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第1章 ハワイの戦い
1.8章 日本空母の反撃
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一航戦と二航戦の上空にエンタープライズの攻撃隊が現れたころ、嶋崎少佐が率いた一航艦の攻撃隊は飛行、遠方に艦隊を発見していた。零式艦偵が引き続き敵艦隊の位置情報を報告していたのが役に立った。攻撃隊には飛行中も艦隊司令部から、敵の位置情報が送られてきたのだ。艦影の見える方向に飛行すると、空母を中心とした艦隊が見えてくる。完全にクロスカウンターとなった攻撃が開始されようとしていた。
前方を飛行する零戦隊の中隊長がバンクすると、約半数が事前の指示に従って上昇してゆく。その方向を見ると、黒い点がいくつか見える。
嶋崎少佐が、突撃を命令する。命令に従って、爆撃隊は上昇し、艦攻隊は降下してゆく。前方に残っていた零戦のうちの6機が右方向にロールしながら旋回していった。同じ高度で右方向から接近する敵戦闘機を発見したのだ。エンタープライズはレーダーで日本機の編隊を探知して、上空のF4Fを誘導した。F4Fは編隊を上方と右側に二隊に分かれて迎撃してきた。
続いて、前方を飛行していた残りの零戦が一気に急降下してゆく。エンジンを全開にすると、重力も加わってどんどん加速してゆく。零戦に向けて高角砲が射撃を開始する。しかし、零戦の速度は既に350ノット(648km/h)を超えているので、高角砲も後追いぎみとなっている。降下角度は急降下爆撃よりも浅い45度程度で直線飛行を避けて機体をわずかに左右に揺らしながらジグザグに降下してゆく。
この時の第8任務部隊の陣形はエンタープライズを中心として、先頭を重巡ソルトレイクシティが航行して、エンタープライズの左舷側を重巡ノーザンプトンが、右舷側を重巡チェスターが航行していた。左舷方向から侵入してくる零戦の編隊に対して、ノーザンプトンとエンタープライズの高射砲と28mm対空機銃が発砲を始めると、1機の零戦が被弾して翼が折れて墜落してゆく。
残った2機の零戦が、エンタープライズまで約1,000メートルの距離で、噴進弾を発射した。零戦の両翼から白い煙が前後に噴出して、前方にするすると多数の煙のやりが伸びていく。
エンタープライズの艦橋では、何が攻撃を仕掛けてくるのかわからず、ハルゼー中将が思わず叫ぶ。
「敵機に高角砲が命中したのではないのか? 白い煙が伸びてくるぞ。うゎっ、命中するぞ!」
「あれは、ロケット弾です。火薬による推進力で弾頭が飛んでくるのです。伏せてください」
ブローニング大佐の言葉が終わる前に、命中の振動がやってきた。
44発の噴進弾のうち3割程度がエンタープライズ左舷に命中した。舷側が爆発煙に包まれて、まだ炎を噴き出している噴進弾の固形燃料により火災も発生する。砲座の脇に置かれていた高射砲弾が火災により次々に誘爆を始めた。左舷のむき出しの高角砲は3門が被害を受けて、高射機銃も半数以上が射撃不可となる。舷側の格納庫シャッターに命中した噴進弾は、薄いシャッターを貫通して格納庫内部に飛び込んで爆発する。米空母に特徴的な、シャッターで開け閉め可能な格納庫側壁の構造が、この場合は裏目に出た。
エンタープライズからは、全ての機体が出払っていて格納庫は空だったため、誘爆は発生しないが、燃える噴進弾の固形燃料が格納庫内で火災を発生させた。
残り1機の零戦は、エンタープライズの左舷側で激しく対空砲を射撃していた重巡ノーザンプトンの中央部に向けて噴進弾を発射した。発射の直後に機銃弾が零戦に命中して爆発する。そのまま翼がちぎれて胴体だけが錐もみになって、海面に激突する。この機体の噴進弾は、重巡洋艦の船体中央部の2本煙突の周りに着弾した。船体中央部に集中して設けられた全ての高射砲が、被弾により射撃不能になる。艦の中央部に搭載している水上機のガソリンが盛大な火災を発生させた。被害を受けていない高射機関砲も一時的に煙のため射撃が不可能になってしまう。
