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落ち穂拾い的な ロニフ
しおりを挟むその子供が受付に現れた時、その場にいたすべての人間が顔をしかめた。
伸び放題で手入れのされていない黒髪、汚れと傷で地肌が見えないような手足と、かろうじて取り繕ったとでも言いたげなズタ袋を羽織った少女は薄汚れた手にたった一本の木の枝を持っていた。
この日は王都で城の兵士を大々的に募る採用テストの日で、年に一度のその催しのために人がごった返していた……けれどその少女の周りだけぽっかりと人がいないのは、その異様な雰囲気を察知してのことだ。
大きな黒耳で辺りの気配を窺い、兵士採用への受付までやってきて……彼女は何をしていいのかわからないようだった。
「あー……邪魔になるから退きなさい」
受付の男が面倒そうに言い、まだまだ捌かなければならない列を見やって面倒そうに言う。
押しのけられて……彼女は一歩も引かない。
まっすぐに黒い瞳で男を見据えて、けれど一言も言葉を発しなかった。
「退けって言ってるだろう? おい!」
立ち上がって連れて行こうとした男が吹き飛んだのはこの直後のことで……
「で? お前、もしかして採用テストを受けに来たのか?」
まばらに髭の生えた顎を撫でながら言う男は、なんとか椅子に座らせた少女に対してそう尋ねかける。
けれども少女はじっと男を見て何も答えず、しばらくしてから壁に貼られている今日の採用テストのポスターをさっと指さした。
「あんな、お嬢ちゃん。兵士の採用テストには武器が必要でな ……」
さっと掲げられた緑の葉っぱのついた枝に男の言葉が途切れる。
少女の反応から見るにこれが武器だと言いたげなのはわかったが、その木の枝はそこらの木から折っただけのような代物だった。
仕掛け武器のような何かかと疑りもしたが、それはどこをどう見ても子供が振り回すような木の枝だ。
男は少女の頭のてっぺんからつま先までじっくりと見て溜息を吐く。
どこをどう見てもただの浮浪児なのだが、受付の男を吹き飛ばしたのをこの目で見ていたために男は……受付責任者であるバトラクスは追い返しもできずに頭を悩ませていた。
この採用テストは「貴賤を問わず」とされているし、それが国王の意思でもある。
ここで少女を追い返せば王の意向を無視することとなるだろうし、だからと言ってこの少女にテストを受けさせるのはいささか問題があった。
何か無理難題を吹っかけて追い返すのが妥当か、それとも「武器を携えた者」と言う唯一の募集条件に従ってテストを受けさせるのがいいのか……
もっとも、もし受けれたとしてもこんなナリと木の枝では早々に脱落するのは目に見えていた。
兵士に採用されれば騎士に取り上げてもらえるチャンスが与えられるだけに、名を上げようとしてかなり気性の荒い奴らも参加するような場だ、この少女がその中に放り込まれたとして……とバトラクスはいかめしい顔をさらにいかめしくする。
それだけではない。
この少女はこのズタ袋以外なにも身に着けていない状態で、到底人前に出ていい姿ではなかった。
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