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おまけ 152
しおりを挟む極々簡潔な言葉を兄は理解したようだった。
エルもその言葉の中身を理解したのか、口に運んでいたティーカップを置いてからひたりと見据えてくる。
「兄上がはるひを望むなら、私は貴方を引きずりおろしてヒロを王位に就ける」
握り締めた拳がギリ と軋むような音を立てた。
酷く卑怯なやり方だとは十二分に理解している、兄を王位から下ろして子供を祭り上げればその父親として政に口を出すことも可能だろう。
ましてやそれが『ゴトゥスの英雄』と言う肩書も持ち合わせているのであれば、血は流れているのだから王籍を抜けたことを押し退けて無理やりにでもはるひを手に入れることも……
「 ────お前は馬鹿か」
ばさ と書類を投げ出され、味気なかった大理石のテーブルの上に紙が舞い散る。
「お前みたいな単細胞が貴族共と渡り合ってどうこうできると思っているのか? 摂政になったところでお前の剣の腕など手紙を開けることにしか使えんだろうよ」
「そん そんなことはありません!」
「堂々とこうやって宣言しにくるところで馬鹿だと言っているんだ」
「っ!」
もう一枚、書類を投げつけられて顔から落ちる前にそれを掴む。
「しかし、……」
何も言わないなんて卑怯な行いは騎士道に…… などと言えば再び「馬鹿か」と言葉が飛んでくるのは目に見えている。
仕方なく行き場を失ってしまった言葉を飲み込んで、何か言い募る言葉を探して書類に目をやった。
「お前は俺をなんだと思っているんだ、弟の伴侶をかすめ取るような男だとでも?」
憤慨しているのか大きく打ち付けられる長い尾と手の中の書類を幾度も見比べる。
「あ 。いえ、その、 」
「俺はかすがが子を産むまで他は娶らんと言っている」
ぶつぶつと言われる言葉が耳をくすぐるけれど、正直に言ってしまえば兄が何を言っているのか理解はできてなかった。
ただ投げつけられた書類の内容を飲む込むのがやっとで……
「他の妃は無用だ、第一に他の胤を孕んでいる奴を娶ってどうしろと言うんだ」
面倒そうに兄は尾で扉を指し示すと、さっさと出て行けとばかりに払うように手を振る。
「お前ら、ゴトゥスでナニをしてきたんだ」
冷ややかな目はからかいよりも呆れを含ませていて……あの状況下でそんな余裕があったことに対して、何か言ってやらねばとでも言いたげな顔をしていた。
「や……ナニ、と 」
俺は兄の言葉をもう一度飲み込みながら、スティオンから提出されたらしい書類をぎゅっと握り締めた。
「お迎えに行った方がいいんじゃないですか? スティオンにからかわれるのを承知で」
笑いを含むように俺を見たエルと兄を眺めて、俺は思わず尾を振ってからはるひの元へと駆け出していた。
END.
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