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第三章

エルの異変③

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〈父:フリッツィSide〉



「エルちゃんは今頃何をしているのかしらん…」

エミリーの言葉にブォンッ…と裏庭の様子を撮した映像がサロンに現れる。
シロガネ殿の魔法だろうか?
今は丁度、シロガネ殿がエルのために、精霊樹の実を風魔法で採っているところだった。
この映像はシロガネ殿の目線だろうか?エルが夢中で精霊樹の実を食べている。
昼寝から目を覚ましてから、エルは殆ど何も口にしていない。サロンで泣いたため、余計に喉が乾いていたのだろう。1個目の精霊樹の実を食べ終え、2個目をシロガネ殿から受け取り食べはじめる。
2個目を味わうように食べているエルに、シロガネ殿が「今日は何がそんなに悲しかってのか?」と質問をする。
その質問にサロンにいる全員が、息を詰めてエルの答えを待つ。
エルは初めは「わからない…」と答えていたが、シロガネ殿から「ありのままの思いを話せばよい」と促され、精霊樹の実をひと口齧った後、心に秘めた思いを吐露し始めた。

エルは初めに「王都には行きたくない」と語った。
やはり王都に対して良い感情を持っていない様だ。
また、王都行きの関係で、自分の周りの環境が変わっていくことに、戸惑いや不安をその小さな小さな胸に押し込めていたようだ。
自分でも理解できない内に、少しずつ少しずつ戸惑いや不安が溜まっていき、そしていつもは起こしに来るはずの妻が来なかった事がきっかけとなり一気に噴き出してしまったんだろう…。
その神秘的なオッドアイの瞳から、ぽろぽろと涙を流し、悲痛な叫びを上げるエルの様子に、私達は俯いてしまった。



「エルちゃん…。ごめんなさい…ごめんなさいね…」

妻がエルの言葉を聞き、自分を責め、両手で顔を覆い、細い肩を震わせ泣いている。

「ハリー、君だけのせいじゃない。エルの世話を君一人にだけ任せて、エルの戸惑いや不安に気づかなかった私もいけないんだ…」

腕の中にいる妻を強く抱きしめる。

「「「お父様…、お母様…」」」

ウィルフリード、バルドリック、ルイーザも己の不甲斐なさに嘆いているのだろう。
きつく両手を握りしめ、耐えている。



エルの思いを聞き、シロガネ殿が「では王都へ行かず、屋敷に残るか?」と聞く。
その言葉に全員がバッと顔を上げ、映像の中のエルを見つめる。
エルは食べかけの精霊樹の実を握りしめ、しばらく俯き黙り込んだ後、小さな声で「………行く」と答えた。
その答えに、サロンに居た全員がホッとため息を漏らす。



「エルちゃん、よかった…よかった…。ありがとう…」

エルに王都へ行く事を伝えた妻は、ちゃんとエル自身の意志で同意した事に安堵したのだろう。はらはらと涙を流す。



王都へ自分の意志で行く事に決めたエルにシロガネ殿が語りかける。
エルは決してひとりではない事。
今回の変化はエルにとって望まない事だったかもしれないが、それは全て“エルを護るため”だった事。
ウィルフリード、バルドリック、ルイーザがエルを護るために強くなろうと必死に勉強している事。
そのひとつひとつを、エルによく聞かせるためにゆっくりと語った。
そして最後に、エル自身も忘れているかもしれないが、エルはまだ2歳にも満たない幼子である事。
寂しい時は“寂しい”と、不安な時は“抱きしめてくれ”と言えばいい、そうすれば私達は喜んで手を差し伸べるという事を語った。

その言葉を聞いたエルは、本当はね、ずっとわかっていた。だけど、家族と過ごす時間がどんどん減って寂しかった。
それに王都行きの不安が重なって、自分でもどうしたらいいかわからなくなっていたという。
そしてシロガネ殿に感謝を述べ、その表情は何処かスッキリしていた。

そしてその後は、裏庭に住んでいるマンドラゴラ達と歌を歌い始めた。その歌はこの世界では聴いたことのない旋律だった。
ただその曲は『怯えて立ち竦み、逃げ出しそうな時はこの曲を信じて愛し、歌って欲しい』
『そしてどんなどん底の時だって、周りの仲間を信じ、何度でも立ち上がり、強く“生きろっ!!”』というメッセージが込められていた。
そのメッセージはエル自身だけではなく、私達にも響いたのだった。


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