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おまけ 144
しおりを挟む先ほどはるひを思い浮かべたのだとしても、当代の巫女とされているのはかすがなのだから兄の言葉が正しいだろう。
お互いぼろぼろの姿を見て苦笑を一瞬零し合い、それからどちらともなく魔人の方へと向き直った。
生き物が焼ける臭いではなかったけれど、明らかに何かが焼ける臭いが魔人が転がる度に強く鼻を突く。鼻を押さえてそっぽを向いてしまいたくなるのを根性で押さえつけながら近づくと、降り続ける銀色の霰が魔人の肌を焼いているのだと言うことが分かる。
これは一体何なのか?
オレも兄も答えは持っていないようだったが、それでも巫女に拠る神の力の発現だと言うことははっきりとしていた。
「短剣は?」
「……溶けています、もう。使うことはできないでしょう」
スティオンから渡された鞄も、いつの間にやらどこかに吹き飛んでしまっていて火薬玉はもう手元になかった。
もしここでこの瀕死の魔人にとどめを刺そうとするならば……
ミロクの雷が最適だった。
「 くそっ、やはり予備を持ってくるべきだった」
苦々しく言うが、そもそも巫女同士の力が反発するために、引退した巫女の聖別した武器があること自体が大問題で、ばれたら巫女を信奉する一団からうるさく言われかねない。
「……いや、あります、一本だけ」
はっと思い出して慌ててベルトに手を回す。
吹き飛んでいなければ……と手をまわした先に、ベルトに括り付けた革の荷物を見つける。そこにあるのは前国王の館が襲撃された際に、ないよりは……とこっそりとミロクが聖別をして渡してくれた小刀だ。
切り合う武器と言うわけでないのなら と、少しでも対抗手段が欲しくて持ってきていたものだった。
それを手渡すと兄は苦笑を深くしながらこちらに来る時に持っていた光るものを振ってみせる。
途中で拾ったのだろうそれはミロクへ合図を送るための笛だ。
筒身は細いがその音は山を越えて聞こえるそれが見つかっていたことにほっと胸を撫で下ろす。
「あの者達を避難させる、刺したらすぐに吹くからな」
「はい」
そう言うとさっと隊の方へと駆けていく。
残されたオレがすることは……浄化の力にもだえ苦しむものにこの小刀を刺すことだ。
「ぃ゛、 あ゛あ゛……っぃ゛だぁ゛ ぃ゛ 」
壊れた鐘ががらんがらんと鳴る音が響き続ける。
苦痛に体を震わせて、痛みに顔を歪ませ、苦しさに涙を流すその姿は明らかに瘴気や魔物と一線を画す魔「人」だった。
かつて顔を合わせたこともある相手の変わり果てた姿に、何も思わないではなかったけれどだからと言って、これがかつての仲間だったかと聞かれたら答えは違うとしか言えない。
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