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おまけ 111
しおりを挟むガクガクと揺れる視界の中だと言うのに、生き生きとした目がオレを見てにっこりと微笑む。
「でもっクラド様がっ」
「クラドの隊が向かっているので、ご安心ください」
「ぃっ……」
オレを抱えてスティオンは山を駆け下りているのはわかったけれど、逆にその振動で右手はズキズキと大きく痛みを訴えてくる。
エステスに切られた掌の傷を直視することができずに握り込んでしまっていたけれど、それでも覆い隠せないほど手は黒いシミに染まっていて……
「なんてこと……早急に降りて治療いたします、ですので今しばらくご辛抱を!」
スティオンはありえないほどの速さで山を駆け下りてはいたが、絞り出す声の端々に息切れが顔を覗かせる。
それでも速度を緩めることなく、オレを抱えて駆け抜ける姿は医師と言うよりも一人の騎士のようで……
良くしてはくれているけれど、オレとはあまりいい関係ではないと思っているせいか滝のように汗を流して走っている姿にぐっと唇を噛んだ。
いつも人を食ったかのような、気だるげで退廃的な雰囲気を滲ませている姿とは違う姿に困惑はしたけれど、これ以上走り続けるスティオンに声をかけることができずにぎゅっと体に力を入れる。
「困惑されてますね? わたくしをここに寄越したのは陛下です」
それが答えになると思っているようにスティオンはにっこりと笑うと、岩場を飛び越えるようにして突き進んでいく。
やがてその先に、騎士団の遠征服を身に着けた人物を見つけてスティオンはゆっくりと速度を下ろした。
「所属を」
「クラド・リオプス・ラ・ロニフ・バトラクス大公閣下、直属部隊『漆黒』のテルスです!」
胸元の略章を見せながら淀みなく答える若い騎士に、スティオンは大仰に頷く。
「はるひ様を。お怪我をなさっているので細心の注意を払え、これ以上、針ほどの怪我もさせるな!」
「はいっ」
びしっと腹から声を出して敬礼したテルスにスティオンは俺を預ける。
「ここからは交代ではるひ様をお連れします、ご不快な思いをさせて申し訳ありません」
スティオンは真剣なまなざしでそう言いつつも走り出していて、テルスはその後を追うようにして駆け出す。
森の中で翻る薄茶の髪を見ながら、どうして突然スティオンが現れたのかとようやく頭が回り出したことに気がついた。
「十時の方向! そのまま進め!」
前を走るスティオンが急に怒鳴り上げたと思った瞬間、自分達と入れ違いになるように木々を擦り抜けて駆け上がって行く一団が遠くに見える。
スティオンの言葉が彼らに向けられたのは確かだと思うのだけれど、今の俺にはそれがどの方向なのか判断がつかなかった。
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