245 / 303
おまけ 121
しおりを挟む頭が真っ白になった瞬間、とっさに火薬玉をエステスの方へと投げつけた。
対魔物、対魔人用に作られたそれを人に向けるなんて言うことは暴挙だと理解はしていたが、それでも俺は止められなかった。
「何をっ⁉︎」
鋭い声は制止の感情を含んでいたが間に合うはずがない。
それを止められるとしたら……
「あ゛、 あ゛、あ゛あ゛あ゛あ゛っ‼︎」
奇声を上げた魔人が伸ばした触手がエステスを庇い、そして爆発に身を焼かれてのたうつ。
俺は今、明らかに戦闘能力を持たないエステスを狙って、しかもそれを魔人が庇うであろうこと見越して攻撃をした。
「……卑怯と、おっしゃて頂いてかまいません」
聖別した火薬の火にあぶられた触手は力なく地面に転がっている、それに剣を振り下ろして切り落とすと、また魔人の悲鳴が上がった。
「けれど、俺は俺の番を傷つけたものを許すつもりはありません」
ぎ と奥歯を噛み締めると音が鳴る。
この魔人が、自らの体を治すためだけにこんな山にはるひを連れ去り、ナイフで切りつけ、血を啜り、あまつさえ脅す材料に使ったんだ。
……許せるわけがない。
長剣を構え直して視線だけで次の行動をダンクルに告げると、眉間に皺を寄せながらもダンクルは頷いてさっと走り出した。
触手に覆われていて見えなかったが、魔人の片足も再生してしまっているようだ、ゆらりと蜃気楼が立ち上がるかのように身を起こした魔人は……
見上げなければならないほどの大きさだった。
「な っ」
今までうずくまっていたから高さはわからなかったが、それでもこちらに這ってくる姿を見ればだいたいの身長の目星はついた。
けれど、今立ち上がった魔人の背丈は、ダンクルよりもはるかに大きい。
しかも背を丸くしている状態だから、それが伸びれば……
見たことのないような大きさになるのは間違いがなかった。
「 っこれは……」
「かつて王宮を襲った魔人も巨大だったと伝え聞いたことがある」
ダンクルの言葉に俺はぞっと背中に冷たいものが這いまわるような気配を感じ、ぶるりと身を震わせる。
「あの時は……どうやって倒したのかご存じですか?」
「はは、そりゃ……歴史に残るほどの全戦力投入だろ」
魔人を見上げて尾を膨らませたダンクルに言われて、そうか……と右手に力を込めた。
もう相打ちしかないのかと思ったところにスティオンやダンクルが現れ、もしかしたら無事にはるひ達の下に帰ることができるんじゃないのかと希望を持ったところだっただけに、ダンクルの言葉に心が削られてしまうのがわかる。
どん と魔人が踏み出した一歩は、残りの足も再生しているのだと見せつけるかのようだった。
15
お気に入りに追加
491
あなたにおすすめの小説
馬鹿犬は高嶺の花を諦めない
phyr
BL
死にかけで放り出されていたところを拾ってくれたのが、俺の師匠。今まで出会ったどんな人間よりも強くて格好良くて、綺麗で優しい人だ。だからどんなに犬扱いされても、例え師匠にその気がなくても、絶対に俺がこの人を手に入れる。
家も名前もなかった弟子が、血筋も名声も一級品の師匠に焦がれて求めて、手に入れるお話。
※このお話はムーンライトノベルズ様にも掲載しています。
第9回BL小説大賞にもエントリー済み。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

転生したらオメガだったんだけど!?
灰路 ゆうひ
BL
異世界転生って、ちょっとあこがれるよね~、なんて思ってたら、俺、転生しちゃったみたい。
しかも、小学校のころの自分に若返っただけかな~って思ってたら、オメガやベータやアルファっていう性別がある世界に転生したらしく、しかも俺は、オメガっていう希少種の性別に生まれたみたいで、は?俺がママになれるってどういうこと?しかも、親友の雅孝をはじめ、俺を見る目がなんだか妙な感じなんですけど。どうなってるの?
※本作はオメガバースの設定をお借りして制作しております。一部独自の解釈やアレンジが入ってしまう可能性があります。ご自衛下さいませ。

オメガ転生。
桜
BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。
そして…………
気がつけば、男児の姿に…
双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね!
破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!
逃げる銀狐に追う白竜~いいなずけ竜のアレがあんなに大きいなんて聞いてません!~
結城星乃
BL
【執着年下攻め🐲×逃げる年上受け🦊】
愚者の森に住む銀狐の一族には、ある掟がある。
──群れの長となる者は必ず真竜を娶って子を成し、真竜の加護を得ること──
長となる証である紋様を持って生まれてきた皓(こう)は、成竜となった番(つがい)の真竜と、婚儀の相談の為に顔合わせをすることになった。
番の真竜とは、幼竜の時に幾度か会っている。丸い目が綺羅綺羅していて、とても愛らしい白竜だった。この子が将来自分のお嫁さんになるんだと、胸が高鳴ったことを思い出す。
どんな美人になっているんだろう。
だが相談の場に現れたのは、冷たい灰銀の目した、自分よりも体格の良い雄竜で……。
──あ、これ、俺が……抱かれる方だ。
──あんな体格いいやつのあれ、挿入したら絶対壊れる!
──ごめんみんな、俺逃げる!
逃げる銀狐の行く末は……。
そして逃げる銀狐に竜は……。
白竜×銀狐の和風系異世界ファンタジー。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる