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第8章 ミッドウェー海戦
8.11章 日本軍の反撃(後編)
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草鹿少将は、時計を見ながら攻撃隊の状況を気にしていた。私の方を向くと、以前から疑問に思っていたことを口にした。
「そろそろ、わが軍の攻撃隊が敵艦隊に到着する頃だ。ところで、本当にあんな装置で、米軍の近接信管を誤動作させられるのかね?」
「あの装置は、小型の真空管により、米軍の近接信管が送信するのと同じ波長の電波を送信しています。しかも送信する電波は、目標からの反射波の周波数がドップラー効果により上下に変動することを模擬して、周波数変調をかけています。数百サイクルの周波数で変調をかけて、送信電波の周波数を変動させているのです。加えて、近接信管の発振周波数が、多少中心値からずれていてもいいように、電波の発振周波数をわずかずつ変えた送信管6本を短時間で切り替えながら電波を発振しています。実際に二式艦偵で近接信管の測定をした結果も、発振電波は製造誤差により周波数がばらついていました」
「真空管が使われているようだが、それにしては小型の装置だったな。電波の出力は大丈夫なのか? 機上の無線通信機だってあんなに小さくはないぞ」
「電探や通信機のように遠くまで電波を飛ばす必要はないので、出力は大きくなくても大丈夫です。装置が小さいのは、我々も近接信管を開発していたのですが、その過程で、小型の真空管などの部品をいろいろ開発しました。今回の装置はその小型部品を活用したおかげで、随分小さくなりました。それに電探とは違って、発振器の構成も単純な回路で十分です。もともと疑似している回路が、高々真空管数本でできている小さな回路なんですからね」
草鹿少将は、電波の理屈は完全にはわからないようだったが、私がそう言うのであれば、そんなものだろうと思い口をつぐんだ。
……
接近した日本の攻撃隊に対して、米軍の戦艦や巡洋艦、空母の5インチ高角砲が一斉に射撃を開始した。発射された5インチ高角砲弾は、日本機の編隊に接近すると、編隊の200mほど手前で爆発した。彗星が放射した電波を受けて、全ての近接信管が、誤動作により早期爆発した。日本機に有効な範囲まで近づいて爆発する砲弾は一つもない。
日本軍の編隊が飛行してゆくと、高射砲弾の爆発煙もそれにつれて移動していった。近接信管を備えた砲弾は、欺瞞電波の受信強度が一定以上になると全て爆発するので、ほとんどの弾が前面で爆発してしまう。信管が故障した数パーセント程度の砲弾はそのまま飛んできたが、もともと故障しているのだから爆発せずに後方に通り過ぎる。ほとんどの砲弾が早期に爆発してしまうので、多数の砲弾を撃ちあげて、確率的に命中させるということもできない。
発射したほとんどの砲弾が空中で爆発するのは、時限式の信管の時と同じだ。しばらくの間は、米艦の艦長や砲術長も違和感を抱かずに砲撃を続けていた。それでも日本機が落ちないので、異常に気がついた砲術長は、自らの経験からもっともありそうな原因を思いついた。敵に被害を与えられないのは、照準が甘いのだ。しっかりと狙わないから命中しないのだ。操作員に厳しい叱咤がとんだ。
一部の砲術長は砲弾に欠陥があるのではないかと疑ったが、すぐに弾種を切り替えられない。高射砲塔にも揚弾機にも近接信管を装着した弾丸しかない。弾薬庫にしまったタイマー式信管の砲弾を持ってくるにはそれなりの時間がかかる。
有効な対空砲射撃が不可能な間に、レンジャーの輪形陣の上空に三航戦の7機の烈風と15機の彗星が侵入した。レンジャーの南側から侵入して、4機の烈風が急降下を開始した。40mm機関砲の射程内に入ると、1機が撃ち落とされた。3機の烈風が、激しく40mm機関砲を撃っていた南側のサンファンに噴進弾攻撃を行った。54発の100mm噴進弾が発射されて、サンファンの後部の右舷側に命中した。4連装40mm機関砲2基が破壊された。
