蒼穹の裏方

Flight_kj

文字の大きさ
上 下
149 / 184
第12章 第二次ハワイ作戦

12.9章 アメリカ海軍偵察行動

しおりを挟む
 日本軍と同様に、夜明け前から米海軍も活発に索敵を開始していた。カネオヘ海軍基地から、まだ暗いうちにレーダー装備の複数のPB4Yがそれぞれ索敵範囲を決めて飛び立った。日本機動部隊は昨日から移動しているはずなので、オアフ島周囲全域が捜索対象になる。但し、敵艦隊の位置として想定しているのは、西北から、真西、南西の方角だ。

 PB4Yが西方に飛行していると、しばらく前にオアフ島のレーダーが北方に編隊を探知したとオアフ島の司令部から言ってきた。そのため、セリル少佐の機体には、北西方向を捜索範囲に追加するように要求してきたが、帰投のための燃料を考えると、別の海域を索敵範囲に加えるのは無理だ。セリル少佐は事前の計画通りの海域を捜索すると回答した。司令部は、燃料が足りなくなっても命令を実行しろとは言えないので、これを了承した。

 やがて、南西方向の哨戒を続けていると、オアフ島から450マイル(724km)の地点で、マリン曹長がレーダーに目標を探知した。
「2時方向に海上目標を探知。距離は60マイル(97km)。反射が大きい。間違いなく日本艦隊です」

「日本艦隊の発見を基地に報告しろ、敵艦隊の構成は確認中でいい。この位置からだと我が軍の艦隊には350マイル(563km)くらいだぞ。すぐに空母の攻撃圏内に入ってくるぞ」

 セリル少佐は昨日の経験から、日本戦闘機の迎撃を避けるために、急降下で高度を海面近くまで下げて、機首を2時方向に向けた。10分余り飛行すれば、60マイルの距離もかなり縮めることができる。セリル機は頃合いを見計らって、機首を上向きにして上昇に移った。

 高度を上げてゆくと、遠方の海上も見えるようになる。双眼鏡を使っていた偵察員のレナード大尉が大声で報告した。
「空母発見、ちょっと待ってくれ。こりゃ大艦隊だ。空母4、戦艦2、巡洋艦と駆逐艦多数が見える」

 セリル少佐も水平線近くを航行している大艦隊を確認した。
「こりゃあ、主力部隊だぞ。空度4隻、戦艦2隻の艦隊だ。艦隊司令部に大至急報告をしてくれ。艦隊の編制に加えて、東南方向に航行中だという情報も付け加えるのを忘れるな」

 命令しながら、少佐は機体を急降下させた。大艦隊ならば、艦隊周囲の見張りもしっかりしているはずだ。そうだとすると、いつまでも高空を飛行していれば自分の機が危なくなる可能性が高い。

 この時、セリル少佐機が発見したのは、五航戦と新編された四航戦の空母を含む部隊だった。各艦が30ノットを超える空母を集めた高速機動部隊だ。東南に向けて航行しているのは、もちろん米艦隊との距離を詰めるためだ。

 セリル機が空母部隊を観察している間に、既に日本艦隊は偵察機の接近を探知していた。艦隊前面を飛行する二式艦偵の電探は低空飛行をする米偵察機の接近を上空から探知できたのだ。

 五航戦司令の大西瀧治郎少将のところに、大橋参謀が報告に来る。
「東北東から低空飛行の偵察接近。40浬(71km)、上空の二式艦偵が電探により探知しました」

「新型ジェット艦戦を発艦させよ。実力を見てみたい」

 翔鶴の飛行甲板には迎撃待機の紫電改が、待ち構えていた。ジェットエンジンを始動するとスルスルとカタパルトに移動してゆく。カタパルトに射出用のワイヤーが接続されると、甲高い音をたてて、ジェットエンジンの推力が上がってゆく。薄く水蒸気の煙が後方にたなびいているカタパルトから、スマートなジェット戦闘機が射出された。海上に飛び出すと左舷方向に旋回しながら上昇してゆく。下方からは列機が続けて発艦してくる。

 谷口一飛曹は発艦してから、母艦が示した方位に向かって飛行すると、5分もしないうちに下方に四発の機体が見えてきた。機体のシルエットからB-24だと判断した。厳密には海軍仕様のPB4Y-1なのだが、外見からはB-24との差はほとんどない。米軍機は電探を避けるつもりで高度1,000mあたりからちょうど急降下しようとしていた。2機の紫電改は、上空からPB4Yの後方に向けて降下していった。胴体上部と尾部の銃座が反撃してくるが、高速で飛行するジェット戦闘機の後方の空間を撃っているだけだ。

 紫電改は、空気抵抗を少なくしたジェット機向けに設計された9発を収容した噴進弾ポッドを左右の外翼下部に装備していた。2機の紫電改は合わせて36発の100mm噴進弾を後方から発射した。PB4Yの近傍を通過した4発の近接信管が反応して爆発した。100mm弾の爆発で胴体上部に大きな穴が開く。同時に左翼側の水平尾翼が爆発で吹き飛ぶ。安定を失ったPB4Yは右翼をがっくりと下げて高度を下げ始めた。

