狼騎士は異世界の男巫女(のおまけ)を追跡中!

Kokonuca.

文字の大きさ
上 下
243 / 303

おまけ 119

しおりを挟む



「王族を連れて帰ってくるように人を送った。我々はここを離れるぞ、この地域は閉鎖だ」
「そんなっ!」

 どこまでも固く感情の籠らない言葉を発する前国王に、オレは思わず抗議の言葉を上げてしまう。

「人が流出すれば村は廃れるとおっしゃいました! ……なのに  」
「あんなモノの傍で健やかな生活が営めるとは思わぬ」

 背を向けた前国王がちらりと肩越しに視線をやった先には、恐竜が首をもたげたかのようなシルエットが幾本も立ち上がっていた。

「対策ができるようになるまでは人を近寄らせず、余計な刺激と餌を与えないように」
「待て! 俺がここから   っ」
「止めておけ、攻撃できたとして、周りの瘴気や魔物が避雷針代わりになるだけだろう」
「そん そんなことやってみねぇとわからねぇだろ!」
「下手に刺激して、あれらが村に雪崩込んだらどうする?」
「う……」

 怒鳴り返す言葉をことごとく冷静に返されて、ミロクはそれだけで酷い傷を負ったかのように弱弱しく項垂れる。

「第一、今、下手に撃ったらアレを持つ者に当たるぞ」
「…………っ」

 ぎり と奥歯を噛み締める音がこちらまで聞こえてくるようだった。
 ミロクは背を向けたままの前国王の方を見た後、山を見て今にも泣きそうな顔をして……

「かすが! 何かいい案はないのかっ! お前、そう言うの得意だろ!」

 頭上から喚かれて……かすが兄さんはわずかに眉間に皺を寄せてみせた。
 真っ直ぐに天を見上げる姿は、やはりいつも人間離れした美しさを見せて、かすが兄さんがこのまま突然不思議な力を使って魔人達を浄化してしまったりするんじゃないかと思わせる。

 山から吹く風が生暖かく、なのに隙間を縫うようにところどころ冷たい空気を含んでいて、その気持ちの悪さと空気の重さに皆が押し黙ってしまった。

 前国王の、「もう打つ手はない」の一言が怖くて、何か言葉を紡いて状況を好転させなければと思うのに、やはりオレは何も思い浮かばない……
 

「一つ、あります」


 鈴を転がしたような清涼な声は、台風の前のような不気味な空気をさっと切り裂く。
 決意を宿した瞳にはっきりと視線を向けられて、オレははっと息を飲んだ。
 


  ◆  ◆  ◆



 黒く、けれどしなやかな銀の光を宿す大剣は剣聖である母の得物だ。

 ただの銀ではなく、黒く光る特別な金属で作られたそれはこの世のもののどれよりも固く、しなやかで、そして重かった。
 残念ながらそれを振り回せるほどの体格にも膂力にも恵まれなかったために、母はそれを俺に譲ることはせずに、唯一その大剣を扱うことのできた弟子に託したのだけれど。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

phyr
BL
死にかけで放り出されていたところを拾ってくれたのが、俺の師匠。今まで出会ったどんな人間よりも強くて格好良くて、綺麗で優しい人だ。だからどんなに犬扱いされても、例え師匠にその気がなくても、絶対に俺がこの人を手に入れる。 家も名前もなかった弟子が、血筋も名声も一級品の師匠に焦がれて求めて、手に入れるお話。 ※このお話はムーンライトノベルズ様にも掲載しています。  第9回BL小説大賞にもエントリー済み。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

転生したらオメガだったんだけど!?

灰路 ゆうひ
BL
異世界転生って、ちょっとあこがれるよね~、なんて思ってたら、俺、転生しちゃったみたい。 しかも、小学校のころの自分に若返っただけかな~って思ってたら、オメガやベータやアルファっていう性別がある世界に転生したらしく、しかも俺は、オメガっていう希少種の性別に生まれたみたいで、は?俺がママになれるってどういうこと?しかも、親友の雅孝をはじめ、俺を見る目がなんだか妙な感じなんですけど。どうなってるの? ※本作はオメガバースの設定をお借りして制作しております。一部独自の解釈やアレンジが入ってしまう可能性があります。ご自衛下さいませ。

オメガ転生。

BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。 そして………… 気がつけば、男児の姿に… 双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね! 破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!

逃げる銀狐に追う白竜~いいなずけ竜のアレがあんなに大きいなんて聞いてません!~

結城星乃
BL
【執着年下攻め🐲×逃げる年上受け🦊】  愚者の森に住む銀狐の一族には、ある掟がある。 ──群れの長となる者は必ず真竜を娶って子を成し、真竜の加護を得ること──  長となる証である紋様を持って生まれてきた皓(こう)は、成竜となった番(つがい)の真竜と、婚儀の相談の為に顔合わせをすることになった。  番の真竜とは、幼竜の時に幾度か会っている。丸い目が綺羅綺羅していて、とても愛らしい白竜だった。この子が将来自分のお嫁さんになるんだと、胸が高鳴ったことを思い出す。  どんな美人になっているんだろう。  だが相談の場に現れたのは、冷たい灰銀の目した、自分よりも体格の良い雄竜で……。  ──あ、これ、俺が……抱かれる方だ。  ──あんな体格いいやつのあれ、挿入したら絶対壊れる!  ──ごめんみんな、俺逃げる!  逃げる銀狐の行く末は……。  そして逃げる銀狐に竜は……。  白竜×銀狐の和風系異世界ファンタジー。

処理中です...