わずかに遅れて4機の彗星が、レンジャーに急降下を開始した。レンジャーとアトランタの40mm機関砲が射撃を開始するが、彗星は通常よりも高い1,000mを超える高度で80番4号爆弾を投下すると上空に退避した。80番4号は推進剤を若干増加した改良型で加速性能が改善していた。投下された爆弾のうちの80番爆弾1発が缶室まで貫通して爆発した。半数の機関が停止して速度が低下し始める。
急降下爆撃隊は、今までの戦訓から、投下高度を高めることで機関砲からの被害を低減する作戦を採用していた。自由落下の爆弾と推進剤で加速される4号爆弾の弾着までの時間を比較すると、4号爆弾の時間は半分以下だ。すなわち、急降下爆撃の投下高度を約2倍の1,000mに高めても、弾着までの時間は4秒弱で自由落下爆弾とほとんど変わらない。当然投下してから弾着までに、目標の船が進む距離も同じだ。しかも投下する爆弾の弾道は直線的になって、見越しの補正量は小さくてよい。すなわち推進剤により加速する爆弾は、従来の2倍の高度で投下しても、命中率は今までとそれほど変化しないはずだ。実験でも確かめてから、日本の攻撃隊は今回の戦いから攻撃法を変更していた。
続いて、80番(800kg)4号爆弾を搭載した8機の彗星がレンジャーに急降下した。投下高度を高めても時間は短縮されるが機関砲の射程圏内に入るので、1機が40mm機関砲に撃墜された。7発の爆弾のうちの2発が命中した。もともとレンジャーは排水量のわりに搭載機を増やす設計のために、防御力と速度が犠牲になっていた。装甲板による防御は弾薬庫などの重要部を除けば何もない。前部に命中した80番は船体内の水平隔壁を次々に貫通して、船底まで達して爆発した。艦首部の船底に大規模な亀裂が発生した。更に、船体後部に1発が命中して、機関室内で爆発した。まだ動いていた機関は全て破壊されて完全に停止した。
ほぼ同時に雷撃装備の14機の彗星が、対空砲火の火力が低下した輪形陣の南側から低空で侵入してきた。前方のワシントンとアトランタが激しく射撃してくるが、低空の対空砲火も日本軍の欺瞞電波で近接信管が早期爆発してしまう。14機がレンジャーに向けて雷撃態勢に入った。機関砲射撃により2機が撃墜されて、12機が魚雷を投下した。このうちの5本が全てレンジャーの右舷側に命中した。艦首の爆弾による浸水に右舷の多量の浸水が加わるとレンジャーは急激に右舷に傾いて、格納庫内が水浸しになるほど喫水が上がっていった。
レンジャーへの攻撃とほぼ同時に、一航艦攻撃隊の千早大尉は中隊の各機に攻撃開始を命令した。
「第一中隊、突入せよ」
6機の烈風がエセックスの輪形陣に向けて突進を開始した。エセックスとインディアナの砲術長は、既に近接信管弾の異常を感じていたが、時限式の信管の砲弾への切り替えが間に合わない。それでも、急降下してくる烈風に対して、2機を撃墜した。4機がエセックスの艦橋のある右舷舷側に噴進弾攻撃して72発の100mm弾のうちの約3割が命中した。これにより、1基の5インチ砲と3基の40mm機関砲が破壊された。
烈風に続いて、千早機を先頭にして、一航艦の12機の彗星が降下態勢に入る。
エセックスの前方を航行していたサウスダコタは、空母の対空火力を補うために、減速してエセックスに接近していた。艦隊の前方で日本機の編隊に対して、もっとも早く5インチ砲の射撃を開始したサウスダコタは、近接信管の爆発が異常であることにも早く気がついた。
サウスダコタに座乗していたリー少将がいち早く対空砲火の爆発の様子がおかしいことを見抜いたのだ。
「あの高射砲弾の爆発の様子は異常だぞ。原因は砲弾にあるのではないか」
艦長のガッチ大佐は、少将の意見に従ってすぐに時限式の信管の弾丸への切り替えを指示した。
「砲塔内の近接信管弾は全部撃ってしまうか、海に捨てろ。とにかく早く古い弾丸に戻すんだ」
艦長の指示により、5インチ砲塔の半分には時限信管弾が届き始めていた。サウスダコタの対空レーダーのマーク4は、波長の切り替えにより動作可能となっていた。サウスダコタのレーダー管制された半数の5インチ砲は本来の威力を取り戻し始めた。しかし、近接信管の威力は封じられたままだ。
サウスダコタの5インチ砲により、2機の彗星が撃墜された。更に1機がエセックス自身の40mm対空砲で撃墜された。
