狼騎士は異世界の男巫女(のおまけ)を追跡中!

Kokonuca.

文字の大きさ
上 下
239 / 303

おまけ 115

しおりを挟む



 恐る恐る見上げたかすが兄さんは……

「  そんな」

 紙のような顔色でそれだけを呟いた。

「……この、浄化の力だけど……」

 そう言いながらオレはその水の玉のようなものを操って、沁み込むように右手を包み込んで触手につけられた黒い痕を消す。
 水のイメージで操る力がしみ込んで行くにしたがって、さらさらと崩れてシミは見えなくなってしまった。

「兄さんがオレにいつも聖別の水を飲ませてくれていたからじゃないかって思ってて」
「え?」
「それで、神様の力がいっぱいオレの中で溢れて使えちゃってるんじゃないかなって……考えたんだけど。どうかな?」
「どう  って……そん   」

 かすが兄さんが驚くのも無理はない。
 クラドですら直後は挙動がおかしかったんだから、自分一人だと思っていた当代巫女が二人もいるのかも……なんてびっくりするどころの話じゃないだろう。

「そ……れ、は……」


「  じゃあ、はるひはかすがの魔力タンクってことか?」


 ずいぶんと失礼な……と言うよりは、馴れ馴れしい言葉だとさっと辺りを見回してみると、宿の階段の上の手すりから年配の男が覗き込んでいる。
 白髪頭に筋骨隆々の姿は、紛れもない先々代巫女のミロクだ。

「もしくは二人目の巫女と言うことだろう」

 続いて聞こえてきた声にオレは反射的に背筋を伸ばした。
 ミロクの後ろから現れ、長い白と黒の尾を優雅に揺らしながら降りてくるのは前国王、その人だ。

 優雅な身のこなしは古い宿屋の階段には似合わず、場違いな美術品を飾ってしまったかのような違和感のある光景だった。

 けれど、以前見たすべてが優美な状態と言い難いのは、左目を覆う包帯と添え木のされている左足のためだ。

「…………どう思う?」
「俺が知るかよ」
「ではかすが、お前はどう見る?」

 振られた言葉に、かすが兄さんははっきりとわかるほどぎこちない笑みで返して、「神の御心は深すぎて、私の考えでは及びません」と口に出した。

「では、魔人は巫女を襲うのかもしれん、避難は際まで待つように」
「あ、危なくないですか⁉︎ それが正しいのかもわからないのに」
「一度流出した民は戻らない場合が多い」

 ちら……と青い瞳がオレを見て溜息を吐いているかのようにも見えた。

「民が戻らねばこの村は廃れる」

 そう言ってちょいちょいとオレの右手を長い白黒のしっぽで指し示すと、「手当を」と一言だけ言って降りかけていた階段を再び上がって行ってしまう。
 オレは、その場を引っ掻き回しただけのような前国王の言葉にぎゅっと眉をしかめた。





「あのっ……こんなことをしているより、クラド様の救出に向かってください!」
「大公閣下の救出には、対魔人戦の経験者達が向かってくれています。森ですれ違いましたでしょう?」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】元騎士は相棒の元剣闘士となんでも屋さん営業中

きよひ
BL
 ここはドラゴンや魔獣が住み、冒険者や魔術師が職業として存在する世界。  カズユキはある国のある領のある街で「なんでも屋」を営んでいた。  家庭教師に家業の手伝い、貴族の護衛に魔獣退治もなんでもござれ。  そんなある日、相棒のコウが気絶したオッドアイの少年、ミナトを連れて帰ってくる。  この話は、お互い想い合いながらも10年間硬直状態だったふたりが、純真な少年との関わりや事件によって動き出す物語。 ※コウ(黒髪長髪/褐色肌/青目/超高身長/無口美形)×カズユキ(金髪短髪/色白/赤目/高身長/美形)←ミナト(赤髪ベリーショート/金と黒のオッドアイ/細身で元気な15歳) ※受けのカズユキは性に奔放な設定のため、攻めのコウ以外との体の関係を仄めかす表現があります。 ※同性婚が認められている世界観です。

転生したらオメガだったんだけど!?

灰路 ゆうひ
BL
異世界転生って、ちょっとあこがれるよね~、なんて思ってたら、俺、転生しちゃったみたい。 しかも、小学校のころの自分に若返っただけかな~って思ってたら、オメガやベータやアルファっていう性別がある世界に転生したらしく、しかも俺は、オメガっていう希少種の性別に生まれたみたいで、は?俺がママになれるってどういうこと?しかも、親友の雅孝をはじめ、俺を見る目がなんだか妙な感じなんですけど。どうなってるの? ※本作はオメガバースの設定をお借りして制作しております。一部独自の解釈やアレンジが入ってしまう可能性があります。ご自衛下さいませ。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

藤枝蕗は逃げている

木村木下
BL
七歳の誕生日を目前に控えたある日、蕗は異世界へ迷い込んでしまった。十五まで生き延びたものの、育ててくれた貴族の家が襲撃され、一人息子である赤ん坊を抱えて逃げることに。なんとか子供を守りつつ王都で暮らしていた。が、守った主人、ローランは年を経るごとに美しくなり、十六で成人を迎えるころには春の女神もかくやという美しさに育ってしまった。しかも、王家から「末姫さまの忘れ形見」と迎えまで来る。 美形王子ローラン×育て親異世界人蕗 ムーンライトノベルズ様でも投稿しています

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

処理中です...