転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉

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第四章

遅きに失する

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〈第三者視点〉



「枢機卿よ、何時まで待たせる」

「はっ。教皇様。各大司教区の者からは、未だかの方の復活の兆しは無いとの事。
復活をより確実なものとする為に、より良い贄の準備を進めております」

「うむ。ならば良い」

教皇と呼ばれた者は、贅肉がでっぷりと付いた顎を擦る。
まぁ、本人が顎と思っている部分は、脂ぎった顔の贅肉に押し潰され、首と一体化しているのだが。
その肥えた体は金糸の豪華な刺繍が施された祭服でも誤魔化せない。
おまけにソーセージの様に太い10本の指には、それぞれ豪華な宝石が付いた指輪がはめられている。

「これまでエルフや亜人を狩りすぎたせいか、ここ最近ではなかなか捕らえにくいのです。
ですので、距離はありますが海を挟んだ向こう側の国、ローザモンドで狩りをしようと考えております。
向こうはちょうど7歳のお披露目の儀式が控えていますからね。生きのいい贄が手に入るでしょう」

かたや枢機卿と呼ばれた男は銀糸の刺繍が入った同じく豪華な祭服を着ているが、醜く太ってはいない。
しかし、糸のように細いその目からは欲望の色が濃く滲み出ている。

聖神国は、邪神オアマンドの力によって、大きく歪められていた。
権力のある者、富のある者は更に力を増し、力なき者は死ぬまで搾取され続けている。

そして、教会の権力は更に増していった。
元々、聖神国の教会は、治癒や浄化といった魔力を持つ物を捕らえ、暴力と洗脳で支配、その力を搾取し、民からは多くの金を巻き上げていた。
また、どの教会も孤児院を運営していたが、そこは人身売買の温床と化しており、贄を集めるのも捨てるのにも格好の場所だった。

更に邪神オアマンドの力、『反魂の秘術』により、ほんの数年ではあるが、生命を延ばすという力も手に入れた。
ますます教会の権力は強くなり、今では聖神国の国王よりも発言力が強い。それはそうだろう。国王や王妃、王子といった王家の生命を握っているのは教会なのだから。
教皇がほんの少し死を仄めかすだけで、金を溢れるように手にできていた。

しかし、その権力にも陰りが見え始めた。
邪神オアマンドが封印されたからだ。
いくら贄を捧げようとも、邪神オアマンドの力無くしては『反魂の秘術』が使えないからだ。
故に教会は焦り、邪神の復活を考えた。
邪神が好むのは怒り、悲しみ、憎しみといった負の感情だ。そして魔力と生命エネルギー。
より強く、より希少で美しく、何より多くの贄を集めさえすれば、復活、あるいは新たな邪神が産まれるのではないか。そう考えたのだ。

「枢機卿よ。再度、各大司教に伝えよ。今まで以上に質の良い贄をより多く集めるのだ。
かの方さえ復活すれば、我々に恐れるものは何も無い」

「えぇ、えぇ。そうですとも。教皇様。
早速、各大司教に通知を送りましょう」

教皇と枢機卿はお互いの顔を見合わせ、ニヤリと笑う。その顔は酷く醜い顔だった。


「枢機卿様…っ!!枢機卿様っ!!!!」

枢機卿の部下がノックもせず、教皇の部屋に飛び込んでくる。
その部下の顔には酷く焦りの色が浮かんでいる。

「何だ、騒々しいっ、静かにせよっ!!
私が今、教皇様と大事な話をしているのが、見てわからんのかっ!!」

枢機卿の荒げた声に、部下は慌てて土下座をする。

「も…申し訳ございません…!!教皇様、枢機卿様っ!!
しかし…しかし…っ!!」

「枢機卿よ、良い良い。何やら大事な用ではなさそうか。
何だ、邪神様が復活したのか?申してみよ」

「はっ…!!はい、教皇様…。
それが、つい先程、教皇様が御わす、この中央区の大司教様から連絡がありまして、邪神様の復活を試した骸が全て消えたと…。中央区だけではありません。各大司教区から同じ様な報告が上がって来ているのです…っ!!」

「何だと…っ!!!!」

教皇がそのでっぷりとした体を起こし、立ち上がる。

「して、かの方は復活したのかっ!?!?」

「そっ…それは…っ」

「おい、教皇様がお前に対して聞いているのだ。お答えしないかっ!!!!」

「そっ…それが、各大司教区から骸が全て消えただけで、かの方の姿は何処にも見受けられなかったと…」

「どういう事だっ!!!!」

「ひっ…!!申し訳ありません、申し訳ありませんっ!!!!
私めはただ、各大司教区から報告を受けて、急ぎ枢機卿様に報告せねば…っと……」

教皇にも声を荒らげられた部下の男は、更に体を縮こめる。

「一体どういう事だ…」

教皇は呟き、そのでっぷりとした体をイスに沈めた。


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