エセックスには9発の80番4号爆弾が1,000mの高度から投下されて、3発が命中した。1発は船体後部に命中して、格納庫下の2.5インチ(64mm)装甲を貫通して、更にその下の防御甲板の1.5インチ(38mm)装甲も破って機関部に侵入して爆発した。半数の機関停止により速度が20ノット以下へと低下し始める。更に船体の前部に2発が命中した。2層構造の装甲板を破って艦底で爆発した。格納庫の床が盛り上がり、前部エレベータが陥没した。爆発により発生した亀裂による浸水が始まった。
急降下爆撃とほぼ同時に、友永大尉を含む18機の彗星が低空で接近していった。右側のウィチタと前方のインディアナは、まだ5インチ砲の砲弾の切り替えができていなかった。40mm機関砲を主体に対空射撃を行っていた。近づいた機体には20mm機関銃も射撃に加わる。対空砲火により、2機が撃墜された。
エセックスの右舷側から一斉に13本の魚雷が投下された。4本が次々と命中する。中央部に命中した2本の魚雷は、右舷への大規模な浸水を引き起こした。艦尾に2本が命中して、機関室への浸水で3本の推進機が止まった。浸水による右舷への傾斜と電力停止で対空砲の砲撃が不可能になって、速度は5ノットに低下した。魚雷の爆発による破口からの浸水が止まらず、右舷への傾斜が徐々に増加してゆく。
3機の彗星は、雷撃進路に侵入してきたインディアナを狙うことになった。激しく対空砲を打ち上げている戦艦に魚雷1本が命中した。
上空に残っていた一航艦から出撃していた21機の彗星が輪形陣の外で旋回していた。そのうち、11機は爆弾を搭載しており、10機が雷撃装備であった。飛龍の友永大尉は自ら攻撃を終えた後も上空を旋回して、攻撃により与えた被害を確認して、攻撃機の割り振りを行った。
レンジャーは爆撃と雷撃の被害で、既に右舷にかなり傾斜しており、見ている間に艦首も沈みつつあった。一方、エセックスは煙を上げながらも、雷撃により右舷に傾斜しながら微速で前進していた。
エセックスには4機の彗星が急降下を開始した。更に3機の雷撃機が低空から侵入する。80番爆弾の2発が命中して、魚雷1本が右舷側中央部に命中した。爆弾と魚雷の命中により、右舷側の破口が更に拡大して傾斜が激しくなると、やがて右側に横倒しになった。
戦闘の推移を見ていた友永大尉は、大型艦を狙うという誘惑に逆らえなかった。残りの15機の彗星にサウスダコタとインディアナを狙うように命令した。この頃には、サウスダコタから伝えられた情報により、インディアナも5インチ砲弾を時限信管弾に切り替えていた。周囲の巡洋艦も含めて、猛烈な対空砲火が打ち上げられる。
サウスダコタには3機が急降下爆撃を行い、5機が雷撃を行った。急降下爆撃中に1機が撃墜された。2発の爆弾のうちの1発が中央部に命中した。1.5インチ(38mm)装甲を貫通したが、その下の6.05インチ(154mm)装甲は貫通できずに、船体の上部で爆発した。一方、魚雷は2本が船体後部と中央部に命中して、水雷防御区画に浸水を発生させた。浸水と水中の破口の抵抗により、速度が25ノットに低下した。雷撃により、右舷に傾斜したが、それは反対舷への注水により回復できた。
インディアナには4機が急降下爆撃を行い、4発の爆弾のうちの2発が船体前部と中央部に命中した。船体前部の80番は時速1000kmを超えて、甲板に命中した。80番爆弾は、1.5インチ(38mm)装甲を貫通して、その下の5インチ(127mm)水平装甲をも貫通して、船体下部の前部缶室で爆発した。ボイラーへの被害により、機関出力がどんどん落ちてゆく。インディアナの速度は20ノットに低下した。雷撃を行った3機は1機が撃墜されたが、2本の魚雷を投下できた。しかし、魚雷は全て回避された。
嵐のようにやってきた日本の攻撃隊は、この魚雷攻撃を最後に突然引き上げていった。
「そろそろ、わが軍の攻撃隊が敵艦隊に到着する頃だ。ところで、本当にあんな装置で、米軍の近接信管を誤動作させられるのかね?」
「あの装置は、小型の真空管により、米軍の近接信管が送信するのと同じ波長の電波を送信しています。しかも送信する電波は、目標からの反射波の周波数がドップラー効果により上下に変動することを模擬して、周波数変調をかけています。数百サイクルの周波数で変調をかけて、送信電波の周波数を変動させているのです。加えて、近接信管の発振周波数が、多少中心値からずれていてもいいように、電波の発振周波数をわずかずつ変えた送信管6本を短時間で切り替えながら電波を発振しています。実際に二式艦偵で近接信管の測定をした結果も、発振電波は製造誤差により周波数がばらついていました」