 落ちてゆく機体を追い越しながら、谷口一飛曹は陸軍機のB-24と誤認して、短く報告した。
「米軍の偵察機を排除した。B-24を1機撃墜だ」

 セリル少佐は自分の機体を後方から一気に追い抜いてゆく機体を、一瞬目撃することができた。最近になって、日本海軍のジェット戦闘機の通達を見たのを思い出していた。まもなく高性能の戦闘機が登場する見込みだとして、注意喚起されていた機体だ。
「間違いない、あれはジョージ(紫電改)だ。日本空母に単発ジェット戦闘機のジョージが配備されているぞ」

 しかし、セリル少佐の言葉は誰にも届かなかった。既に彼の目の前には海面が迫っていた。

 翔鶴の艦橋では、大西少将が鮮やかな撃墜に感心していた。
「上がっていったかと思ったらもう撃墜報告がきたぞ。さすがにジェット戦闘機は速いな」

 ……

 セリル少佐の報告は途中で電文が途切れたが、必要な情報は含まれていた。マクモリス少将に参謀のレイトン少佐が相談にやって来た。
「索敵機の報告が来ました。オアフ島の南西450マイル(724km)地点で日本軍の艦隊を探知しています。大型艦を含む艦隊ですが、詳細な艦隊構成を報告する前に電文が途切れています。恐らく、撃墜されたものと考えられます」

「早々に撃墜されてしまったのは、敵戦闘機の仕業に間違いない。つまり、この海域で日本の空母を含む艦隊が行動しているということだ」

「そうなると、オアフの陸軍のレーダーが探知した北方の目標は何でしょうか?」

「ミッドウェーでの経験から考えても、ハワイ諸島の周辺で複数の日本軍の艦隊が行動しているのは確実だ。私は、日本海軍の空母の数から考えて、オアフ島を目指しているのは、3群程度の空母部隊だと想定している。我々自身が3群の機動部隊を編制できているのだから何の不思議もないだろう。つまり、北方の目標以外にも敵の機動部隊が行動している可能性は極めて高いということだ」

「わかりました。この距離だとすると、我が軍の空母はすぐにも日本の艦載機の攻撃圏内に入ります。我が軍の空母による、西方の日本艦隊攻撃をマケイン長官に進言します」

「日本艦隊は東方に向かって航行している。すなわち、日本軍は東方に存在している我々の艦隊、もしくはオアフ島に対する攻撃の意図を有しているということも伝えてくれ」

 レイトン少佐は強く首を縦に振った。

 二人の会話の途中にも、続いて報告が入ってきた。オアフ島周辺に索敵に出した他の偵察機もきっちりと仕事をしていた。別の北西の日本機動部隊を発見したのだ。最初に発見したオアフ島の南南西から北上している艦隊に加えて、おそらくミッドウェー方面からオアフ島に接近してくる次の艦隊だ。1番目の南南西の艦隊は四航戦と五航戦からなる艦隊だった。2番目の北西の部隊は遅れてやってきた三航戦の艦隊だ。更に、メモを読んでいる間にもオアフ島の南西でも空母を含む艦隊を探知との一報が入ってきた。

 差し出されたメモを読んでから、レイトン少佐はマクモリス少将の顔をまじまじと見た。
「長官のところに急いでゆくぞ。試合開始のゴングは既に鳴ったのだ。恐らく、今日は、我々と日本軍の決戦の日として歴史に残ることになるぞ」

 オアフ島西方海域を行動していた3群の米機動部隊には、オアフ島の偵察機が探知した日本軍の位置が直ちに通知された。既に、米艦隊からは偵察機が飛び立っていたが、各司令官共に日本艦隊が攻撃範囲に向かって進んできていることを知って、攻撃隊の準備を開始した。マクモリス少将と同様に、各艦隊の司令官には、この日が戦闘の一日になることを疑う者はいなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

戦神の星・武神の翼 ~ もしも日本に2000馬力エンジンが最初からあったなら

もろこし
歴史・時代
架空戦記ファンが一生に一度は思うこと。 『もし日本に最初から2000馬力エンジンがあったなら……』 よろしい。ならば作りましょう! 史実では中途半端な馬力だった『火星エンジン』を太平洋戦争前に2000馬力エンジンとして登場させます。そのために達成すべき課題を一つ一つ潰していく開発ストーリーをお送りします。 そして火星エンジンと言えば、皆さんもうお分かりですね。はい『一式陸攻』の運命も大きく変わります。 しかも史実より遙かに強力になって、さらに1年早く登場します。それは戦争そのものにも大きな影響を与えていきます。 え?火星エンジンなら『雷電』だろうって?そんなヒコーキ知りませんw お楽しみください。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

蒼海の碧血録

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。  そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。  熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。  戦艦大和。  日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。  だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。  ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。 (本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。) ※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。

皇国の栄光

ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年に起こった世界恐慌。 日本はこの影響で不況に陥るが、大々的な植民地の開発や産業の重工業化によっていち早く不況から抜け出した。この功績を受け犬養毅首相は国民から熱烈に支持されていた。そして彼は社会改革と並行して秘密裏に軍備の拡張を開始していた。 激動の昭和時代。 皇国の行く末は旭日が輝く朝だろうか? それとも47の星が照らす夜だろうか? 趣味の範囲で書いているので違うところもあると思います。 こんなことがあったらいいな程度で見ていただくと幸いです

処理中です...