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おまけ 130
しおりを挟む「閣下……」
「……っ……これは……」
「ど、どうしたら……」
怯んだ俺達の後ろで、魔人の咆哮が上がる。
魔人……
魔人……
瘴気が、人に憑りついて成ったモノ。
「 ま……」
隊の中には大怪我を負っている者も多い、もちろんそれをサポートしてしている者も……戦える者も……大勢、いる。
大勢。
ここには、魔人が産まれてくるための材料が……
「兄さまっ!」
最悪な思考の回廊に入っていた俺を止めたのはエステスの甲高い声だ。
悲鳴のようにも聞こえる兄を呼ぶ声は、今のこの場では場違いで……
「エス……エステス! 瘴気を浄化するんだ!」
以前、この場にはかすががいた、今はエステスがいるのだからその役割をこなせば光は見えてくるはずだ。
真っ青な顔をしているエステスに俺が飛びかかろうとした瞬間、
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
魔人の触手が目の前を覆う。
中に詰められた何かが蠢くその触手が……エステスに飛び掛かって行った俺を薙ぎ払った。
打撃と、それから足が浮き上がる感触、防御のために翳した手が鈍く嫌な音を立てて……落ちた先は瘴気の上だった。
むき身のままでは弱い瘴気は、俺の重さに耐えられずに幾つかは潰れたがそんなことで数は減りはしない。
「 ────っ!」
振り払おうとした腕に絡みつく瘴気を切り裂き、強い腐臭を放つ魔物を薙ぎ払ってもがくように手を伸ばすと、それを掴んで引っ張り上げてくれる感触がした。
まるで泥水か重油の中から這い出した気分ではっと息を吸い込む。
「早く! こっちだ!」
ダンクルの声に急かされて這い出るけれど、俺の体には無数の黒い筋と引っかき傷がびっしりとついている。
「体は⁉︎」
「気にするな! エステスは⁉︎」
さっと視線をやると、逃げられてはいないが俺達に協力しようと言う姿勢ではない。
この巫女は完全に我々の敵なんだと認識してしまうと、そちらを見る目に自然と力が籠って鼻に皺が寄るのを感じる。
「そんなことより、あっちだ!」
ぐるぅ ぐるぅ と魔人の喉が大きく波打ち、明らかにそこから何かを吐き出そうとしている様子だ。
この状況で吐き出そうとしているものが何であるかなんて、考えるよりも先にわかってしまうことで……
「 ! 笛っ笛を……っ」
さっと自分の身を見るが、そこにダンクルから奪った細長い笛は見当たらない。
先ほど自分が吹き飛ばされたのを思い出して、どこかに飛ばされたんだ と弾き飛ばされて落ちた箇所へと目を向けたが……そこはぼとんぼとんと生まれ出てくる瘴気にまみれてもう痕跡すら残してはいなかった。
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