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落ち穂拾い的な スティオンの立場
しおりを挟むひらひらと手を振ったスティオンはくるりと向きを変えるとお茶でも淹れましょう! と嬉しげに言って準備をし始める。
「ハーブティーにしますからね? ご安心くださいね?」
愛嬌のある表情で言われると素直にはいと言ってしまうだけの魅力がスティオンにはあって……けれどオレは、スティオンの父親でもあるベレラ伯爵とのことがあっただけに、素直にその笑顔を受け取ることができないでいた。
もちろん、スティオン自身を不審に思っているわけではない、きちんと検診もしてくれる腕のいい医者だし、ゴトゥスでは彼がいないとオレは山を下ることすらできなかったのだから、命の恩人と言っても過言じゃないと思っている。
でも。
でも だ。
にこにこと笑顔を見せるスティオンが魅力的な存在だと言うのも同時によくわかって……クラドの普段と違う様子も相まって、二人には何か特別な事柄があったんじゃないかって勘ぐってしまう。
「気になります? 私と閣下のこと」
「あ……の、それは……」
オレはクラドの気持ちを疑ったりはしていないからさらっと「別に」と流してしまえばいいだけの話なのだけれど、表情を取り繕うって言うことが苦手なオレはそれを言う前に表情で語ってしまっていたらしい。
スティオンはあははと笑いながら柔らかな香りのするティーカップを目の前に置いた。
華やかな柄のカップは貴族が使うにふさわしいと思わせるような優美なもので、スティオンがそれを持つとよく似合っていると感じた。
「幼馴染なんですよ? 私と、閣下と宰相であるエルと、それから国王陛下は」
「あ……そう、なんですね」
「色の絡む話だと思ってました?」
金色の瞳に今度は悪戯っぽい色を浮かべて身を竦めると、たゆんとつい目で追ってしまうものが目の前で揺れる。
兄さんは細身だし、そもそも男だしで身近に女性のいなかったオレとしてはドキドキしてしまうのも事実だった。
「年上のエルと、それから国王陛下と私、それに年下のクラドと。何せ道理もわからないチビガキ共でしたから、ずいぶんといろんな冒険をして仲良く怒られました」
ふと口調が変わったことに、オレだけでなくスティオン自身も気がついたようで、しまったと言う表情をしてから一口ハーブティーを啜る。
「騎士団の見習い時期まで共に切磋琢磨していたんですよ? これでも将来有望な騎士見習いだったので」
「どうして騎士にならなかったんですか?」
定型文のようにそう返してしまってから、ベレラ伯爵家が医師の家系だと言うことを思い出して思わず口を押えた。
ならなかったのではなく、なれなかったのだとしたらオレの言葉は酷く相手を傷つける言葉だろうから……
「どうやら性別が間違ってたのですよ」
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