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おまけ 115
しおりを挟む恐る恐る見上げたかすが兄さんは……
「 そんな」
紙のような顔色でそれだけを呟いた。
「……この、浄化の力だけど……」
そう言いながらオレはその水の玉のようなものを操って、沁み込むように右手を包み込んで触手につけられた黒い痕を消す。
水のイメージで操る力がしみ込んで行くにしたがって、さらさらと崩れてシミは見えなくなってしまった。
「兄さんがオレにいつも聖別の水を飲ませてくれていたからじゃないかって思ってて」
「え?」
「それで、神様の力がいっぱいオレの中で溢れて使えちゃってるんじゃないかなって……考えたんだけど。どうかな?」
「どう って……そん 」
かすが兄さんが驚くのも無理はない。
クラドですら直後は挙動がおかしかったんだから、自分一人だと思っていた当代巫女が二人もいるのかも……なんてびっくりするどころの話じゃないだろう。
「そ……れ、は……」
「 じゃあ、はるひはかすがの魔力タンクってことか?」
ずいぶんと失礼な……と言うよりは、馴れ馴れしい言葉だとさっと辺りを見回してみると、宿の階段の上の手すりから年配の男が覗き込んでいる。
白髪頭に筋骨隆々の姿は、紛れもない先々代巫女のミロクだ。
「もしくは二人目の巫女と言うことだろう」
続いて聞こえてきた声にオレは反射的に背筋を伸ばした。
ミロクの後ろから現れ、長い白と黒の尾を優雅に揺らしながら降りてくるのは前国王、その人だ。
優雅な身のこなしは古い宿屋の階段には似合わず、場違いな美術品を飾ってしまったかのような違和感のある光景だった。
けれど、以前見たすべてが優美な状態と言い難いのは、左目を覆う包帯と添え木のされている左足のためだ。
「…………どう思う?」
「俺が知るかよ」
「ではかすが、お前はどう見る?」
振られた言葉に、かすが兄さんははっきりとわかるほどぎこちない笑みで返して、「神の御心は深すぎて、私の考えでは及びません」と口に出した。
「では、魔人は巫女を襲うのかもしれん、避難は際まで待つように」
「あ、危なくないですか⁉︎ それが正しいのかもわからないのに」
「一度流出した民は戻らない場合が多い」
ちら……と青い瞳がオレを見て溜息を吐いているかのようにも見えた。
「民が戻らねばこの村は廃れる」
そう言ってちょいちょいとオレの右手を長い白黒のしっぽで指し示すと、「手当を」と一言だけ言って降りかけていた階段を再び上がって行ってしまう。
オレは、その場を引っ掻き回しただけのような前国王の言葉にぎゅっと眉をしかめた。
「あのっ……こんなことをしているより、クラド様の救出に向かってください!」
「大公閣下の救出には、対魔人戦の経験者達が向かってくれています。森ですれ違いましたでしょう?」
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