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おまけ 125
しおりを挟むこんな状況だと言うのに、落ち着かせようとしているのか、一人の騎士が膝をついてそう訴える。
「俺はっ 俺を兄さまが傷つけるわけないだろっ!」
わっと叫んで走り出したエステスを、一本の触手が絡めとる。
一瞬、これ以上力をつけられたら……とエステスのことよりもそちらの方に気が行った。
王族として生まれ、巫女の義弟として、そして神の加護で生かされていると言うのに、その神に祈る者を見殺しにしようとしたことにはっと首を振る。
例え、エステスがはるひに傷をつけたのだとしても、エステスが魔人に体液を与えていたのだとしても……巫女として、命のある者として、その死に対して鈍感になっていいわけじゃない。
「わ わわっ」
ぐぐっと触手に連れ去られて、エステスはそのまま魔人の口元へと運ばれる。
「巫女を助けるんだ!」
俺の言葉にさっと数人が触手を駆け上がるも、大きく変貌を遂げたそれを上まで駆け上がるのは困難らしく、途中で振り払われて地面に叩きつけられてしまう。
どんどんとエステスの体が魔人の口元に近づき、この大きさでは巫女は頭から齧られてお終いだろう と覚悟をした瞬間、魔人はエステスに頬ずりをしてみせた。
それは見たものが拍子抜けするような間抜けな姿で、まるで小さな少年が初めて手に持ったひよこに頬ずりをするような……そんな様子だったせいか、酷く場違いな光景だった。
「ェ゛ ズデェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ン゛ッ゛!」
雄たけびのように名前を呼んだが、その声が割れた鐘を坂の上から蹴り落したような音量とハチャメチャ具合で、聞いている者を不安に陥れる。
「兄さまっ! ……っこのまま逃げましょう」
エステスの声を自然と耳が拾った。
そんなこと、させるわけにはいかない。
どうしてだかわからないし、何が理由なのか知ることもできなかったが、この魔人ははるひに執着していたのだ。
森での時も、
前国王の館を襲った時も、
追いかけてきた時も、
この魔人はエステルではなくはるひを求めている。
魔人が、はるひに惹かれる理由ならいくらでもあげられる。
あの華奢な体に黒い髪の美しさはそれだけではるひはこの世で一番麗しいし、俺とよく似ているのにそれよりもはるかにキラキラと理知的な光を湛えた瞳は夜空のように澄んだ黒色で、あれを見て好意を抱かない人間はいないだろう。
小さな頃から利発で、こちらの意図をくみ取るのが上手なはるひは、いつも細やかに気をまわしてくれて俺の心地のいいように手をまわしてくれる。
そう、外見だけでなくはるひは内面も素晴らしく、他人を慮り、思いやれる素晴らしい人格者だ。
自分を助ける頭数に入れない場合があるのはどうにかして欲しいが、それでも自分より他者を思いやれるその心は……
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