零戦の攻撃に続いて左舷側に九七式艦攻の6機編隊が低空で接近してくる。既にノーザンプトンもエンタープライズも左舷の高角砲と機銃の反撃はほとんど不可能だ。エンタープライズは取舵により、雷撃機に艦首を向けて魚雷の射線を外そうとした。ところが、転舵により艦首の方向が変わる前に、艦攻は機体を横滑りさせて6機編隊の位置を変えることにより狙いを修正して一斉に爆弾を投下した。艦攻が投下したのは、魚雷ではなく反跳爆弾だった。海面を跳躍して9発の爆弾が迫ってきた。
エンタープライズの艦橋ではまたもや想定と違う出来事にしばらく混乱していた。
ハルゼーが叫ぶ。
「魚雷じゃないのか? あれはなんだ。何かが海面を飛び跳ねてくるぞ」
「飛んでくるのは爆弾です。速度が速いので、魚雷のようにはよけられません。舷側に命中します! 何かにつかまってください」
左舷に2発の25番(250kg)爆弾が命中した。1発は薄い格納庫の側壁を突き抜けて格納庫に飛び込んで爆発して、爆風が飛行甲板を上方に押し上げてしまう。1発は格納庫より低い水面近くの舷側を貫通して艦内で爆発した。更にその後に命中した2発は、艦攻に1発ずつ搭載していた50番(500kg)の反跳爆弾だった。左舷側の舷側を斜め下方に命中して貫通すると内側の隔壁を次々に貫通して船体内部で爆発した。爆発により、周囲の隔壁が破壊される。内部からの爆風をまともに受けて左舷側の舷側に亀裂が生じて浸水が始まる。浸水と舷側の破孔の抵抗により速度が落ちてゆく。しかし、この時点ではエンタープライズの機関はまだ健在だった。
反跳爆撃とほぼ同時に、上空から急降下爆撃が始まる。縦列の一列になって急降下爆撃を行う従来の爆撃法は、対空砲火で狙い撃ちされるために採用していない。嶋崎少佐は、狙った艦の周囲のばらばらな位置から一斉に降下する個別降下法に変更すると事前に伝えていた。この方法だと、同時に攻撃する艦爆に対して対空砲は狙いにくくなる代わりに、敵艦上空での引き起こし時に衝突の可能性があるが、そこは操縦員の腕で回避せよということだ。
急降下爆撃機が次々とエンタープライズに向けて投弾する。エンタープライズの高角砲や対空機関銃は零戦の攻撃と反跳爆弾で半分以下に減少していた。特に左舷側の対空砲はほとんど沈黙したままだ。左翼を守るノーザンプトンも噴進弾による被害の影響でまばらにしか対空射撃ができない。それでも右舷を航行しているチェスターの高射砲が、2機の九九式艦爆を撃墜する。
エンタープライズが高速で回頭しているにもかかわらず、左舷と後方からばらばらなタイミングで急降下爆撃を行った九九式艦爆は12発の爆弾を投下して、このうち7発を命中させた。実戦の場で一航艦の艦爆隊の優れた技量が発揮された。7発の50番の命中により、エンタープライズの格納庫を含めた上部構造物はぼろぼろになって廃墟同然だ。1発は艦橋に命中して、艦橋下部を破壊した。このため、艦橋が停電して、艦隊と空母の指揮が不可能となる。7発中3発は後部飛行甲板を真上から貫通した。ギャラリーデッキと格納庫を貫通して、その下の1.5インチ(38mm)装甲を破って機関部に飛び込んだ。3発の50番の炸薬は、空母の機関全体を破壊するには十分だった。機関が破壊されたため、回避行動の途中でエンタープライズは動力を失った。惰性だけになった空母は、どんどん減速してゆく。舷側近くで爆発した爆弾は、新たに亀裂を発生させて浸水を増加させた。
防空網に開いた左舷側の穴から12機の九七式艦攻が3隊に分かれて迫ってくる。既に回避行動をとれないエンタープライズの艦首から艦尾までの左舷側に次々と5本の魚雷が命中した。魚雷の命中により、急速に左舷への傾斜が増してくる。傾斜により喫水線より上に開口していた破孔からも浸水が始まると一気に横倒しになった。
既にエンタープライズでは総員退去の命令が出ていた。しかし艦内の通信が寸断され、命令が伝えられない。加えて、まっすぐ歩けない程、傾斜してしまったため、簡単に退避することもできなくなっていた。
