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おまけ 136
しおりを挟むあの山には、オレをここに逃がすためにクレドが残ってくれて、その応援のためにラムス達が向かっている。
オレのよく知る人達、オレが何よりも大事だと思う人が今あそこで魔人の蹂躙を受けている、その場所に対処する方法が神の力を纏った慈雨を降らすしかなくて、しかも効果が見込めないのだと言いたいのだとしたら、謝罪なんてしている場合じゃない。
すぐにでも次の手を考えて、この雨で瘴気達が出てこないうちに援軍を送るとか……
「『……クソ神に、会ったら、会話なんてする必要ないからね』」
まるで見知らぬ人を前にしているかのような違和感にぽかんとした瞬間、ずるりと体の中から何かが引きずり出されるような感覚がして体中が総毛立った。
それを言葉にするならば、力ずくで何もかもを根こそぎ奪い取って行く暴漢……強奪者……盗賊団に体の中を土足で踏みにじられた感覚に近い。
恐ろしくなるほどの勢いで体の中の力と言う力が根こそぎ引きずり出されて、奪われて、抵抗なんてできるような隙も与えないまま……オレの体の中が空虚な洞になってしまった錯覚に、体温がするすると指先から無くなっていく。
遠くでミロクの声がして、スティオンが叫びながら駆け寄ってくる音を聞きながら、オレはまるで海の底にでも連れていかれるかのような虚脱感に意識を手放してしまった。
コツン と足元が音を立てて、そこで意識が浮上したのだと思う。
今ここに歩いて到着したようだったし、けれどもずっとここに立っていて身じろいだだけだとも思えた。
オレは、どうしてここにいるんだろう?
そう思ったことが最初だった。
そこからさっと意識が広がるにつれて視界が明瞭になり、オレはぐるりと辺りを見回してぽかん と口を開くしかできない。
なぜならそこは……
「『お家に帰ってきた』」
庭の少し枯れている部分の見える芝生、その横には二本のトネリコの木が植わっていて……その向こうにはお父さんの車を停めてある駐車場がある。
玄関の方の駐車場にはお母さんの赤い小さな車がいつも停まっていて、そして二段あるタイル貼りの階段を上って落ち着いた銀色の扉を手前に引けば……
「『え……なんで?』」
正面にはいくつかの絵が飾られている。
自分が描いたものもあればかすが兄さんの描いたものもあって、お父さんが趣味で撮った写真が飾られて……飾られて……
「 『……た、はずなのに』」
その父親が撮った写真のところだけ白い紙があるだけで、写真ではなかった。
「『何の写真だったかなぁ』」
思い出せないまま右手にあるリビングへと扉を開けると人の気配があった。
リビングに入って右奥に広がる方向にあるソファーに、誰か座っているのが見える。
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