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おまけ 127

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 もう一度、火薬玉を投げつけてから同じように呼びかけた。

「見ろ! これははるひが聖別したナイフだ!」

 ぎぎ……と魔人の体が軋みを上げてこちらへと振り返る。
 陽光に透ける触手が一瞬だけ硬直し、決して生き物ではない金属質な金色の瞳がぐりんと俺を見た。

 目が合うとそれだけで絶望を感じてしまうような昏い瞳と、はるひの血を啜った牙の生えた口。そこから覗く死人色の舌が咥内でぐるりと動くのが、唇のわずかに開いた隙間から見ることができた。

 ……あれは、舌なめずり だ。

 どうしてだかそう直感した。
 あの魔人ははるひにまつわるものを、あらゆる欲の先にあるものとして見ているのだとわかった。

「やはり、生かしてはおかん」

 低く唸るような声で言い、こちらに注意を向けた魔人の気を引くようにそのナイフで瘴気を切りつける。
 さらりと溶けて消える瘴気を見て、魔人は一瞬ぽかんとした様子を見せたがそれだけで、はるひのナイフを持つ俺に向かってぐぐっと体を伸ばす。

 もちろんこちらも黙って追いつかれる気はないから、他に注意が向かない程度の距離を取っては見せびらかすように振り回して見せる。

 その姿がなんだか小さい子供のいじめのように思えて気まずくはあったけれど、魔人はすっかり俺を追いかけるのに夢中になったらしく、立ち上がっていたのに今は膝をついてこちらへと手を伸ばそうとしていた。
 そこまで下がってくれればエステスを掴んでいる手まではすぐそこで……

 視界の端に機会を逃さずに駆け寄るダンクルの姿が見えた。

 一抱えほどありそうな腕でも、きっとダンクルならば……と思わせるほどしなやかな筋肉の動きだった。
 黒く光る銀の大剣が翻ったな と思った次の瞬間には刃が地面を抉る爆音が耳に届く。

「ぃやっ⁉︎ 何っ」

 甲高い悲鳴は急に中空に放り出されたエステスのものだろう。
 示し合わせていたわけではないと言うのに、控えていた騎士がさっと走り寄ってエステスを切り落とされた手から引きずり出した。

「や、なんで⁉︎ どうして腕を⁉︎ ……や、だめ。やめて! 許さないから!」

 騎士の手を振り切ろうとしたが叶わず、エステスは渾身の力で切り落とされた魔人の手に縋ろうと…………

 
「う゛  う゛う゛ぅ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」


 金属色の目が切り落とされた腕を見た途端に咆哮が上がった。
 今までの泣き喚くかのような、苦痛を訴えるようなそれではない。

 ただただそれは……開戦のための合図かのような大音声だった。

 犬獣人系が多い隊のせいか、間近で上げられたその怒声に耳を押さえるものが少なからずいた。



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