「え……」

「それでも私は、乱暴者でぶっきらぼうだけど、誰にでも優しくて、誰に対しても変えない己。そんな貴方だから私は、貴方と『お友達』になりたいのです」


──それじゃあ、ダメですか?


そう赤ずきんは呟いた。

俺の目にはいつからか沢山の雫が流れ落ち、『雨が降ってますよ』なんて呑気に笑うお前を抱きしめた。

たった一言「ありがとう」なんてのは言ってやらねーけどな。





『誰にだって誰かに必要とされたい時ぐらいあるさ。お前はいつか誰かに愛される時が来るさ』



そう言ったのは誰だったか?
もう思い出せはしないけど、俺はそいつの言葉を信じてみようと思う。


最初は友達。
でもそれじゃ物足りない。
そう感じるのはお前が隣で笑っているからだろう。


いつかこの気持ちに名前がついたらお前に聞いて欲しい。


「狼さーん!」


 
手を振るお前に俺はそう想う──。
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