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おまけ 138
しおりを挟む震える拳をもう片方の手で握り込むようにして額につけ、コリン=ボサへの祈りの形をとるけれどそれも形ばかりで、頭の中は混乱以外の言葉が見つからない状態だった。
「ここでは畏まる必要はない、馴染みの場所だろう? 気を楽にするといい」
コリン=ボサの声はクラドのものだったけれど、どこか笑いを含んでいるような喋り方のせいか酷く耳障りに思えて、それに居心地の悪い思いをしながらそろりと腕だけを下ろす。
好奇心に惹かれるように見回した部屋は、どこをどう見てもオレとかすが兄さんが生まれ育った家で……
「…………」
けれどところどころ違和感のある部分があるせいか、まるで見知らぬ場所のようだった。
大きなテレビも、エアコンもついていて、和室に続く扉もあればキッチンも記憶にある通りだ……けれど、
「……食器がない」
まったくないわけではなかったけれど、お母さんが好きだからと集めていた食器で埋まっていた食器棚は空白の目立つものだった。
さっとテレビ台を見て……その下に並んでいるはずのDVDに目をやったが、いくつかは題名が書かれていない。
そんな感じに、この空間はオレが育っていた家からはほんの少しずつ何かがずれている。
「……お、畏れ多くも……」
かすが兄さんから話す必要はないと言われはしたけれど、この対面の状態で何も話さないのは何も事態が進まない。
目の前の存在が神だと名乗ったのだから、相応の態度でものを尋ねることしかできなかった。
「コリン=ボサ神の巫女かすがの弟、はるひが尋ねることをお許しください」
「はは! 今更だろう、さぁ椅子に座るといい」
確かに、初対面でつい言ってしまった言葉を思い出してどきりと体が跳ねた。
「それとも手ずから座らせてやろうか?」
さっとオレの傍に膝をついたコリン=ボサからははっとするほどのいい香りがする。
思わずそちらを向くとどこをどう見てもクラドにしか見えない顔が至近距離で微笑んでいるから、気まずい気分で慌てて視線を他へと逸らさなければならなかった。
「っ⁉︎」
びくんと体が跳ねたのを見て、コリン=ボサはまた面白そうに笑い声をあげた。
「そうか、お前にはクラドに見えているのだったな」
喉の奥で楽しそうに笑いながら、いつもクラドがそうしてくれていたようにオレをさっと持ち上げてソファーへと下ろす。
「⁉︎」
オレとしては神と名乗った人物にそんなことをされて……ただただ青くなって身をこわばらせることしかできない。
うまく事情が呑み込めないまま、そろりと見上げた先にはクラドそっくりの……いや、銀色の瞳をしたクラドがまっすぐにこちらを見つめている。
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