「真空管が使われているようだが、それにしては小型の装置だったな。電波の出力は大丈夫なのか? 機上の無線通信機だってあんなに小さくはないぞ」
「電探や通信機のように遠くまで電波を飛ばす必要はないので、出力は大きくなくても大丈夫です。装置が小さいのは、我々も近接信管を開発していたのですが、その過程で、小型の真空管などの部品をいろいろ開発しました。今回の装置はその小型部品を活用したおかげで、随分小さくなりました。それに電探とは違って、発振器の構成も単純な回路で十分です。もともと疑似している回路が、高々真空管数本でできている小さな回路なんですからね」
草鹿少将は、電波の理屈は完全にはわからないようだったが、私がそう言うのであれば、そんなものだろうと思い口をつぐんだ。
……
接近した日本の攻撃隊に対して、米軍の戦艦や巡洋艦、空母の5インチ高角砲が一斉に射撃を開始した。発射された5インチ高角砲弾は、日本機の編隊に接近すると、編隊の200mほど手前で爆発した。彗星が放射した電波を受けて、全ての近接信管が、誤動作により早期爆発した。日本機に有効な範囲まで近づいて爆発する砲弾は一つもない。
日本軍の編隊が飛行してゆくと、高射砲弾の爆発煙もそれにつれて移動していった。近接信管を備えた砲弾は、欺瞞電波の受信強度が一定以上になると全て爆発するので、ほとんどの弾が前面で爆発してしまう。信管が故障した数パーセント程度の砲弾はそのまま飛んできたが、もともと故障しているのだから爆発せずに後方に通り過ぎる。ほとんどの砲弾が早期に爆発してしまうので、多数の砲弾を撃ちあげて、確率的に命中させるということもできない。
発射したほとんどの砲弾が空中で爆発するのは、時限式の信管の時と同じだ。しばらくの間は、米艦の艦長や砲術長も違和感を抱かずに砲撃を続けていた。それでも日本機が落ちないので、異常に気がついた砲術長は、自らの経験からもっともありそうな原因を思いついた。敵に被害を与えられないのは、照準が甘いのだ。しっかりと狙わないから命中しないのだ。操作員に厳しい叱咤がとんだ。
一部の砲術長は砲弾に欠陥があるのではないかと疑ったが、すぐに弾種を切り替えられない。高射砲塔にも揚弾機にも近接信管を装着した弾丸しかない。弾薬庫にしまったタイマー式信管の砲弾を持ってくるにはそれなりの時間がかかる。
有効な対空砲射撃が不可能な間に、レンジャーの輪形陣の上空に三航戦の7機の烈風と15機の彗星が侵入した。レンジャーの南側から侵入して、4機の烈風が急降下を開始した。40mm機関砲の射程内に入ると、1機が撃ち落とされた。3機の烈風が、激しく40mm機関砲を撃っていた南側のサンファンに噴進弾攻撃を行った。54発の100mm噴進弾が発射されて、サンファンの後部の右舷側に命中した。4連装40mm機関砲2基が破壊された。
わずかに遅れて4機の彗星が、レンジャーに急降下を開始した。レンジャーとアトランタの40mm機関砲が射撃を開始するが、彗星は通常よりも高い1,000mを超える高度で80番4号爆弾を投下すると上空に退避した。80番4号は推進剤を若干増加した改良型で加速性能が改善していた。投下された爆弾のうちの80番爆弾1発が缶室まで貫通して爆発した。半数の機関が停止して速度が低下し始める。
急降下爆撃隊は、今までの戦訓から、投下高度を高めることで機関砲からの被害を低減する作戦を採用していた。自由落下の爆弾と推進剤で加速される4号爆弾の弾着までの時間を比較すると、4号爆弾の時間は半分以下だ。すなわち、急降下爆撃の投下高度を約2倍の1,000mに高めても、弾着までの時間は4秒弱で自由落下爆弾とほとんど変わらない。当然投下してから弾着までに、目標の船が進む距離も同じだ。しかも投下する爆弾の弾道は直線的になって、見越しの補正量は小さくてよい。すなわち推進剤により加速する爆弾は、従来の2倍の高度で投下しても、命中率は今までとそれほど変化しないはずだ。実験でも確かめてから、日本の攻撃隊は今回の戦いから攻撃法を変更していた。
