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おまけ 116
しおりを挟む掌がぱっくりと切れているそこを直視することができず、ぎゅっと目に力を入れながら顔を背けて治療を耐える。
縫わないと駄目だと言われて、人の皮膚を布のように……? と想像しただけでぞっとする行為から逃げ出さないでいるのは、傍でかすが兄さんが反対側の手を握っているからだ。
「でもっそれまで一人で耐えるなんて……その間にないかあったらっ!」
クラドが幾ら剣を振り下ろしても、あの魔人の触手に敵わなかったことを思い出した。
あんな状態で……助けが来るまで耐えられるのか? もしくは助けが来たところで……
「 っ!」
悪い想像をしそうになって首を振る。
「もっと大勢の部隊を送るとかっ……もっと……」
そう言いかけてはっと口を引き結んだ。
それを願ってしまうならば、オレは一番にかすが兄さんに向かってくれと言うべき話だ。
……けれど……
「 っ……クラド様が、残られて……っ」
オレが言葉の先を変えたのに気付いたのか、かすが兄さんは押し黙るようにし俯いてしまった。
ゴトゥス山脈の大遠征で成果を出したはずのことが、今になってこう言う形で再び問題になって……かすが兄さんにかかるプレッシャーや、これから行うべきことを考えると、オレは安易に声をかけることができない。
弟のオレが「助けに行ってよ!」と言えばにっこりと微笑んで行ってくれるかもしれない。
でもそれはかすが兄さんに死地に行けと言っているようなものだし、結局オレは自分の伴侶のことを助けることのできない、ただ周りに守ってもらうだけの存在と言うことになる。
人に死ねと言うようなことを言っておいて、自分一人ここから見守るなんて……なんて虫の良すぎる話を言おうとしていたのか。
包帯が巻かれていく手を睨んで、それから傍に控えている兵士に着替えはありますかと尋ねた。
「私の服がある、手当が終わったらそれをはるひに 」
「違うんです、もっと動きやすい服を……っオレ、クラド様のところに戻ります」
「は⁉︎ 戻ったところで、できることなんかない!」
「……でも、囮になったり……この力を使えば浄化したり、いろいろできることがあると思います」
びっくりした表情をしながらも包帯を巻き終わったスティオンにお礼を言って立ち上がった。
「できることをします!」
「ヒロはどうするんだっ‼︎」
荒げた声に呼ばれた名前に思わず体がびくりと跳ねた。
考えないようにしていた名前を出されて、決心がぐらりと傾ぐのがわかる。
「ヒロは……はるひの帰りを待っているよ?」
縋るような声音で言われて、胸がぎゅっと握りつぶされるように痛んだ。
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