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落ち穂拾い的な 兄の思いは複雑
しおりを挟む「この度はゴトゥス遠征で素晴らしい偉業を成し遂げられましたこと、大変喜ばしく思います」
そう言って下げる頭につんと尖った茶色い耳を見る。
なんの種族だったか忘れたけれど、この夫人は俺のことをコソコソと言っていた人だ。
いや、コソコソなんてもんじゃなかったかな……なんでも双子の娘がクルオスと年が近いとかなんとかで、未だに側室……あわよくば第二妃、いや……王妃を諦めていないらしい物言いをしていた。
ゴトゥスに関しても失敗しろとかなんとかほざいていたはずだ、俺は恩は忘れても仇は忘れないからな!
「皆の祈りがコリン=ボサ神に届いたのでしょう、ロヌル子爵夫人の強い思いが後押ししてくださったに違いありません」
お互いにうふふ と笑うけれど、薄緑の目がギラリとしたのを見逃しはしない。
貴方の送ってくれた塩のお陰で勝てましたよ なんて言われてもいい気はしないだろうからな、こんな面倒な立場でないなら階段の上からそのでっかいケツを蹴り飛ばしてやるんだけど。
あの戦いを生き抜いたと言うのに、貴族共の対応は様々だった。
諸手を上げて讃えてくれた者もいれば、王の伴侶のクセに出過ぎた真似をと言う奴もいる、それから成果に対して妬みやひがみも……
きらびやかな世界に見えてその中身は全然キラキラしていないと言うことを、はるひは知らないままでいてくれているだろうか? できる限り危ないものや危険なもの、悪いことを吹き込みそうな奴らから遠のかせてはいたけれど……
あの優しい子がこんなやり取りに気を病まないでくれるなら、俺は幾らだって盾になれる。
一報が入ったのは、あまりにもはるひ発見の報が入らずに苛々して壁を殴りつけている最中のことだった。
あの黒イヌが見つけたのだと告げられた俺は大喜びだったが、それと同時に「お子様と共にこちらに向かっています」の言葉に腰を抜かしてしまった。
周りはそれを安堵のために力が抜けたって思っていたようだけど、はるひに子供⁉︎ 子供だって⁉︎
「『あのクソ犬がぁ』」
「み、巫女さ ま? いかがなさいました? 王宮医を呼びましょうか?」
さっと顔色を変えた侍従に平気だと返して、何とか表情を取り繕おうとしたけれど、それはもう……今にも崩れそうな仮面だ。
あクソ犬だろ! うちのカワイイはるひに乗っかったの!
思わず叫び出しそうな胸の内をぐっとこらえて、こちらに向かっていると言うはるひを迎えるために外宮へと駆け出す。こちらの行儀見習いをした頃に、走るなとさんざん言われたけれどそんなことはどうでもいい、なんたってこの国の権力者は俺なんだからうるさいと首ちょんぱしちゃうぞ!
「はるひ様がいらっしゃしました!」
悲鳴のような声を聞いて目を凝らした先には、はるひを大事そうに抱えているクラドとその腕の中で安心して実を預けているはるひの姿で……瘴気の痕の治療をしている最中もはるひはクラドの服を離さなくて、二人の仲を見せつけるようだった。
後から着いたと言うはるひの子供を見て、幼い頃の姿にそっくりだと思う一方……
「……え、お兄ちゃん、弟に先越されたってことだよな」
聖シルル王国の国王と結婚して十二年、実はお兄ちゃんはいまだに童貞処女です。
END.
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