続いて、80番(800kg)4号爆弾を搭載した8機の彗星がレンジャーに急降下した。投下高度を高めても時間は短縮されるが機関砲の射程圏内に入るので、1機が40mm機関砲に撃墜された。7発の爆弾のうちの2発が命中した。もともとレンジャーは排水量のわりに搭載機を増やす設計のために、防御力と速度が犠牲になっていた。装甲板による防御は弾薬庫などの重要部を除けば何もない。前部に命中した80番は船体内の水平隔壁を次々に貫通して、船底まで達して爆発した。艦首部の船底に大規模な亀裂が発生した。更に、船体後部に1発が命中して、機関室内で爆発した。まだ動いていた機関は全て破壊されて完全に停止した。
ほぼ同時に雷撃装備の14機の彗星が、対空砲火の火力が低下した輪形陣の南側から低空で侵入してきた。前方のワシントンとアトランタが激しく射撃してくるが、低空の対空砲火も日本軍の欺瞞電波で近接信管が早期爆発してしまう。14機がレンジャーに向けて雷撃態勢に入った。機関砲射撃により2機が撃墜されて、12機が魚雷を投下した。このうちの5本が全てレンジャーの右舷側に命中した。艦首の爆弾による浸水に右舷の多量の浸水が加わるとレンジャーは急激に右舷に傾いて、格納庫内が水浸しになるほど喫水が上がっていった。
レンジャーへの攻撃とほぼ同時に、一航艦攻撃隊の千早大尉は中隊の各機に攻撃開始を命令した。
「第一中隊、突入せよ」
6機の烈風がエセックスの輪形陣に向けて突進を開始した。エセックスとインディアナの砲術長は、既に近接信管弾の異常を感じていたが、時限式の信管の砲弾への切り替えが間に合わない。それでも、急降下してくる烈風に対して、2機を撃墜した。4機がエセックスの艦橋のある右舷舷側に噴進弾攻撃して72発の100mm弾のうちの約3割が命中した。これにより、1基の5インチ砲と3基の40mm機関砲が破壊された。
烈風に続いて、千早機を先頭にして、一航艦の12機の彗星が降下態勢に入る。
エセックスの前方を航行していたサウスダコタは、空母の対空火力を補うために、減速してエセックスに接近していた。艦隊の前方で日本機の編隊に対して、もっとも早く5インチ砲の射撃を開始したサウスダコタは、近接信管の爆発が異常であることにも早く気がついた。
サウスダコタに座乗していたリー少将がいち早く対空砲火の爆発の様子がおかしいことを見抜いたのだ。
「あの高射砲弾の爆発の様子は異常だぞ。原因は砲弾にあるのではないか」
艦長のガッチ大佐は、少将の意見に従ってすぐに時限式の信管の弾丸への切り替えを指示した。
「砲塔内の近接信管弾は全部撃ってしまうか、海に捨てろ。とにかく早く古い弾丸に戻すんだ」
艦長の指示により、5インチ砲塔の半分には時限信管弾が届き始めていた。サウスダコタの対空レーダーのマーク4は、波長の切り替えにより動作可能となっていた。サウスダコタのレーダー管制された半数の5インチ砲は本来の威力を取り戻し始めた。しかし、近接信管の威力は封じられたままだ。
サウスダコタの5インチ砲により、2機の彗星が撃墜された。更に1機がエセックス自身の40mm対空砲で撃墜された。
エセックスには9発の80番4号爆弾が1,000mの高度から投下されて、3発が命中した。1発は船体後部に命中して、格納庫下の2.5インチ(64mm)装甲を貫通して、更にその下の防御甲板の1.5インチ(38mm)装甲も破って機関部に侵入して爆発した。半数の機関停止により速度が20ノット以下へと低下し始める。更に船体の前部に2発が命中した。2層構造の装甲板を破って艦底で爆発した。格納庫の床が盛り上がり、前部エレベータが陥没した。爆発により発生した亀裂による浸水が始まった。
急降下爆撃とほぼ同時に、友永大尉を含む18機の彗星が低空で接近していった。右側のウィチタと前方のインディアナは、まだ5インチ砲の砲弾の切り替えができていなかった。40mm機関砲を主体に対空射撃を行っていた。近づいた機体には20mm機関銃も射撃に加わる。対空砲火により、2機が撃墜された。
エセックスの右舷側から一斉に13本の魚雷が投下された。4本が次々と命中する。中央部に命中した2本の魚雷は、右舷への大規模な浸水を引き起こした。艦尾に2本が命中して、機関室への浸水で3本の推進機が止まった。浸水による右舷への傾斜と電力停止で対空砲の砲撃が不可能になって、速度は5ノットに低下した。魚雷の爆発による破口からの浸水が止まらず、右舷への傾斜が徐々に増加してゆく。
