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おまけ 145
しおりを挟むもっと朗らかな表情で、あどけなさの残る顔立ちで、活躍したいのだと胸を張って語っていた姿を思い出す。
幾ら異形になり果ててもその体は仲間のものなのだと、面影の残る横顔を見下ろしながら思った。
仲間に刃を向けるのか?
仲間を殺すのか?
仲間を人外と呼ぶのか?
仲間を、化け物にしてしまうのか?
どれも人として非難を受けてもいい事柄だ、だからこそ俺はそれを甘んじて受けなければならないのだろう。
かつて隊を率いた者ととして、仲間の行く末に責任を持って……
今の様子ならばどこに突き立てても抵抗らしい抵抗はできないだろうと小刀を振り上げる。
「────止めてっ!」
そう叫んだ声は間違いようもないエステスだ。
その金髪を見る度に苛々とした感情が這い上がってくるような気分になって、ぎゅっと鼻に皺を寄せてしまったがそれでも努めて声を荒げないようにして「なりません」と返した。
エステスは慈悲の雨に濡れるのを厭うようにしてはいたが、意を決したように走り出して魔人の上へと覆いかぶさる。
「兄さまを二度も殺さないで!」
「兄? ……イネリアはカメロ男爵の……」
エステスが預けられた先と魔人の宿主になったイネリアはカメロ家で繋がる、引っかかっていた部分が繋がったようだったが今はそれにかまっている余裕はない。
この魔人を制圧する奇跡がいつまで続くかわからない以上、機会を逃すことはできないからだ。
「退け」
「 ────っ」
ぶるぶると首を振る金の髪が広がって、巫女と言う立場柄きっと神秘的に見えただろうに と哀れさを感じる。
魔人の妨害がなければ巫女とは言えエステスはただの貧弱な少年でしかない。
その襟を掴んでちょっと力を込めてやると、まるでおもちゃを放り投げるかのように吹き飛んで……
斜面に投げ出されて止まることができず、エステスは転がるようにして倒れ伏すと動かなくなった。
「……ぇ゛ ず、でぇ え゛ずです ぅ゛ 」
「 っに、 さ 」
呻く二人がそれでも必死に互いを求めて手を伸ばしているのを見ると、自分がこれ以上ないくらいの悪い人間になったような、胸糞の悪い気持ちに襲われる。
世界に害を与える存在だと言うのに、それを滅しようとする自分こそが悪なのだと錯覚しそうになった。
けれどそれを振り切って魔人へ向けて小刀を突き立てる。
落ち続ける光の粒に肌を焼かれ続けるからか、あれほど剣が通らないと感じていた皮膚に深く小刀が突き刺さる。
「兄さま────っ!」
甲高い声に押されるようにして手を離した瞬間、人工的なピィィィィ──── と長く甲高い笛の音が高らかに鳴らされる。
それはあまりにも甲高すぎて音が割れて聞こえ、どこか魔人の悲鳴に近いものを感じさせた。
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