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落ち穂拾い的な 幼い王太子の初恋

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 それは長く観察しているけれど初めて見る光景で、また荷物を受け取ったロニフ自身の表情も気にかかった。
 その日はミロクに一緒に夕飯食べるぞって言われていたから、本来なら内宮にいなければならない日だったのに、どうしてだかロニフの行動の違いが気になってその場を離れることができない。

 宿舎傍の木の上で楽な体勢を取りながら窓を覗き込むけれど、ぶ厚いカーテンの引かれたそこは俺の視線をわずかにも許してはくれなかった。

 仕方なく、外から見守るしかない。

 気にかかった。

 ただそれだけの理由でここまで監視するのは異常なことだ、ましてや次の王たる者のやることではない。
 わかっているのにそわそわとした胸騒ぎが止まらなかった。

 一晩中監視して……けれど出てきたロニフはいつもの様子だ。

 美しい黒髪をポニーテールにして腰まで垂らし、細身を更に細く見せる騎士団のタイトな服を着て……

「? 俺の思い違いか?」

 結局あれは実家から送ってこられた服などの物資だったのだろうか?
 そう思うと一晩中木の上で見つめ続けた自分の異常さが良心をチクチクと刺すから、俺は少しの間だけロニフのストーカーを休んだ。

 ミロクについて回るその姿をこっそり盗み見るだけにしていた俺は、声をかけられるわけでもなく、だからと言って存在を知られたいために隠密行動ができず……後から思うならばずいぶんと変わった様子だっただろう。
 けれど、それだけ纏わりついているからこそわかることもある。

 ロニフの、変化に。

 顔色が悪い と言うか、何かに焦っているように思えた。
 何かがおかしい。

 俺は胸に浮かんだそれをいなすことができないまま、三人が公務で市中に降りているのを確認してロニフの宿舎に忍び込むことにした。
 宿舎には鍵が掛けられるようになっていないとは言え、勝手に入るのは明らかにマナー違反と言うか、ミロクに尻が腫れあがるくらいまで叩かれてしまう案件だ。

 だが、俺は何かが引っかかっていた。


 ──── にぃ  ……


 暗い宿舎は簡素と言うほかない状況で、布団の固そうなベッド、簡易のそっけない机と数冊の騎士のための教本……後はある意味があるのかと思える寝間着くらいだ。
 剣士の最高峰、剣聖……その中でも歴史上初の五大王国に認められた剣聖の部屋にしては驚くほど物がない。

 いや、端にこの間送られてきた箱が置かれてはいるが……


 ─── にぃ  ……


 ちいさな声を今度こそ聞き逃さなかった。
 それは小さくか弱い子猫の泣き声で、それが部屋の中央に進むにしたがってはっきりと聞こえるようになってくる。


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