3機の彗星は、雷撃進路に侵入してきたインディアナを狙うことになった。激しく対空砲を打ち上げている戦艦に魚雷1本が命中した。
上空に残っていた一航艦から出撃していた21機の彗星が輪形陣の外で旋回していた。そのうち、11機は爆弾を搭載しており、10機が雷撃装備であった。飛龍の友永大尉は自ら攻撃を終えた後も上空を旋回して、攻撃により与えた被害を確認して、攻撃機の割り振りを行った。
レンジャーは爆撃と雷撃の被害で、既に右舷にかなり傾斜しており、見ている間に艦首も沈みつつあった。一方、エセックスは煙を上げながらも、雷撃により右舷に傾斜しながら微速で前進していた。
エセックスには4機の彗星が急降下を開始した。更に3機の雷撃機が低空から侵入する。80番爆弾の2発が命中して、魚雷1本が右舷側中央部に命中した。爆弾と魚雷の命中により、右舷側の破口が更に拡大して傾斜が激しくなると、やがて右側に横倒しになった。
戦闘の推移を見ていた友永大尉は、大型艦を狙うという誘惑に逆らえなかった。残りの15機の彗星にサウスダコタとインディアナを狙うように命令した。この頃には、サウスダコタから伝えられた情報により、インディアナも5インチ砲弾を時限信管弾に切り替えていた。周囲の巡洋艦も含めて、猛烈な対空砲火が打ち上げられる。
サウスダコタには3機が急降下爆撃を行い、5機が雷撃を行った。急降下爆撃中に1機が撃墜された。2発の爆弾のうちの1発が中央部に命中した。1.5インチ(38mm)装甲を貫通したが、その下の6.05インチ(154mm)装甲は貫通できずに、船体の上部で爆発した。一方、魚雷は2本が船体後部と中央部に命中して、水雷防御区画に浸水を発生させた。浸水と水中の破口の抵抗により、速度が25ノットに低下した。雷撃により、右舷に傾斜したが、それは反対舷への注水により回復できた。
インディアナには4機が急降下爆撃を行い、4発の爆弾のうちの2発が船体前部と中央部に命中した。船体前部の80番は時速1000kmを超えて、甲板に命中した。80番爆弾は、1.5インチ(38mm)装甲を貫通して、その下の5インチ(127mm)水平装甲をも貫通して、船体下部の前部缶室で爆発した。ボイラーへの被害により、機関出力がどんどん落ちてゆく。インディアナの速度は20ノットに低下した。雷撃を行った3機は1機が撃墜されたが、2本の魚雷を投下できた。しかし、魚雷は全て回避された。
嵐のようにやってきた日本の攻撃隊は、この魚雷攻撃を最後に突然引き上げていった。
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六四〇〇〇トンで建造されるはずだった「大和」は、しかしさらなる巨艦として誕生する。
だがしかし、米海軍の六〇〇〇〇トン級戦艦は誤報だったことが後に判明。
情報におけるミスが組織に致命的な結果をもたらすことを悟った帝国海軍はこれまでの態度を一変、貪欲に情報を収集・分析するようになる。
そして、その情報重視への転換は、帝国海軍の戦備ならびに戦術に大いなる変化をもたらす。
無職ニートの俺は気が付くと聯合艦隊司令長官になっていた
中七七三
ファンタジー
■■アルファポリス 第1回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞■■
無職ニートで軍ヲタの俺が太平洋戦争時の聯合艦隊司令長官となっていた。
これは、別次元から来た女神のせいだった。
その次元では日本が勝利していたのだった。
女神は、神国日本が負けた歴史の世界が許せない。
なぜか、俺を真珠湾攻撃直前の時代に転移させ、聯合艦隊司令長官にした。
軍ヲタ知識で、歴史をどーにかできるのか?
日本勝たせるなんて、無理ゲーじゃねと思いつつ、このままでは自分が死ぬ。
ブーゲンビルで機上戦死か、戦争終わって、戦犯で死刑だ。
この運命を回避するため、必死の戦いが始まった。
参考文献は、各話の最後に掲載しています。完結後に纏めようかと思います。
使用している地図・画像は自作か、ライセンスで再利用可のものを検索し使用しています。
表紙イラストは、ヤングマガジンで賞をとった方が画いたものです。
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