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第四章

衝突

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「アイスバインドっ!!!!」
「シャドウバインドっ!!!!」

髪を振り乱し、目を血走らせたカーラがわたしに跳びかかり、腕を振り上げた瞬間、ウィルにぃとエミリーちゃんが魔法を放った。
氷でできた鎖と、闇でできた鎖がカーラを拘束し、床に縫い止める。

「よかった、間に合ったわぁん…」

「うがぁぁぁ~っ!!!!離せぇ、離せぇぇぇぇぇっ!!!!」

しかし、カーラはその鎖を引きちぎろうと、藻掻き暴れる。
そんなカーラをウィルにぃは氷の様な凍てついた目で睨みつける。

「よくも僕がこの世界で最も愛するエルシーアを傷つけようとしてくれたね…」

ウィルにぃの足元から、カーラに向かって床が凍っていく。

「ウィル様が最も愛する…っ!?!?
違う、違う違うっ!!!!ウィル様が最も愛するのはこのわたくしで、あんなブスでチビなんかじゃないっ!!!!
ウィル様、あなたが愛するのは、このわたくしですわっ!!この鎖を解いてよく見てくださいませっ!!!!」

カーラは自分の体が凍てついてゆくのも構わず、ウィルにぃに縋ろうとする。
しかし、当のウィルにぃはカーラの言葉を無視し、おとしゃまに抱っこされるわたしの側までやってくる。

「エル、大丈夫かい??エルが襲われそうになった時、焦りと怒りで頭が一瞬真っ白になってしまったよ。
だけど、エルが傷ひとつ負わなくてよかった…。
エミリーもエルを護ってくれてありがとう。助かった」

「あらん、いいのよん。気にしないでん。
ウィルちゃんも頭が真っ白になった割にはよく反応したわねん」

「エミリー、本当に助かった。私からも礼を言うよ。ありがとう」

おとしゃまがエミリーちゃんにお礼を言う。
エミリーちゃんとおとしゃまはお互いに言葉を交わしながらも、警戒は怠らない。
確かにカーラのあの目は怖かった。
思い出したら恐怖で体がブルッと震え、涙が溢れてくる。

「エル、泣かないで。エルに涙は似合わないよ。僕がエルの涙を止めてあげる」

ウィルにぃは、わたしの事を本当に本当に大切な宝物を扱うかの様にそっと触れ、涙が溢れる目尻に唇を寄せて、ちゅっちゅっと涙を吸い取っていく。

その様子を見ていたカーラは我慢ならなかったのか、再度藻掻き暴れだそうとする。

「お前がぁ…、お前が居なければ、お前さえ居なければ、ウィル様の心も体もわたくしのモノなんだよぉぉぉ~~~っ!!!!
死ねっ!!!!お前なんか死んでしまえぇぇぇぇ~~~~っ!!!!」

体を鎖で縛られ、凍って冷たいはずなのに、カーラはその事に一切構わずわたしを睨み、呪詛の様な言葉を撒き散らす。
呪詛の様な言葉と共に、カーラの体から黒いモヤが溢れ出す。
その溢れ出す黒いモヤを視た瞬間、本能でアレは良くないものだと察する。
何であんなモノがカーラの体から溢れてるの!?!?

「貴様…、僕の愛するエルに…よくも…っ!!!!」

スドォォォォ~~~~~ンッ!!!!!!

タウンハウス全体が青白い光に包まれる。
ウィルにぃの怒りの波動のせいなのか、雷がタウンハウスに落ちた様だ。
雷が落ちた後、カーラの周辺だけでなく、応接室全体が氷で覆われ凍てついていく。
そしてカーラが執拗にウィルにぃに食べさせようとしていた焼き菓子も凍てつく。

《きずつけた…。エルのこころをきずつけた…》
《ゆるせない…、ゆるさない…》
《ぼくたちのたいせつなエルを…》
《やる…??やっちゃえぇ~~っ!!!!》



ビュォォォォォォォォォォ~~~~ッ!!!!

ザァァァァァァァァァァッ!!!!

ドォォォーーーンッ、ズガァァァーーーンッ!!!!



タウンハウスの外は嵐が吹き荒れ、雷が鳴り響く。
そしてタウンハウスの外だけではなく、応接室の中も激しい風が吹き付ける。
ウィルにぃの体から溢れる冷気と、精霊達の怒りの風でブリザードが起こる。

「うにゅぅ~~~っ…!!!!」

応接室に居た者達に、ペルルの防護結界が張られる。
結界により体の安全は確保できたけど、心まではそうはいかない。

このままウィルにぃが、激情に任せて魔力を溢れ出させ続けるのはマズい様な気がするっ!!!!

「ウィルフリード、止めなさいっ!!怒りの感情を抑えるんだっ!!!!」

「そうよ、ウィルっ!!これ以上魔力を暴走させたらあなた自身が危ないわっ!!!!」

おとしゃまもかぁしゃまも同じ事を思ったのだろう。魔法で必死にウィルにぃを止めようとしている。

「バルちゃん、ルイーザちゃんっ!!あなた達も感情を落ち着かせなさいっ!!!!
精霊の怒りに当てられてはダメッ!!!!」

エミリーちゃんの焦る声が聞こえ、バッ!!とバルにぃとルーねぇを見る。
そこには怒りの感情と魔力で髪が逆立ち、バチバチと火花を散らすふたりが居た。
わたしの為に怒ってくれた感情が、精霊の怒りに当てられたせいで魔力暴走の寸前の様だった。

[ペルルぅ…、シロガネぇ…。どうしよう…!!!!
このままじゃみんなが倒れちゃうっ!!!!]

【まずは精霊達を鎮める。其方達、耳を塞げっ!!】

シロガネがわたしの腕の中から抜け出し、ピョンと床に降りる。

【ゆくぞっ!!グォォォォォォォォォンッ!!!!】

《《!!!!》》

シロガネの魔力を込めた遠吠えによって、屋敷の中に居た精霊達が消え、嵐と雷が収まる。

【後はエル、お主が兄と姉に声をかけ落ち着かせるのだ!!】

[わかった。やってみるっ!!
ウィルにぃ、バルにぃ、ルーねぇっ!!
落ち着いて。わたしはみんなが護ってくれたから大丈夫だよっ!!だからね、いつもの優しいお兄ちゃん達とお姉ちゃんに戻って?お願いっ!!!!]

わたしは両手を胸の前で組んで目を瞑り、いつもの優しいお兄ちゃん達とお姉ちゃんに戻る様に強く祈る。
するとわたしの組んだ手から虹色の光が溢れ出し、応接室全体を満たす。

わたしが目を開けると、部屋中を覆っていた氷は全て溶け、ボロボロになった室内が元に戻っていた。

そして…

「エル、心配かけてごめんね。エルの声、ちゃんと届いたよ。ありがとう」
「エルっ!!助けてくれてサンキューなっ!!」
「エルちゃん、さっきはありがとう。エルちゃんの声と一緒に温かい魔力が届いたわ」

お兄ちゃん達とお姉ちゃんは、いつもの様に優しく穏やかな様子に戻っていた。




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