上空では、嶋崎少佐がエンタープライズへの攻撃を観察していた。魚雷が命中した時点で、既に断末魔だと判断すると、周囲の巡洋艦への攻撃を指示した。零戦の噴進弾により、中央部に被害を受けていたノーザンプトンに対しては、急遽目標を変更した九九式艦爆が3発の爆弾を命中させる。同様に空母から目標を変更した九七式艦攻の魚雷が2発命中すると、あっという間に傾き始める。
エンタープライズの前方を航行していた重巡ソルトレイクシティも空母の次に大きな艦であったため、急降下爆撃の目標となった。この時点でまだ無傷であった巡洋艦は自身を守るために8門の高角砲で全力射撃を行っていた。たちまち2機の九九式艦爆が撃墜されるが、それでも6発が投弾されて3発の爆弾が命中した。2発は1.75インチ(44mm)の水平装甲を簡単に貫通して機関部で爆発する。船体中央部での爆発により、舷側に亀裂が生じて浸水が始まる。
対空砲が上空を向いている間を狙って、急降下爆撃と同時に5機の九七式艦攻が肉薄してきた。日本海軍が日頃から訓練してきた、雷爆同時攻撃だ。上空の爆撃機から、低空に目標を変えた28mm機銃により1機が撃墜されたが、既に4機は雷撃を終えていた。左舷の艦首付近に1本の魚雷が命中した。全速航行していたために、前方から大きな水圧を受けて、艦首部の破孔から急速に浸水が拡大して、前部の喫水が深くなってゆく。船体前部では、艦内の防水扉も全速の水圧に耐えられなくなり、扉のロックが引きちぎれた。艦の中央部に命中したもう1本の魚雷も左舷側に浸水を引き起こした。急速に拡大する浸水を防ぐことが不可能になって。やがてソルトレイクシティは前部から沈み始めた。
残った九九式艦爆は、最後の重巡であるチェスターに攻撃目標を変えて攻撃した。チェスターは、近くを航行していた駆逐艦グリッドレイと共同して、高角砲と機銃の全力射撃により2機を撃墜した。九九式艦爆はその仕返しとばかりに4発の50番爆弾を命中させた。そのうちの1発は巡洋艦の水平装甲を貫通して、機関部に達して爆発した。機関部の被害により、速度が半分以下になりながらもチェスターはかろうじて、沈没を免れた。
嶋崎少佐は冷静に上空から戦果を確認していた。横転してからしばらく船腹を見せていたエンタープライズもやがて沈んでいった。彼は帰投後、空母1撃沈、巡洋艦2撃沈、巡洋艦1大破を赤城に報告した。第8任務部隊の指揮官のハルゼー中将は、エンタープライズの艦橋に急降下による爆弾が直撃した時に運命を共にしたとも言われている。
前方を飛行する零戦隊の中隊長がバンクすると、約半数が事前の指示に従って上昇してゆく。その方向を見ると、黒い点がいくつか見える。
嶋崎少佐が、突撃を命令する。命令に従って、爆撃隊は上昇し、艦攻隊は降下してゆく。前方に残っていた零戦のうちの6機が右方向にロールしながら旋回していった。同じ高度で右方向から接近する敵戦闘機を発見したのだ。エンタープライズはレーダーで日本機の編隊を探知して、上空のF4Fを誘導した。F4Fは編隊を上方と右側に二隊に分かれて迎撃してきた。
続いて、前方を飛行していた残りの零戦が一気に急降下してゆく。エンジンを全開にすると、重力も加わってどんどん加速してゆく。零戦に向けて高角砲が射撃を開始する。しかし、零戦の速度は既に350ノット(648km/h)を超えているので、高角砲も後追いぎみとなっている。降下角度は急降下爆撃よりも浅い45度程度で直線飛行を避けて機体をわずかに左右に揺らしながらジグザグに降下してゆく。
この時の第8任務部隊の陣形はエンタープライズを中心として、先頭を重巡ソルトレイクシティが航行して、エンタープライズの左舷側を重巡ノーザンプトンが、右舷側を重巡チェスターが航行していた。左舷方向から侵入してくる零戦の編隊に対して、ノーザンプトンとエンタープライズの高射砲と28mm対空機銃が発砲を始めると、1機の零戦が被弾して翼が折れて墜落してゆく。
残った2機の零戦が、エンタープライズまで約1,000メートルの距離で、噴進弾を発射した。零戦の両翼から白い煙が前後に噴出して、前方にするすると多数の煙のやりが伸びていく。
エンタープライズの艦橋では、何が攻撃を仕掛けてくるのかわからず、ハルゼー中将が思わず叫ぶ。
