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落ち穂拾い的な 兄の思いは複雑
しおりを挟むはるひが行方をくらましたのだと教えられたのは、ゴトゥス山脈遠征からやっとの思いで帰り着いた際だった。
いつも神経質そうだと思っていた宰相のエルが、更に拍車をかけたように悪い顔色で慎重に報告があると言うものだから何事かと思えば……
遠征中に俺が取り乱してはならないからと連絡しなかったことを詫びた所で、はるひが帰ってくるはずもない!
掴みかかって責める俺よりも、真っ青な顔で無言のままクラドは飛び出して行ってしまった。
俺も探しに行こうとしたのを止められて、脱走の方法を画策するもすべて封じられてしまってはどうすることもできない。
魔物には有効なこの力も同じ人間相手では揮っても意味のないもので、探してはいるのだと言うエルの言葉を飲み込んでただクラドがはるひを見つけてくれるのを待つ以外になかった。
この世にたった一人の血の繋がった家族と言うだけじゃない。
はるひは俺の支えであり救いであり守るべきものであり、隠し通さなくてはならないものだ。
「…………はるひ、どうして……」
この世界にくる際に、神はこの世界が非常に危険な世界なのだと言う基本的な知識を教えてくれた。
それは蔓延る瘴気だったり、生き物の体を弄ぶ魔物だったり、……人と融合した存在である魔人だったり、そんな人に狙いを定めて襲い掛かってくるモノがあふれかえっている世界なのだと……
今までの世界の常識も、身の守り方も何も通用しないそこは教えられた通り、本当にどこまで行っても異世界で、そんな危険な場所にはるひが行ってしまったと言うのが、めまいがしそうなくらいショックなことだった。
もしかして、あの黒イヌが身の程もわきまえず、俺のカワイイが天元突破するようなはるひを狙っていることを本人に気づかれたんじゃないのだろうか?
それを嫌がって、この機会に逃げたんじゃ……?
それ以外にはるひが俺の傍を離れる理由がわからない!
兄弟仲はいいし! 今でも一緒に風呂に入るくらいだし! はるひの着る服はちゃんと俺が選んでるし、食べるものも俺のチェックがない限りは食べさせないってしてたしね!
朝と昼と夜は絶対に二人で食事をとるし、同じベッドで寝ることだってあるくらい仲がいいんだから、そんな俺を置いてどこにいくって言うんだ!
やっぱりはるひに求婚するためって言う下心でついてきた黒イヌが嫌だったんじゃないのか⁉︎ きっとあいつのせいだろ!
切腹だ切腹! クラド切腹ー! はい! 切腹っ!
「月の如き巫女様にご挨拶いたします」
「あ……ああ、ごきげんよう」
全然ご機嫌でないのにそう返さなければならないことにギリギリと歯を鳴らしたいのをぐっと堪えて、話しかけてきたおばさん……じゃなかった、ばばぁ……じゃない、夫人に微かな苦笑で返した。
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