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おまけ 113
しおりを挟む二、三段しかない階段とは言え、そんな暴挙をしたと言うことが信じられなくて驚くオレに、かすが兄さんは渾身の力を込めて飛びついてくる。
ふわりと香るいい匂いをまず感じて、それから腕の強さとか泣いてるせいで濡れていく服の感触だとか、あまりの現実のなさにそんなどうでもいい細かなことばかりが頭の中を回っていた。
「はる っ」
こうして泣かせるのは二度目だと思い出して、オレはかすが兄さんに迷惑ばかりかけているんだと思うとどうしようもない悲しい気持ちになって、素直に抱きしめ返すことができないままうつむく。
「巫女様、無礼を承知ではありますが、はるひ様の手の治療を」
本来ならば挨拶の口上を挟むべきなのに、スティオンはそれを省略して割り込んできた。
相手が相手ならば無礼と言われてもおかしくないことだと言うのに、怯えることなく真っ直ぐにかすが兄さんを見据える。
「治療? ……────っ!」
怖くて開くことのできなかった右手からは、止まりが悪いのかいまだに赤い血がジワリと滲んでいるのが分かり、それがかすが兄さんの見ている前でぽたんと雫になって地面に落ちた。
真っ黒なシミの滲む手は、見方によっては火の残る炭に手を突っ込んだんじゃないかと思われそうなほど黒く、そして血にまみれている。
「なっ……これは……食 っ」
その言葉を口に出したくなかったのか、かすが兄さんは言葉を途中で途絶えさせてから真っ青な顔を振った。
「わたくしには、はるひ様を捕食しようとしているように見えました。魔人が襲うのは巫女のみと言われていた事柄ですけれど、再考の余地がありそうです」
「た、食べ……捕食 」
オレが誘拐されたことまでは聞いていたんだろうけれど、こうして魔人に寄って食われそうになった……と言う事実は初めてだったんだろう。
かすが兄さんは酷く顔色を変えて、オレに大丈夫なのか、怪我は他にないのかを口早にぶつぶつと問いかけながら、その合間に「どうしてはるひが」と言葉を漏らした。
瘴気や魔物は巫女の聖なる力に触れてしまうと消えてしまう、だから瘴気や魔物が巫女を襲おうとすることはまれだったけれど、魔人は瘴気達と性質がまったく違うため、襲い掛かるのは獣人や只人ではなく異界から召喚された巫女のみだった。
でも、オレは召喚に引っ付いて呼ばれたおまけの存在でしかなくて……
「わかりません、魔人の生態を見誤っていたのかもしれません、魔人は巫女以外も襲う可能性があります」
スティオンの声は固かった。
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