「敵機に高角砲が命中したのではないのか? 白い煙が伸びてくるぞ。うゎっ、命中するぞ!」
「あれは、ロケット弾です。火薬による推進力で弾頭が飛んでくるのです。伏せてください」
ブローニング大佐の言葉が終わる前に、命中の振動がやってきた。
44発の噴進弾のうち3割程度がエンタープライズ左舷に命中した。舷側が爆発煙に包まれて、まだ炎を噴き出している噴進弾の固形燃料により火災も発生する。砲座の脇に置かれていた高射砲弾が火災により次々に誘爆を始めた。左舷のむき出しの高角砲は3門が被害を受けて、高射機銃も半数以上が射撃不可となる。舷側の格納庫シャッターに命中した噴進弾は、薄いシャッターを貫通して格納庫内部に飛び込んで爆発する。米空母に特徴的な、シャッターで開け閉め可能な格納庫側壁の構造が、この場合は裏目に出た。
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残り1機の零戦は、エンタープライズの左舷側で激しく対空砲を射撃していた重巡ノーザンプトンの中央部に向けて噴進弾を発射した。発射の直後に機銃弾が零戦に命中して爆発する。そのまま翼がちぎれて胴体だけが錐もみになって、海面に激突する。この機体の噴進弾は、重巡洋艦の船体中央部の2本煙突の周りに着弾した。船体中央部に集中して設けられた全ての高射砲が、被弾により射撃不能になる。艦の中央部に搭載している水上機のガソリンが盛大な火災を発生させた。被害を受けていない高射機関砲も一時的に煙のため射撃が不可能になってしまう。
零戦の攻撃に続いて左舷側に九七式艦攻の6機編隊が低空で接近してくる。既にノーザンプトンもエンタープライズも左舷の高角砲と機銃の反撃はほとんど不可能だ。エンタープライズは取舵により、雷撃機に艦首を向けて魚雷の射線を外そうとした。ところが、転舵により艦首の方向が変わる前に、艦攻は機体を横滑りさせて6機編隊の位置を変えることにより狙いを修正して一斉に爆弾を投下した。艦攻が投下したのは、魚雷ではなく反跳爆弾だった。海面を跳躍して9発の爆弾が迫ってきた。
エンタープライズの艦橋ではまたもや想定と違う出来事にしばらく混乱していた。
ハルゼーが叫ぶ。
「魚雷じゃないのか? あれはなんだ。何かが海面を飛び跳ねてくるぞ」
「飛んでくるのは爆弾です。速度が速いので、魚雷のようにはよけられません。舷側に命中します! 何かにつかまってください」
左舷に2発の25番(250kg)爆弾が命中した。1発は薄い格納庫の側壁を突き抜けて格納庫に飛び込んで爆発して、爆風が飛行甲板を上方に押し上げてしまう。1発は格納庫より低い水面近くの舷側を貫通して艦内で爆発した。更にその後に命中した2発は、艦攻に1発ずつ搭載していた50番(500kg)の反跳爆弾だった。左舷側の舷側を斜め下方に命中して貫通すると内側の隔壁を次々に貫通して船体内部で爆発した。爆発により、周囲の隔壁が破壊される。内部からの爆風をまともに受けて左舷側の舷側に亀裂が生じて浸水が始まる。浸水と舷側の破孔の抵抗により速度が落ちてゆく。しかし、この時点ではエンタープライズの機関はまだ健在だった。
反跳爆撃とほぼ同時に、上空から急降下爆撃が始まる。縦列の一列になって急降下爆撃を行う従来の爆撃法は、対空砲火で狙い撃ちされるために採用していない。嶋崎少佐は、狙った艦の周囲のばらばらな位置から一斉に降下する個別降下法に変更すると事前に伝えていた。この方法だと、同時に攻撃する艦爆に対して対空砲は狙いにくくなる代わりに、敵艦上空での引き起こし時に衝突の可能性があるが、そこは操縦員の腕で回避せよということだ。
急降下爆撃機が次々とエンタープライズに向けて投弾する。エンタープライズの高角砲や対空機関銃は零戦の攻撃と反跳爆弾で半分以下に減少していた。特に左舷側の対空砲はほとんど沈黙したままだ。左翼を守るノーザンプトンも噴進弾による被害の影響でまばらにしか対空射撃ができない。それでも右舷を航行しているチェスターの高射砲が、2機の九九式艦爆を撃墜する。
エンタープライズが高速で回頭しているにもかかわらず、左舷と後方からばらばらなタイミングで急降下爆撃を行った九九式艦爆は12発の爆弾を投下して、このうち7発を命中させた。実戦の場で一航艦の艦爆隊の優れた技量が発揮された。7発の50番の命中により、エンタープライズの格納庫を含めた上部構造物はぼろぼろになって廃墟同然だ。1発は艦橋に命中して、艦橋下部を破壊した。このため、艦橋が停電して、艦隊と空母の指揮が不可能となる。7発中3発は後部飛行甲板を真上から貫通した。ギャラリーデッキと格納庫を貫通して、その下の1.5インチ(38mm)装甲を破って機関部に飛び込んだ。3発の50番の炸薬は、空母の機関全体を破壊するには十分だった。機関が破壊されたため、回避行動の途中でエンタープライズは動力を失った。惰性だけになった空母は、どんどん減速してゆく。舷側近くで爆発した爆弾は、新たに亀裂を発生させて浸水を増加させた。
防空網に開いた左舷側の穴から12機の九七式艦攻が3隊に分かれて迫ってくる。既に回避行動をとれないエンタープライズの艦首から艦尾までの左舷側に次々と5本の魚雷が命中した。魚雷の命中により、急速に左舷への傾斜が増してくる。傾斜により喫水線より上に開口していた破孔からも浸水が始まると一気に横倒しになった。
既にエンタープライズでは総員退去の命令が出ていた。しかし艦内の通信が寸断され、命令が伝えられない。加えて、まっすぐ歩けない程、傾斜してしまったため、簡単に退避することもできなくなっていた。
上空では、嶋崎少佐がエンタープライズへの攻撃を観察していた。魚雷が命中した時点で、既に断末魔だと判断すると、周囲の巡洋艦への攻撃を指示した。零戦の噴進弾により、中央部に被害を受けていたノーザンプトンに対しては、急遽目標を変更した九九式艦爆が3発の爆弾を命中させる。同様に空母から目標を変更した九七式艦攻の魚雷が2発命中すると、あっという間に傾き始める。
エンタープライズの前方を航行していた重巡ソルトレイクシティも空母の次に大きな艦であったため、急降下爆撃の目標となった。この時点でまだ無傷であった巡洋艦は自身を守るために8門の高角砲で全力射撃を行っていた。たちまち2機の九九式艦爆が撃墜されるが、それでも6発が投弾されて3発の爆弾が命中した。2発は1.75インチ(44mm)の水平装甲を簡単に貫通して機関部で爆発する。船体中央部での爆発により、舷側に亀裂が生じて浸水が始まる。
対空砲が上空を向いている間を狙って、急降下爆撃と同時に5機の九七式艦攻が肉薄してきた。日本海軍が日頃から訓練してきた、雷爆同時攻撃だ。上空の爆撃機から、低空に目標を変えた28mm機銃により1機が撃墜されたが、既に4機は雷撃を終えていた。左舷の艦首付近に1本の魚雷が命中した。全速航行していたために、前方から大きな水圧を受けて、艦首部の破孔から急速に浸水が拡大して、前部の喫水が深くなってゆく。船体前部では、艦内の防水扉も全速の水圧に耐えられなくなり、扉のロックが引きちぎれた。艦の中央部に命中したもう1本の魚雷も左舷側に浸水を引き起こした。急速に拡大する浸水を防ぐことが不可能になって。やがてソルトレイクシティは前部から沈み始めた。
残った九九式艦爆は、最後の重巡であるチェスターに攻撃目標を変えて攻撃した。チェスターは、近くを航行していた駆逐艦グリッドレイと共同して、高角砲と機銃の全力射撃により2機を撃墜した。九九式艦爆はその仕返しとばかりに4発の50番爆弾を命中させた。そのうちの1発は巡洋艦の水平装甲を貫通して、機関部に達して爆発した。機関部の被害により、速度が半分以下になりながらもチェスターはかろうじて、沈没を免れた。
嶋崎少佐は冷静に上空から戦果を確認していた。横転してからしばらく船腹を見せていたエンタープライズもやがて沈んでいった。彼は帰投後、空母1撃沈、巡洋艦2撃沈、巡洋艦1大破を赤城に報告した。第8任務部隊の指揮官のハルゼー中将は、エンタープライズの艦橋に急降下による爆弾が直撃した時に運命を共にしたとも言われている。
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